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マウスピース矯正後に奥歯に食べ物がつまる理由

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

インビザライン矯正後に食べ物がつまる問題

 マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法適応外】の治療後の患者さんからよく聞く悩みとして「奥歯に食べ物がよくつまる」というのがあります。矯正治療を行うことで歯並びはきれいに整ったはずなのに、以前より食べ物が歯の間につまるようになってしまったというのは不思議なことですが、決して失敗というわけでもありません。これはブラケット矯正装置でもあることで、大きく分類すると、隣り合う歯同士には「隙間がない」場合と「わずかに隙間がある」場合に分けられます。これについて解説していきます。

隙間はないケース

 こちらは、歯同士は接しているのですが、食べ物がつまりやすいといったケースです。どちらかといえば、治療後すぐはこちら側が原因であることが多いです。

奥歯の鼓型空隙の増大

鼓型空隙の増大により食べ物がつまる

 奥歯に食べ物がつまりやすい理由の圧倒的な1位はこれです。隣り合う歯と歯茎との間にある三角形の隙間を鼓型空隙(こけいくうげき)とも呼ぶのですが、この部分が大きくなることで食べ物がつまりやすくなります。「奥歯のブラックトライアングル」のようなイメージです。不正咬合の方の奥歯は前方に倒れていることが多く、これを後方にアップライトさせることで、鼓型空隙が増大してしまうのです。また、矯正治療の副作用による歯肉退縮やエイジングによる歯茎の減少も鼓型空隙を大きくします。矯正治療後すぐは歯茎が多少腫れているのですが、しはらく経っての腫れがひくことで、さらに鼓型空隙が大きくなることもあります。

コンタクトのずれ

コンタクトのズレにより食べ物がつまる

 これは奥歯の修復が多い方に発生します。治療前から入っている修復物は、その時の歯並びに合わせて作成されています。よって、矯正後に歯の位置が移動することで隣り合う歯のコンタクト(接触点)や接触面積が変わり、食べ物がつまりやすくなるというものです。2次う蝕といって修復物の境目が虫歯になっていたり、修復物が破損していることが原因であることもあります。


歯の動揺が残っている

歯の動揺が残り歯がつまる

 矯正治療中は歯根と骨と間に歯根膜と呼ばれる膜が開いており、歯は多少横揺れするに状態なっています。ふつうは保定期間になって1〜2か月程度経つと揺れは治まってきます。ですが、くいしばりにより歯に常に強い力がかかっている方や、軽度の歯周病がある方は、矯正治療後もこの揺れが治まってこないことがあります。その結果、食べものがつまることがあります。

わずかに隙間が開いているケース

 矯正治療を終わる際は隣り合う歯同士の隙間はない状態を確認して終わります。ですが、治療を終了してまもなくわずかに隙間が開いていくことがあります。実は隙間がわずかな時が一番繊維質の食べ物などがはさまりやすくなります。隙間がわずかに開く原因は以下になります。

IPRの空隙が少し残っている

IPRによるすきまが残っている

 マウスピース型矯正治療でよく行う歯の側面を研磨するIPRは、歯が動揺するため正確には行うことはできません。場合によって設定量より多くの隙間を作ってしまうことがあります。治療計画より余分にIPRが施行されてしまうと、隙間として残ってしまいます。ただ、0.1mm以下のわずかな隙間であるため治療終了時には気がつかないことがあります。

抜歯空隙が開いてきている

抜歯空隙が開く

 矯正治療では小臼歯と呼ばれる歯を抜歯することが多いのですが、抜歯スペースの閉鎖には歯根の移動量が多く必要になります。特に最後の0.5〜1mmはなかなか閉じてきません。やっとスペースが閉じたと思っても、歯根がまだ動いておらずマウスピースの装着をやめると開いてきてしまうことがあります。

リテーナーの使用不足により後戻り

リテーナーの使用不足で隙間が開く例

 矯正治療後にはリテーナーの使用が必須です。この使用時間が不足すると元の位置に歯が戻ろうとするためIPRや抜歯を行った部位のスペースが開いてくることがあります。 これは残念ながら、矯正治療を行なって数年経ってから、リテーナーを使用しなくなってからも発生することがあります。
 特に、抜歯を併用して前歯を大きく後ろに後退させた症例の場合は、リテーナーの装着時間が少なくなるだけでIPRや抜歯した部分が後戻りしようと開いてきます。

奥歯の隙間の解消方法

 鼓型空隙が大きい場合は残念ながら、解消方法はありません。修復物が形態が悪い場合は、再作成することで多少良くすることはできます。歯列にスペースがある場合は、再矯正治療となります。奥歯の軽度のスペースの場合はマウスピース型矯正装置などでも可能ですが、抜歯空隙は開きはブラケット装置による再矯正治療が必要になります。

 マウスピース矯正後に奥歯に食べ物がつまることはある程度は矯正治療による副作用と考えていただきますと良いかと思います。

まとめ

 矯正治療後、特にマウスピース型矯正で奥歯に食べ物がつまりやすくなる原因は主に2つあります。1つは隙間がないケースで、奥歯の鼓型空隙の増大やコンタクトのずれが原因です。もう1つはわずかに隙間が開いているケースで、IPRの空隙残存や抜歯空隙の再開、リテーナー使用不足による後戻りが原因です。これらは矯正治療の副作用とも言え、完全な解消は難しいものの、一部は再矯正や修復物の再作成で改善できます。

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