マウスピース型矯正で【出っ歯】になる⁉️
マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】治療後に「出っ歯になった」「口が閉じれなくなった」という患者さんのセカンドオピニオンを最近何回か行いました。
マウスピース型矯正装置は適応症選択が重要です。このような事例が増えてしまうと患者さんのイメージが「マウスピース型矯正=治らない」につながってしまいます。なぜこのような事が起こるか説明していきます。
※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
目次
マウスピース型矯正治療で出っ歯になる事例
マウスピース型矯正装置で歯を抜かずに歯並びのでこぼこを治した患者さんの中には、「矯正治療が進むにつれて出っ歯になってきた」と感じる方がいます。これは、前歯の歯並びが前開きに広がりながら並んでいった結果です。
矯正治療で歯を並べるには隙間(スペース)が必要です。抜歯以外の方法で歯を並べるこのスペースを確保するには、拡大・後方移動・IPRといった治療方針を選択します。これらを上手く併用する事で前歯を前に出さずに矯正治療を行う事が可能となります。
ですが、それでも獲得できるスペースには限界があります。スペースの不足量が大きい場合は、前歯が前方に移動しながら並んでいき、一定量を超えると口元の見た目が変化してくるため、患者さんが気になり始めます。
出っ歯になる事による弊害
出っ歯傾向になっていくと、前歯に接触している唇が前方に突出していきます。その結果、前歯が邪魔で上手く口が閉じられなくなったり、知人に「顔が変わった」と言われるようになってしまいます。
そして、口を閉じると顎先にシワができるようになり、常時口が開いた状態になるため口呼吸になってきます。ここまでくると、上下顎前突(口ゴボ)という状態です。歯茎が薄い方の場合は、前歯の前方拡大と共に歯根露出といって歯茎から歯根部が出てしまう事もあります。
前歯が前に出る原因は何か?
当初の予測と違う歯並びになってしまうのは、最初の治療計画の誤りや、患者さんの矯正装置の使用不足などが原因です。後方移動・側方拡大・IPRなどの方針を併用しても、絶対成功する訳ではありません。スペース確保の効果が上手く出なかった部分は、前方拡大という結果で補われてしまう事もあります。
また、予測通りに歯が動いていたとしても、担当医と患者さんで治療開始前のゴール地点の共有がなされていない場合にも起こります。これは前歯の前後的位置や横顔というのは、審美的な要素も含まれているからです。感性の違いで、同じ歯並びでも「出っ歯」と思う方とそう思わない方がいます。
前方拡大方針が悪いのか?
これは、「前方拡大」させる治療計画が悪いと言っている訳ではありません。前歯が内向きに倒れている過蓋咬合(深噛み)の場合や、上の前歯が内側に引っ込んでいる反対咬合(受け口)の場合は、あえて歯並びを広げながら前方に出す事もあります。ミドルエイジの方の場合は、ほうれい線の発生を防止するために、あえて前歯を前方に出す事もあります。
ですが、治療開始前の時点であごが小さく歯が大きい方には拡大方針はお勧めしません。このようなケースは、少し前歯を出すだけでも、口が閉じられなくなり、横顔が変化してしまうからです。一般的には抜歯矯正治療が適応になります。
マウスピース型装置の抜歯矯正は治療結果が不安定
ところで、ワイヤー矯正治療で、「出っ歯になった」という相談はあまり聞きません。これはワイヤー治療は抜歯を併用して前歯を後ろに引っ込める治療方針が得意だからです。
一方、マウスピース型矯正装置の抜歯矯正治療は、まだまだ治療結果が不安定です。前歯を後ろに引っ張るための固定源が弱いため、一定の割合で奥歯の倒れ込みが発生してしまいます。その結果、リカバリーになるリスクが高く、担当医もマウスピース型装置での抜歯矯正治療方針は避ける傾向にあります。治療方針に迷ったらリカバリーリスクの少ない非抜歯治療方針が選択されていってしまうのです。よって、矯正装置から治療方針が決まってしまうとこのような事例が発生しまうのです。
本当は、矯正装置で治療方針を決める事は望ましい事ではないのですが、まだまだ適応症があるシステムであるマウスピース型矯正装置では仕方のない事でもあります。
リカバリーはワイヤー矯正に
マウスピース型矯正治療で「出っ歯」になると、まず患者さんは担当医に「前歯を引っ込めてほしい」と相談します。そうすると、その対応は3つのパターンに別れます。
①改善の手立てがない事の説明を受ける
②親知らず抜歯・IPR・スクリューを使用して引っ込める
③小臼歯抜歯をしてワイヤー矯正に変更する
マウスピース型矯正装置しか取り扱っていない歯科医院の場合は、①の方針になる事が多いです。②の方針は元の前歯の位置まで、ぎりぎり戻るか戻らないかです。よって、根本解決は③の小臼歯抜歯方針しかない事が多いです。
この方針をとる場合は、患者さんにとっては辛いところですがマウスピースでの矯正治療を諦めてワイヤー装置に変更する事をお勧めします。前述したように、マウスピース型矯正装置による抜歯矯正の成功率は100%ではありません。やはり、再治療ではリスクを取らない治療方針の方が患者さんにとっても安全です。
残念ながら、当院で矯正治療を始めた患者さんにも、このようにマウスピース型矯正装置から小臼歯抜歯を併用したワイヤー矯正に変更された患者さんはいます。ですが、治療期間を無駄にしないよう患者さんが気になり始めたら、すぐに相談してもらい方針変更の決断をするようにしています。決断が遅くなるとその分、患者さんの大切な時間を失ってしまうからです。
ワイヤー矯正による再治療例
再治療について1症例説明していきます。患者さんは、他院で2年間マウスピース型矯正治療を受け、治療終盤で出っ歯になっている事を気にして当院に来られました。口の中をみると、前方拡大による副作用で左上犬歯に歯根露出が発生しています。
既に2年の治療期間を要しているため、できるだけ早めに小臼歯抜歯によるワイヤー矯正治療に変更する事をお勧めし、通院していた歯科医院から転院してきました。
その後、当院で2年間再治療を行った事で前歯が引っ込み、口元のバランスが良くなりました。実は、狙って治した訳ではないのですが、左上の犬歯の歯根露出も回復しました。そのかわりに長期間の矯正治療で歯根吸収が少し発生してしまいました。
やはり、前院から合わせて4年間の矯正治療は長いです。治療方針の変更は早めに行った方が良いと言えます。
<症例概要>
主訴:前歯を引っ込めたい
年齢・性別:20代女性
症状:上下顎前歯唇側傾斜・左上犬歯歯根露出
治療方針:抜歯空隙の閉鎖(中等度固定)
治療装置:表側矯正装置
抜歯:上下第一小臼歯
治療期間:2年1か月
リテーナー:上下プレートタイプ+クリアタタイプ+フィックスタイプ
治療費用:770,000(+税) 【転院特別費用】
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮