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マウスピース型矯正と楽器演奏の両立は可能か?【現実的な課題と対策】

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

インビザライン矯正と楽器演奏

 矯正治療を検討している方で、学校のクラブや仕事で楽器演奏をしている場合、矯正装置装着による影響が心配になります。実際、ブラケット矯正治療を行なっている患者さんには一定の割合で演奏が難しくなり矯正治療を中断する方もいます。そこで、「ワイヤーがつかないインビザライン(薬機法対象外)などのマウスピース型矯正装置であれば、治療中も楽器演奏に支障がないのではないか」という質問がありましたので、当院の事例から現実的に解説していきます。

一番演奏に影響が出るのは菅楽器

 実は、インビザライン(薬機法対象外)などのマウスピース型矯正治療でも、様々な楽器の演奏に影響を与えることがあります。どんな楽器を演奏するにも、適切な姿勢と高い集中力が必要になるため、打楽器や弦楽器など、直接矯正装置が触れない楽器も影響を及ぼします。しかし、一番影響が出るのは管楽器になります。これはマウスピースを装着することで、舌の位置や唇の動きが変化し、音の生成と音質に影響が出るからです。管楽器は、リップリードなど唇を振動させて音を出す金管楽器と、リードなど唇以外の振動で発音される木管楽器があります。以下に詳しく説明していきます。

インビザライン治療で一番演奏に影響が出るのは菅楽器
  • 金管楽器:トランペット・トロンボーン・ホルン
  • 木管楽器:フルート・クラリネット・サックス

エンブシュアへの影響

 音の生成は、マウスピース型矯正装置の装着により唇の形や位置が微妙に変化し、楽器のマウスピースとの接触が変わることで、音の立ち上がりや音質に影響が出ることがあります。また、舌の動きが制限されることで、アーティキュレーションやスタッカートなどの技法において、クリアな音の出し分けが難しくなる場合があります。

エンブシュアへの影響

音程への影響

 音程に関しては、マウスピース型矯正装置によって口腔内の空間が変化することで、特に高音域や低音域の音程が不安定になることがあります。さらに、口の中の感覚が変わることで、微妙なピッチの調整が困難になることがあります。

音程への影響

息の制御

 息の制御についても影響が見られます。口の形状が変わることで息の流れが変化し、特に長いフレーズや強弱の表現に影響が出ることがあります。また、マウスピース型矯正装置と歯の間から息が漏れやすくなり、効率的な息の使い方が難しくなることがあります。

息の制御

演奏時の不快感

 演奏時の不快感も無視できません。長時間の演奏により、マウスピース型矯正装置により口の中が擦れて痛みや不快感を感じることがあります。さらに、異物があることで唾液の分泌が増え、演奏中の唾液管理が難しくなる場合もあります。

演奏時の不快感

マウスピース型矯正装置を装着時の演奏のコツ

 インビザライン(薬機法対象外)などマウスピース型矯正装置治療を受けながら楽器演奏を続ける方々に向けて、実践的なアドバイスを説明します。適切なアプローチを取ることで、その影響を最小限に抑え、演奏技術を維持・向上させることができます。

ゆっくりと段階的に慣れていく

 マウスピース型矯正装置を装着して初めて楽器を演奏するとき、違和感を感じるのは当然のことです。この時、最も重要なのは、焦らずにゆっくりと適応していくことです。楽器の演奏は段階的な適応を心がけ、最初の1週間は1日10分程度の短時間練習から始めるのが良いです。その後、違和感や痛みがなければ、1週間ごとに練習時間を少しずつ延ばしていくことをお勧めします。目標としては、1か月で通常の練習時間に戻れることを目指しますが、個人差が大きいので無理はせず、自分の体調をみながら慎重に進めていくことが大切になります。このように時間をかけてアプローチすることで、マウスピース型矯正装着を装着した状態での演奏に徐々に慣れていくことができます。最終的には違和感なく演奏できるよう目指していきます。このようにマウスピース型矯正治療を行いながら演奏をしていくには時間を要すため、余裕がない場合は、オフシーズンから矯正治療を開始をすることが望ましいです。

発音の練習

 管楽を器奏される方には、マウスピース型矯正装置の影響を特に顕著に感じられる可能性があり、特別な注意と練習が必要となります。まずはロングトーンの練習に重点を置きます。これは安定した音を保つことに集中し、マウスピース装着時の新しい息の流れに慣れるのに役立ちます。次に、スケール練習を行います。この際、ゆっくりとしたテンポから始め、音程の正確さに特に注意を払うことが大切です。さらに、アーティキュレーション練習も重要です。タンギングやスラーなど、様々な奏法を意識的に練習することで、マウスピース型矯正装着の装着下での技術を向上させることができます。

 この発音や音程の基本的な練習は特に重要であり、ていねいに練習することで、マウスピース型矯正装置の装着時でも自然な演奏ができます。十分な時間を確保し、忍耐強く継続的に取り組むことが、この過程での成功の鍵です。

体調確認の重要性

 演奏中は、常に自分の体の状態に細心の注意を払う必要があります。このため、定期的なセルフチェックを習慣化することをお勧めします。具体的には、まず痛みや不快感がないかを確認しましょう。口やあご、歯茎などに違和感が、重要なシグナルになります。

 次に、通常より疲れやすくなっていないかを確認します。マウスピース装着による微妙な変化が、予想以上に体力を消耗させている可能性があります。さらに、音色や音程に著しい変化が生じていないかにも注意を払いましょう。これらの変化は、マウスピース装置装着が演奏に影響を与えている証拠かもしれません。

 これらの症状のいずれかが継続して見られる場合は、適切な対応が必要です。まずは練習量を一時的に減らすことを検討しましょう。それでも改善が見られない場合は、担当の矯正歯科医に相談し、マウスピース型矯正治療と演奏活動の両立できるような方法を模索する必要があります。

柔軟な対応と妥協も必要

 プロの演奏家や音楽学生にとって、重要な演奏会録音は今後のキャリアを大きく左右する可能性があります。このような重要な場面では、最高のパフォーマンスを発揮するために、柔軟な対応が必要となります。そのため、一時的にマウスピース型矯正装置を外すことも一つの選択肢として考えられます。

 ただし、いくつか気をつけなくてはないことがあります。まず、演奏の数時間前にマウスピースを外すことをお勧めします。これにより演奏に最適な環境を整えることができます。次に、演奏や録音が終了したら、できるだけ速やかにマウスピースを再装着することが重要です。これは、治療の進行に影響が出ないようにするためであり、頻繁に行ってはなりません。

 また、マウスピース型矯正治療中に演奏に関する問題が生じた場合は、早期に担当の矯正歯科医とよく相談する必要があります。演奏活動と治療の両立が難しい場合には、治療計画の見直しを行います。治療のペースを調整したり、特定の期間は装着時間を変更したりするなど、演奏スケジュールに合わせた柔軟な対応を検討してくれる可能性があります。例えば、治療期間は延長する可能性はありますが、使用時間を一定期間、軽減し演奏への影響を減らすなどがあります。ただし、自己判断で行ってはなりません。

矯正歯科治療と音楽キャリアの二者択一?

 困難さの程度は、楽器の種類、矯正装置の種類、矯正の程度によって大きく異なります。ある程度の忍耐は必要になってきますが、それ以外にも適応力や前向きな態度も成功の鍵となります。短期的には困難を伴いますが、長期的には多くの演奏者が適応に成功しています。成功のためには、段階的なアプローチと柔軟な対応が重要です。完全に問題なく両立できるわけではありませんが、適切な戦略と心構えがあれば、十分に可能です。しかし、全ての方が器用に行えるとは限りません。矯正治療は、いくつになっても開始することは可能です、演奏家としてのキャリアをみて治療開始時期を決めることが一番のポイントかと考えます。

まとめ

 楽器演奏者がマウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】を使用する際、特に管楽器演奏者への影響が大きく、音の生成、音程、息の制御に課題が生じる可能性があります。対策として は、段階的な練習、発音練習の重視、体調確認の習慣化が推奨されています。重要な演奏会前には一時的に装置を外すなど柔軟な対応も必要です。ただし、自己判断は避け、矯正歯科医と相談しながら進めることが重要です。最終的には、個人の適応力や前向きな姿勢が成功の鍵となり、演奏キャリアと矯正治療の両立は可能です。

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