マウスピース型矯正装置では口ゴボを非抜歯で治せないのか?
矯正治療で改善希望が増えている「口ゴボ」をマウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】を使って小臼歯を抜歯せず治す事ができるケースについて説明していきます。
※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
※少し難しい専門的内容が含まれています。
目次
口ゴボ(上下顎前突)とは?
最近では患者さんが問診票の主訴に「口ゴボの改善」と記入する事はめずらしくなくなってきました。
口ゴボは、矯正歯科専門用語で「上下顎前突」と呼びます。下あごの骨格の小ささが原因である事が多く、上の前歯があご先の位置よりも前方にかなり突出しています。口を閉じようとすると、口先が前方膨らんだり尖ったような感じに見えます。機能的より美容的に問題が多い不正咬合になります。
3年くらい前に「口ゴボ」という言葉を初めて見た時は「ロカボ(糖質コントロール)」の仲間かと思っていたくらいでした…。あとでネット検索して分かったのですが、単純に口元が「ゴボッ!」と前方に出ている様子を表したSNS用語だったようです。
口ゴボ(上下顎前突)の治し方
「口が閉じにくく常に口呼吸になってしまう」というくらいの口ゴボであれば、矯正治療は行なった方が良いです。ですが、美容的な要素も強いため、患者さんによって矯正治療をするかの基準は異なります。同じ横顔を見ても、「口が出ている」という方と、「ちょうど良い」という方がいます。横顔の好みは人それぞれなのです。
患者さんが横顔を大きく変化させたいと思う場合は、5mm以上口元を後退させないと「治した感」がでません。そのためには、唇の内側にある前歯を7mm近く後ろに移動させる必要があります。前歯は唇と接触しているため、前歯を後ろに引くと口元はその2/3くらい後ろに引っ込みます。これくらい変化を作るためには、歯を並べる隙間を一番多く作る事ができる小臼歯抜歯治療を勧める事になります。
マウスピース型矯正は奥歯の固定が弱く抜歯矯正は向いていない
口ゴボを小臼歯抜歯をしてマウスピース型矯正で治そうとすると、「ボーイングエフェクト」と呼ばれる上下の奥歯に隙間ができる反作用が発生する事があります。これは、前歯を後ろに引く際に固定源になる奥歯の把持がマウスピースでは弱く前方に倒れてくるからです。結果的には小臼歯抜歯を行ってもワイヤー矯正ほど口元を後退させる事ができない事もあります。
ですから、マウスピース型矯正で口ゴボを治療する場合、ボーイングエフェクトを避けるため担当医は非抜歯治療を勧める事が多くなります。
「歯を抜かないでマウスピース矯正装置で少しだけ口ゴボを治しましょう」
果たして歯を抜かないマウスピース型矯正治療で、どれくらい横顔の変化があるものなのでしょうか。
マウスピース型矯正で口ゴボを非抜歯で治せるケース
患者さんの希望が2〜3mmの口元の後退で良い場合は、歯を抜かずに横顔を変化させる事ができます(親知らずは抜歯する可能性あり)。ただし、これには条件があります。叢生量(でこぼこの量)が少ない場合、非抜歯のマウスピース型矯正治療でも口ゴボを少し改善させる事ができます。この条件に当てはまる主な3つのタイプを説明していきます。
上の前歯の角度が前に開いている
上の前歯の「歯軸」といって横から見た時の角度は、口ゴボ改善の難易度に影響します。上の前歯が前開きに傾いている場合は、傾斜移動といって倒し込み移動で比較的簡単に引っ込ませる事が可能だからです。傾斜移動は奥歯の固定が少なく反作用も少ないのがメリットです。
一方、上の前歯の歯軸が正常の場合、平行移動で後ろに引かなくてはならなくなります。傾斜移動と異なりこの平行移動は歯根の移動量が多く、奥歯に強い固定源が必要です。マウスピース型矯正治療では難しくなります。
V字歯列で上の前歯が前に出ている
上の前歯2本だけが著しく前方に出ている「出っ歯」タイプの場合、上の歯並びがV字もしくは三角形型になっています。このような歯並びでは、歯列拡大により前歯を後ろに引っ込めるスペースを簡単に獲得する事ができます。しかも前歯2本のみ後ろに引っ込めれば、出っ歯を治す事ができるため歯の移動量も少なくなります。
上の前歯が縦に長い
上の前歯を後ろ側に傾斜移動で引っ込める際は、歯の長さが長い方が断然有利です。これは同じ傾斜角度でも、振り子の半径になる歯の長さが長い方が、一回の歯の移動量が多くなるからです。また、治療後に前歯の先端部分を多少研磨する事で歯の長さを短くし、さらなる改善も見込めます。
条件を満たしても歯を抜かない場合は横顔の変化はわずか
上記の3つの条件を満たしても抜歯を併用した矯正治療と比較すると、口ゴボの変化量はわずかになります。口元をどうしても強く引っ込めたいと感じている場合は、やはり小臼歯抜歯を併用したワイヤー装置による矯正治療をお勧めします。
マウスピース型矯正の非抜歯の口ゴボ治療例
上記の3つ条件を満たした歯並びで、マウスピース型矯正装置を使用して非抜歯で治療しましたケースになります。
上の突出している前歯が傾斜移動で後退する事で、口元が2mm後ろに引っ込みした。変化量はわずかですが、口元の緊張感が減少し多少横顔は変化しています。非抜歯でマウスピース型矯正装置で口ゴボを改善するとしたら、これくらいの改善が限界だと思われます。
<症例概要>
主訴:前歯の突出
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生・上下顎前突傾向
治療方針:歯列拡大、ストリッピング
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー)
治療期間:1年4か月
アライナー枚数:26+15+14ステージ(7日交換)
リテーナー:上下フィックスリテーナー・クリアリテーナー
治療費用:900,000(+税)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用
<治療シミュレーション>
V字の歯並びを拡大しIPRを併用しながら前歯を傾斜移動で後ろに引っ込める方針です。
※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
ワイヤー矯正の抜歯の口ゴボ治療例
一方、表側のワイヤー矯正で抜歯併用で治療を行なった症例になります。非抜歯矯正とは異なり、前歯の移動量が多くなるため、どうしても治療期間が長くなってしまう傾向にあります。
治療後は口元の「とがり」だけでなく、「人中」や「あご先」もすっきりすっきりしました。こうやってみると口ゴボはワイヤーの矯正の方に分があります。
<症例概要>
主訴:前歯の突出
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生・上下顎前突傾向
治療方針:抜歯空隙閉鎖
抜歯:上下左右4番
治療装置:唇側矯正装置
治療期間:2年10か月
リテーナー:上下プレート型リテーナー+下フィックスリテーナー
治療費用:900,000(+税)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用