4番ではなく治療歯の5番を抜歯して矯正治療ができないか?
日本人は歯並びに強い不揃いや出っ歯傾向があるため、半分以上のケースが抜歯を併用した矯正治療になります。抜歯部位で一番オーソドックスなのは、前から数えて4番目の歯である第一小臼歯【4番】です。4番は歯列のちょうど真ん中の歯であり、抜歯スペースの閉鎖量を細かく調整できます。他に制約条件がなければ、この4番が矯正治療のために抜歯される歯として一番多く選択されます。
※少し難しい専門的内容が含まれています。
4番の一つ後ろには、第二小臼歯【5番】があります。普通は4番より奥にある5番は歯磨きもしづらく虫歯になっている事も多いです。既に失活歯(しっかつし)といって虫歯の治療で神経まで取ってしまっている事もあります。そうすると4番ではなく、歯の寿命が短いと予測されるこの5番の方を抜歯して欲しいと患者さんから希望されます。
しかし、5番抜歯の矯正治療には適応症があり、全てのケースで4番抜歯を5番抜歯に変更する事はできません。
目次
5番抜歯すると前歯の引っ込む量が変わる
出っ歯症状の矯正治療の場合、小臼歯を抜歯して得られたスペースに突出している前歯を後ろに引っこめます。実はその際、4番と5番抜歯で治療結果が異なってきます。4番と異なり5番抜歯は、前歯から犬歯までの6前歯以外に4番も後ろ引っ張らなくてはなりません。単純に後ろへ引っ込める歯数が増える分、治療期間は長くなっていきます。
<4番抜歯の方が前歯が引っ張れる>
さらに、抜歯矯正治療は前歯と奥歯の引っ張り合いで歯を抜いたスペースを閉じて行きます。5番抜歯は、後ろの奥歯が2本と少なくなるため前歯を引くための固定源が弱くなり、前歯を引っ込める量が少なくなってしまう事があります。結局、前歯が引っ込まない替わりに、奥歯が手前に移動してしまう可能性が高まりまるという事です。
小さめの5番の場合は注意
もともと横幅が小さい矮小歯の5番や、虫歯治療後に小さめの被せものやさし歯となった5番は、抜歯対象になりやすいです。ですが、小さい5番の場合、抜歯して得られるスペースも小さくなる事に注意しなくてはなりません。治療歯を減らす目的で抜歯する場合は良いのですが、歯を並べるスペース獲得目的でのこういった5番抜歯は効果がありません。
<横幅が短い小さめの5番の例>
5番抜歯の適応症
上記で説明したように、前歯を後ろに引っ込める治療において5番抜歯は不利になる傾向にあるのですが、でこぼこの歯並び治療においては、5番抜歯の方が4番より有利なケースもあります。いくつか説明していきます。
八重歯の場合
八重歯がある場合は、前歯は前に出ておらず、側方歯のみが全体的に前方に倒れているケースが多く、5番抜歯でも上手く行く事があります。前歯を後ろに引っこめていかないため、奥歯に強い固定源が必要ありません。このようなケースは抜歯したスペースもすぐに閉じ、治療期間も短い傾向にあります。
<八重歯の場合は傾斜移動で5番抜歯でも簡単に改善>
転位歯の場合
5番が転位歯といって歯並びから内外に逸脱してしまっているケースは、5番を抜歯してしまった方が、治療期間は短くなります。また、抜歯した後のスペースも少なく歯の移動も割と簡単です。
<下5番の内側転位>
正中線がズレている場合
歯並びの正中線が左右にズレている場合は、片方のみ5番抜歯を行う事があります。これは、わざとズレている側を5番抜歯にする事で、前歯の左右に引っ張る量を調整し、上下の歯並びの正中線を一致させるために行います。
<5番は歯のサイズが大きく変わる場所>
適応症でない場合の5番抜歯はどうなる?
上記のような5番抜歯適応症に、たまたま5番が虫歯の治療歯だった場合は、非常に上手く行きます。ですが、ドンピシャで治療歯の5番が抜歯対象に当てはまるケースはそう多くはありません。それでも患者さんは、できれば治療歯の5番抜歯を希望される事もありますが、この場合は以下の注意点があります。
治療期間の延長
5番抜歯の場合は、前歯と一緒に後ろに移動させる歯が増えるため、治療期間が長くなる傾向があります。特に下5番抜歯の場合は、あご骨の形が急に細くなるところであり、4番抜歯より奥歯の移動に時間がかかります。
<5番は歯のサイズが大きく変わる場所>
治療結果の妥協
5番抜歯の場合、奥歯の固定源が少なくなるため抜歯スペースに前歯ではなく奥歯が前方移動してくる事があります。特に上5番抜歯に当てはまるのですが、一度前方に奥歯が移動してきてしまうと再度奥歯を元の位置に戻す事は難しく、前歯を後ろに引っ張る量が少なくなってしまいます。
多くの場合、固定源の増加にアンカースクリューを併用するのですが、結果的には5番抜歯は4番抜歯と比較して治療結果を妥協しなくてはならなくなる事が多くなります。この点は、一番大事なポイントになり治療歯の5番抜歯と治療結果を天秤にかけなくてはならない事があります。
5番治療歯抜歯の適応例
このケースは上5番抜歯の適応症例です。理由は「八重歯症例」で「上5番が神経失活歯」だからです。左右対称で前歯の位置も悪くなく、上5番のサイズが小さいため、抜歯空隙の閉鎖も簡単なところも向いている点です。参考にしてみて下さい。
<症例概要>
主訴:八重歯
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生・上5番セラミック冠歯(神経除去歯)
治療方針:空隙閉鎖、ストリッピング
抜歯:上顎第二小臼歯(計2本)
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー)
治療期間:1年6か月
アライナー枚数:40+27+14ステージ(7日交換)
リテーナー:上下クリアタイプ+フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
【治療シミュレーション】
上の4番と犬歯を後方に傾斜移動(倒し込み移動)で治す方針です。順序よくゆっくりと抜歯空隙を閉鎖しています。
※完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
まとめ
日本人の多くが抜歯を伴う矯正治療を必要とし、通常は4番目の歯(第一小臼歯)が抜歯の対象となります。5番目の歯(第二小臼歯)の抜歯は特定の条件下でのみ適していますが、前歯を後方に引く効果が弱くなる可能性があります。5番抜歯は八重歯、転位歯、正中線の不一致などの特定のケースで有効ですが、適応症でない場合は治療期間の延長や治療結果の妥協が必要になります。よって、治療歯の5番抜歯は慎重に検討する必要があります。