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マウスピース型矯正治療(インビザライン)とアンカースクリューの併用

 当院のマウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)で歯科矯正用アンカースクリューを併用して治療した過蓋咬合症例について、海外の論文雑誌に掲載されました。そこでアンカースクリューのマウスピース型矯正装置への応用について説明します。

Treatment of deep bite with ‘gummy smile’ using clear aligners and temporary anchorage devices: a case report / Journal of Aligner Orthodontics, 01/2021

マウスピース型矯正装置にアンカースクリューを使用するメリット

 歯科矯正用アンカースクリューとは歯茎にピアスのような細いネジを埋め込み、歯を移動させるための固定源にする矯正歯科治療のオプションです。主に従来型のワイヤー型矯正において、抜歯を併用した出っ歯(上顎前突)治療などに利用されています。

 このアンカースクリューはマウスピース型矯正装置(インビザラインなど)にも使用する事できます。適応症を拡大する事ができたり、治療精度を高める事ができる事ができるメリットがあり、当院でも一部の方に使用しております。

マウスピース型矯正装置へのアンカースクリューの使い方

 マウスピース型矯正装置(インビザライン)では、成功率が低く治療期間もかかる歯の動きが3つあります。このようなケースに対してアンカースクリューの効果が発揮されます。

上の前歯の圧下

 下に伸び過ぎている上の前歯を「圧下」といって、歯茎方向に押し込む動きは、マウスピース型矯正装置(インビザライン)では難しいと報告されています。ワイヤー型矯正装置でも、ある程度は前歯を圧下させる事は可能ですが、非常に時間がかかる動きになります。

アンカースクリュー・インビザライン
<前歯を垂直に歯茎に押し込みます>

 そこで、アンカースクリューを使用していきます。歯茎の上部に細いスクリューを設置する事でマウスピースごと上方にゴムで引っ張り上げます。垂直に圧下する量は1.5mm程度まで(傾斜移動ができる場合はもっと改善可能)とわずかですが、それでも効果があります。深噛み(過蓋咬合)や小臼歯抜歯を併用するケースで前歯のかみ合わせの改善に有効と考えられます。

後方移動力の強化

マウスピース型矯正装置(インビザライン)では、後方移動(遠心移動)といって奥歯を順々に後ろに移動させ、奥行きを広くする事で歯を並べるスペースを作る事が得意と言われています。これは従来型のワイヤー型矯正治療では難しい治療方法なので、場合によっては小臼歯抜歯を回避できる有効な方法です。

アンカースクリュー・インビザライン
<スクリューを間接的な固定源にする>

 ですが、後方移動のデメリットは時間がかかる事に加え、強い後ろへの牽引力が必要になる事です。マウスピース型矯正治療では顎間ゴムを上下にかけてもらい歯を引っ張るのですが、移動量が多い場合は牽引力が足りなくなってしまう事があります。このような時に、アンカースクリューからのゴムも併用する事で牽引力を増す事ができ、後方移動の成功率を高める事ができます。

奥歯の固定

口ゴボ(上下顎前突)を小臼歯抜歯を併用してマウスピース型矯正装置(インビザライン)で治療する事は、難易度が高いです。この理由は、前歯を後ろへ引っ張る固定源になる奥歯が前方に倒れてきやすいからです。ワイヤー型矯正治療では、奥歯が前方に移動しないように固定装置という裏側の装置を併用する事が多いのですが、取り外しのマウスピース型矯正装置では固定装置を併用する事はできません。

アンカースクリュー・インビザライン
<結紮線でスクリューと歯を留めます>

このような場合、奥歯を直接アンカースクリューと針金で留めてしまうという方法があります。針金がついていてもマウスピースはそのまま上から装着ができます。

アンカースクリューを使用する注意点

 こんなに利用価値がある歯科矯正用アンカースクリューですが、まだまだマウスピース型矯正治療には利用されていない理由としては、デメリットもあるからです。代表的な3つを挙げてみます。

上手く固定できず緩んでしまう事がある

 これが多くの矯正医がアンカースクリューを使用したくない一番の理由です。場所や条件によって異なりますが、10〜20%のスクリューに緩みや動揺が発生し、使用する事ができません。ふつうスクリューは左右両方計2本づつ使用するため、4人に1人の患者さんにスクリューの脱落が発生してしまう事になります。

 スクリューを打ち直す場合、再度麻酔をしたりと患者さんには負担がかかります。それだけでなく、打ち直ししたものの脱落は、マウスピース型矯正の治療計画そのものを変更しなくてはならなくなります。

結局ゴムかけを頑張る必要がある

 取り外しができるマウスピース型矯正治療では、アンカースクリューから自動で歯を牽引してくれるわけではありません。食事の際、マウスピースを着脱する度に、スクリューとの牽引ゴムも取り外ししなくてはなりません。これは患者さんにとって大きな手間になります。面倒になってゴムを使用しなくなるとスクリューの効果が全くなくなります。

奥歯が沈んでいく

マウスピース型矯正治療(インビザライン)では、普段から噛む力が奥歯にかかるため、奥歯が歯茎方向に沈んでいきやすいという特性があります。そのため、奥歯のかみ合わせが悪くなるといったデメリットも元々持っています。
アンカースクリューは歯茎に必ず設置するため、マウスピース自体より歯茎側からゴムで引っ張る事が多くなります。そうすると、歯を後方に移動させる力に加えて、歯を沈ませる力も反作用として少なからず発生してしまいます。症例によっては、奥歯のかみ合わせが悪くなるため、アンカースクリュー使用が望ましくないパターンもあります。

メリット・デメリットを検討し使用する

 このように、歯科矯正用アンカースクリューを使用すれば難しいケースでも全てマウスピース型矯正装置(インビザライン)で治せるわけではありません。デメリットとのバランスをみて使用していく形になります。

薬機法対象外について

マウスピース型矯正治療(インビザライン)を希望の方は必ずお読み下さい。
・マウスピース型矯正装置(インビザライン)は医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けいていない未承認医薬品です。
・マウスピース型矯正装置(インビザライン)はアライン・テクノロジー社の製品であり、インビザライン・ジャパン社を介して入手しています。国内にもマウスピース型矯正装置として医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けいているものは複数存在します。
・マウスピース型矯正装置(インビザライン)は1998年にFDA(米国食品医薬品局)により医療機器として認証を受けています。
・マウスピース型矯正装置(インビザライン)は完成物薬機法対象外の矯正歯科装置であり、ごく希ですが、副作用が起きてしまった場合などは承認薬品を対象とする医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。

 【記事執筆者の略歴】
牧野 正志
徳島大学歯学部卒業 (2006)
東京歯科大学 歯科矯正学講座 研修課程修了 (2010)
まきの歯列矯正クリニック開設 (2012)
日本矯正歯科学会 認定医・臨床医

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