当院の小児矯正への考え方
目次
本当に負担の少ない小児矯正治療とは
毎年、春から夏にかけて小学校では、学校歯科検診が行われます。小学生低学年のお子さんは、ちょうど前歯が永久歯に生え替わったばかりの時期です。ここで、今まで保護者の方が全く気にしていなかった「歯並び・かみ合わせ」にチェックが入る事があります。家でお母さんが仕上げ磨きをする時に、子供の口に中をよく見ると、下の前歯が重なっている事に気がつくのです。
その後は歯科医院の受診証明書を書いてもらうために、かかりつけの歯科医院に相談にいきます。すると「今すぐアゴを広げた方が良い。まだ間に合う。」という説明を受け、保護者の方は少し安心し、床矯正装置などで矯正治療を開始していくのです。
このような流れは、本当によくある例です。でも、その小児矯正治療は本当に今すぐ行う必要があるのでしょうか?よく考えてみましょう。
その小児矯正治療、今すぐ必要でしょうか?
ふつう、子供の矯正治療は歯並びの時期によって2段階に別れています。まだ乳歯と永久歯が混ざっている混合歯列期という時期に行う矯正治療を【1期治療】と呼び、これが小児矯正治療にあたります。一方、その後、あごの成長がある程度ピークを迎え全て永久歯が生え変わった後に行う全体の矯正治療を【2期治療】と呼びます。
もちろん、小児矯正の適応ケースであれば、かみ合わせの改善や歯が並ぶスペースを獲得でき上手くいくパターンもあります。1期治療で子供の矯正治療のみで上手く永久歯が並べば、その後のワイヤー装置による2期矯正治療もなく、治療期間も費用も抑える事ができるため、お子さんも保護者の方も満足度は高くなります。ですが、実はこのようなケースは多くはありません。
しっかり歯並びとかみ合わせを作るためには、1期治療を3年近く行なった後、2期治療を2年程度行う必要があります。これが場合によっては、歯並びを広げるような矯正治療の効果が不足して、抜歯を併用しなくてはならない事もあります。これは、お子さんと保護者の方には大きなストレスがかかる事もあり、「1期治療は何のために行なったんだろう」と考え、担当歯科医に不信感を持つようになる事もあるのです。
ほとんどの子供の矯正治療を始める保護者の方は、1期で終了すると思っています。ですが、その可能性は高くはありません。ですから私たち矯正歯科医院は初診相談時に小児矯正のデメリットも説明する必要があると考えております。
全てのお子さんが小児矯正の対象とは限りません
※当院では②のケースの場合は準備矯正(1期治療)契約ではなく、本格矯正治療契約になることがあります。
①の小学生だけで矯正治療が終わりになるパターンの場合は、とても楽ですが、これは限られた症例のみになります。
初診時の時点で2期が必要なケースはある程度わかります。当院では、2期の本格矯正が必要な場合は、②か③か治療を始める時期を選択していただきます。③を選択された場合は、定期観察のみで小児矯正治療は行いません。
「2期が必要なのか?」この点に関しては、私は、多くの子供の矯正治療経験からこの点をある程度、体系化しています。主な判断基準は、「機能的マウスピース矯正装置【プレオルソ】で症状が改善するか?」です。
小児矯正で終わるお子さんはどれくらい?
歯並びに悩むお子さんの全員が、小学生の1期治療のみで終われば嬉しいのですが、実際は小児矯正のみで歯並びが80点以上に行くケースは1/3程度と考えていただくと良いです。
「子供の矯正治療はできるだけ早くから始めた方が良い」という考え方もあるのですが、私は「子供の矯正治療はできるだけ早く終わった方が良い」という考え方です。そのため、早期からスタートせず戦略的待機という事も行います。さらに症例の内容だけでなく、家庭環境・お子さんのキャラクターも見て、ベストな治療に介入する時期を検討します。
お子さんも保護者様も歯科医師も「治療期間は短かくしたい」のは共通の願いです。当院では、初診相談では、できるだけ矯正治療の負担が少なくなるように、客観的にアドバイスしています。
中には早くに治療を始めないと、歯肉にダメージが出たり、正常な歯の生え替わりが起こらないケースもあります。また、お子さん自身が見た目が悪い事をコンプレックスに感じているケースもあります。このような場合は、治療期間は長くなる事をご承知の上、小学生から治療を始める事をお勧めする事もあります。
当院では、「一時的な審美改善希望」や「咬めなくて困っている」といった内容がない限りは小児矯正治療は勧めておりません。ですから、他院で「すぐ矯正治療を始めた方が良い」と言われてたケースでも、当院では「しばらく待った方が良い」と説明する場合が多くあります。
1期治療で使用する矯正装置の種類
子供の矯正治療を考えるときに、保護者の方がまず引っかかるのは、ブラケットと呼ばれるあのワイヤー型装置です。「目立つしかわいそう」など、固定式の矯正装置に対するイメージはどうしても良くはありません。また虫歯になりやすい時期のため歯みがきのしにくさという観点からも、小学の矯正治療は取り外し式のそうtになることが多くなります。そこで、その家族と子供の矯正治療への負担を減らしてくれるのが、「マウスピース型矯正装置」になります。
マウスピース型矯正装置に過剰な期待を持っている保護者の方もいらっしゃいますが、どんな医療にも適応症というものがあります。適切な症状に、適切な治療を行う事で良い結果が生まれます。これについて説明します。
一口にマウスピース型矯正装置と言っても多くの種類があります。基本的には、口の中に入る着脱式の矯正装置を全てマウスピースと呼びます。その中で大きく分類すると、上下歯列分離型と一体型になります。
上下分離型マウスピース
分離型マウスピース例は、【アライナー矯正装置】です。これは個々の歯列にぴったり合わせた作った、透明なマウスピースを交換しながら何枚も使用して、少しづつ歯並びを整える方法です。
アライナーを装着したまま、食事を取ることはできないのですが、上下分離していますので、普通に口を開けて話す事はできます。装着時間は16時間程度です。アライナーは薄くて装着感は良く、透明で目立ちませんので使用はしやすいと言えます。
以前は分離型の主流は、拡大プレートと呼ばれる床矯正装置でしたが、最近ではこのアライナーが取ってかわろうとしています。非常に良いシステムなのですが、全ての歯科医院で行われていない理由の一つとして、海外輸入製品のため材料費が非常に高い事が理由になります。
適応症は、すきっ歯・軽度のガタガタです。重度のスペース不足や奥歯のかみ合わせに問題があるケースは不得意としています。また、基本的には永久歯列完成後に2期矯正治療を行う前提とした小児矯正治療になりますので、「一時的な審美改善治療」を希望される場合に使用します。
※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
上下一体型マウスピース
上下一体型マウスピースは、主に矯正装置をくわえ「噛んで使用する」タイプになります。装着に舌や口のまわりの筋肉にも圧力がかかるため、筋機能を鍛える効果から【トレーナー装置】と呼ばれます。柔らかいシリコンやポリウレタンといった素材で、既製品を調整して使用します。歯並びのパターンや大きさによって種類を選択します。
当院では、その中で機能的マウスピース矯正装置(プレオルソ)を使用しています。こちらは、就寝時に追加して寝る前1時間ほど、お口に入れていただき噛んでもらいながら使用します。在宅時使用なので装着はとても簡単です。学校には持って行く必要もありません。
機能的マウスピース矯正装置(プレオルソ)は、受け口(反対咬合)や深噛み(過蓋咬合)などの「前歯のかみ合わせのみ悪いケース」によく効果が発揮されます。前歯のかみ合わせが悪いと、上手く食事ができません。また、口呼吸になっている出っ歯(上顎前突)の方も、比較的治しやすいと言えます。これらの歯並びは半年程度の期間で治療が一旦完了します。
ですが、機能的マウスピース矯正装置(プレオルソ)も万能というわけではなく、奥歯のかみ合わせのズレが大きい場合や骨格的な問題が強い場合は、効果が少ない事が多いです。また重度の鼻閉がある場合はマウスピースの装着自体が息苦しく困難になります。
歯並びが治った後はそのまま使用してもらい、今度は歯並びを悪くする原因である「口呼吸」や「低位舌」の改善トレーニング装置に変わります。そして、長期的に安定しやすい口の環境作りをしてあげていく治療方法です。
その他の小児用矯正装置
1期治療では基本的に上記のマウスピース型矯正装置を使用する事が多いのですが、お子さんの症状やキャラクターを見て、リンガルアーチや部分的なマルチブラケット装置などの固定式装置を使用する事もあります。また、少ないですが、適応症をみて床矯正装置やヘッドギア装置なども使用する事があります。