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フリーランスの矯正歯科医で治療を受けるメリットとデメリット

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

フリーランス矯正医と矯正専門医

 近年、「フリーランスの外科医」という某テレビドラマが流行りました。そして、働き方改革の延長でフリーランスという働き方にも注目がされてきています。矯正歯科にもフリーランスで仕事をしている歯科医師がいます。今回は、フリーランスの矯正歯科医で治療を受けるメリット・デメリットを説明します。

矯正歯科医院の種類

 矯正歯科を標榜している歯科医院には大きく2つに分かれます。一つは、院長が矯正歯科医であり矯正診療しか行わない専門クリニックです。ほとんどが、一般歯科診療は行っていません。当院もここに該当します。

 もう一つは、普段は一般歯科診療を行っており矯正診療も行っている医院になります。さらに、「矯正診療を誰が行うか」でさらに分かれます。院長もしくは常勤の歯科医師が矯正診療を行うか、外部からの非常勤の歯科医師が行うかです。後者のようなケースを歯科業界ではフリーランス矯正歯科医と呼びます。

フリーランス矯正医
<矯正歯科医の図>

フリーランス矯正歯科医とは

 基本的に矯正歯科医は、大学病院で矯正歯科の研修を受けた後、日本矯正歯科学会認定医を取得する流れが多いです。この認定医受験資格を得るためには、6年制の歯科大学卒業後に、歯科医師臨床研修+矯正歯科基礎研修+矯正歯科臨床研修が必要になります。ここまでで最短で7年間が必要になります。ですから、認定医を保持しているフリーランスの矯正歯科医は30代の先生である事が多いです。

フリーランス矯正医のなり方
<矯正歯科医の研修は時間がかかる>

 こうして臨床経験も上がってくる認定医取得前後に矯正歯科のニーズが高い一般歯科医院から雇用されたりパートナー契約を結び、月何回か診療に行きます。1つの歯科医院しか出張していない矯正歯科医は少なく、3医院以上掛け持ちをしている事が多いです。

 30代後半になると矯正歯科医の開業率が急に上がります。この頃になると臨床技術も高くなるため、最良の診療ができる環境を作りたいと考えます。また、歯科医師自身のライフスタイルも変化する事が影響しています。

 40代の先生の場合は、すでに自分の歯科医院を別の場所に持っていて、スタッフと共に出張診療している事もあります。この場合、厳密にはフリーランスではなくなります。

フリーランス矯正歯科医のメリット

 かかりつけ歯科医院で歯並びや噛み合わせの事を相談すると、矯正専門歯科を紹介されるか、フリーランス矯正歯科医の診察を勧められます。「一度、矯正歯科診療日に専門の先生から詳しくお話しを聞いてみてはいかがですか?」というような感じです。ここではフリーランス矯正歯科医委託型のメリットを矯正専門医院型と比較して説明します。

矯正歯科医から毎回処置を受けられる

 当たり前の事かと思われるかもしれませんが、フリーランス型は毎回担当医がほとんどの処置をしてくれます。一方、矯正専門型では担当医は処置の指示と確認が中心になります。矯正歯科では分業制が進んでいるため、歯科医師の管理下で歯科衛生士が施術可能な処置が多くあるからです。

 誰から矯正処置受けるかを重要視している患者さんは、この点は重要なポイントです。ほとんどの処置を矯正歯科医から受けたいという患者さんは、フリーランス型を選択した方が良いと考えられます。

<ワイヤーの着脱は歯科衛生士が行う事が多い>

一般歯科との連携をしている

 矯正歯科治療前後で一般歯科の受診が必要になる事はあります。治療前の抜歯、治療中の虫歯の治療、治療後の歯の審美治療など色々とあります。フリーランス型の場合は、担当医と院長の間でコミュニケーションが取れている事が多くスムーズに治療が進みます。また、予約の混雑状況によりますが、同日に診療を受ける事も可能なので便利です。

 一方、矯正専門型の場合は一般歯科処置は外部歯科医院に委託になってしまいます。提携している歯科医院ではない場合は意思疎通が上手く行かない事もあり、確認のために余計に診療回数が増えてしまう事もあります。

 歯の欠損が多い方、重度の歯周病の方、審美歯科処置を矯正治療と並行して進めていく包括的歯科診療(インターディシプリナリー)は、一般歯科治療との連携が上手く行きやすいフリーランス型の方が良いと言えます。

包括的歯科診療(インターディシプリナリー)はフリーランスの方が良い
<補綴計画がある矯正治療は一般歯科の方が良い>

フリーランスの矯正歯科医のデメリット

 矯正歯科医からていねいな処置が受けられ、一般歯科医の協力を受けやすいフリーランス型ですが、デメリットもあります。

予約とコミュニケーションが取りづらい

 フリーランス型は、月の診療回数が大体1〜4回と決まっています。また、診療は矯正歯科医1人で行うため、同時に何人もの患者を診る事できません。ですから、そもそも診療予約枠が少なく多くの患者さんを治療できないシステムです。ただでさえ診療日が少ない中、もともと土曜や平日夕方の診察希望が多いため患者さんは医院にある程度都合を合わせて通院しなくてはなりません。

 また、毎回の診療時間も短く、治療の進行についての細かい相談する時間が取る事が難しいです。次の予約までに、困った事があっても担当医が在中していない日もあるため、自己解決しなくてはならなくなります。

 このようにフリーランス型は、コミュニケーションより診療処置内容重視になってしまいます。この部分を心配される方は、困った時に連絡が取りやすい矯正専門型の方が良いと考えられます。

矯正専門でのカウンセリング
<一般歯科では落ちついて話せる相談室がない>

積極的処置が難しい

 フリーランス型の矯正歯科診療の場合、一番気をつける事はできるだけ応急処置を少なくする事です。担当医が在中していない日の装置トラブルを避けるためです。ですから、難易度が高く処置時間がかかり、その後に頻繁にモニタリングが必要な治療方法はリスクが高いため避けられる傾向にあります。良くも悪くもクラシックで安全な治療方法になりやすいため、矯正専門型と比較して治療期間も20〜30%長い傾向にあります。難症例への対処も難しくなります。当然、審美的な矯正装置や、まだ実験段階の治療方法などは対応できない事が多いです。

<できるだけ安全な治療方針を選択>

担当医が変わる可能性がある

 最初に説明したように、最終的に開業せずにフリーランスでいつづける矯正歯科医はわずかです。ほとんどが、どこかのタイミングで自分の医院を開業します。そうなると出張診療できる日にちが限られてしまうため担当医の引き継ぎが行われます。

矯正診療内容の引き継ぎ
<診療内容の引継ぎは大変>

 ある日から若い先生と2人での診療体制になり、少し経過したところで「来月から担当医が変わります」と説明を受けます。患者さんにとっては、新しい矯正歯科医とまた1からコミュニケーションを取らなくてはならないため、ストレスになる事があります。稀なケースですが開業先が近い場合は、転院できる事もあります。

 ただ、矯正専門型も院長は変わらなくても、処置を積極的に行ってくれるスタッフが入退職する事によって、同じような状態になる事はあります。

矯正専門型かフリーランス型か選び方

 矯正治療は一度開始してしまうと、治療途中の転院は難しいです。初診相談では治療方法以外に、診療システムについても合っているか確認しておく事が大切です。

「矯正歯科医からの処置」「一般歯科との連携」を重視する場合はフリーランス型がお勧めです。

○「コミュニケーション」
「治療方法の種類」を重視する場合は矯正専門型をお勧めします。

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