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歯科矯正用アンカースクリューの失敗とトラブル

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

アンカースクリュー トラブルケース

歯茎に直径1.5mm程度のチタン合金のネジを打ち込む「歯科矯正用アンカースクリュー」は、最近では多くの矯正治療の患者さんに使用されています。ですが、患者さんは「痛そう」といった非常にネガティブな印象を持っている事が多いです。実際、アンカースクリューの設置は安全な処置なのですが、全くトラブルがない訳ではありません。今回は、このアンカースクリュー設置のトラブルについて説明していきます。

スクリュー設置手術に時間がかかる

アンカースクリューの先端部1/2〜1/3は、歯茎の下の「歯槽骨(しそうこつ)」という骨にねじ込まれていきます。セルフドリリング機能がついており、回転させるだけで、スクリュー先端部の鋭い刃が硬い歯槽骨を掘っていきます。

ヒトの骨の表層は皮質骨(ひしつこつ)といって外側数ミリは非常に硬い骨に覆われています。この部分をスクリューが貫通するには多少時間が必要になる事があります。ローアングルと呼ばれるような比較的アゴががっしりしたタイプの方はこの皮質骨が硬く、スクリュー設置に通常より時間がかかる事があります

アンカースクリュー 皮質骨
<皮質骨の後ろの海面骨は柔らかい>

このようにスクリューが骨に入っていく段階まで到達する時間は、患者さんによって異なります。スクリューの設置にかかる時間は、早い場合だと1本3分程度で終わりますが、時間がかかる方の場合は15分以上かかる事もあります。

骨が硬い事があらかじめ予想できる場合は、「プレドリリング」と言って先に細いドリルで設置予定部位の骨にガイドの穴を開けてからスクリューをねじ込む事もあります。ただし痛みがあるわけではありませんが、プレドリリングは大きな振動がでますので、苦手な方もいます。上あごの真ん中にスクリューを設置する場合は、歯茎の近くの歯槽骨と比較して、骨が非常に硬く必ずプレドリリングが必要になります。

スクリュー設置中に痛みが発生

アンカースクリューの設置手術前には必ず局所麻酔を行いますが、多くの量は必要としません。虫歯治療などで使用する量の1/4程度の量になります。実際、ほとんどのスクリュー設置手術に痛みは発生しませんまた、過剰に麻酔を行うと、スクリューの先端が誤って歯根に接近している事などもわからなくなってしまう事もあり、麻酔の量は少なめが推奨されています。麻酔の効き方は、患者さんによって差があるため、途中で痛みが発生し麻酔を追加しなくてはならないケースもあります。

アンカースクリューが打てる部位は狭い
<特に上の頬側の歯茎は設置できる場所が狭い>

まれなケースですが、スクリューの先が歯根や神経血管に接近した時は、かなりの痛みが発生します。この場合は、一度スクリューを外し設置位置の変更を検討しなくてはなりません。また、上の歯茎にスクリューを設置する際には、「上顎洞(じょうがくどう)」という鼻の空洞にスクリュー先端が近接する事もあります。蓄膿などで上顎洞が炎症を起こしているケースや鼻の空洞が広いケースでは、スクリュー先端が近接する際に、頬全体が痺れてくるような感覚が発生する事もあります。このようなケースではスクリューの設置自体を断念する事もあります。

スクリューが折れる

以前は少し柔らかい純チタン製のアンカースクリューを手動で設置していたため、設置途中でねじ切れて折れてしまう事がありました。特に骨の硬い部分である上あごの後方領域や内側の正中部に設置する場合に、このような事象が発生していたと聞きます。

アンカースクリューが折れる
<アンカースクリューがねじ切れる>

最近では、材質の主流が強度が増したチタン合金になった事と、電動トルクドライバーを使う事でスクリューのねじ込みの力を均一化できるようになったため、ほとんど破折する事例はなくなりました。ですが、非常に少ない確率で設置途中で偶発的に折れる事があります。

折れてしまった場合は先の部分が骨の中に残ります。浅い位置に残った場合は専用の器具で掘り起こし先端を撤去しますが、深い位置に残った場合は除去する事が困難のため、そのまま置いておく事になります。特に生体に害はありませんので問題はありません。レントゲンで破折した先端は確認する事ができます。

設置したスクリューが口の粘膜に当たって痛い

アンカースクリューはワイヤーやゴムがかけられるよう溝がついたヘッド部分が歯茎から数ミリ出ています。このスクリューのヘッドを出す位置は、他のワイヤー装置などとある程度距離をとるために、歯茎の深い部分に設定します。そうすると「可動粘膜(かどうねんまく)」という日常生活でよく動く頬や唇の粘膜にスクリューのヘッドが出てくる事が多くなります。

この可動粘膜は食事や会話時に常に動いている部分になるため、スクリューのヘッド部分の粘膜が引っ張られ痛みを生じる事もあります。さらにヘッドが歯茎の深い部分にある場合、歯磨きが行き届かなくなる事で炎症が発生し、痛みが増加する事もあります。炎症が長く続くと粘膜が腫れてしまいヘッド部分が埋もれてしまいスクリューを使用できなくなるケースもあるので歯磨きには注意が必要です。

可動粘膜にアンカースクリューを設置
<歯肉が少なく可動粘膜に設置した例>

設置したスクリューが動く・緩む

アンカースクリューの設置成功率は80〜90%です。スクリューの先端が入る皮質骨の硬さや状態によっては、上手くネジ先が引っかからず緩んでしまうケースが一定数あります。大体は、設置してから1週間前後の頃に緩みは発覚します。患者さんがスクリューの歯磨きをしようとしたら触ると少し動揺があり痛みを感じ始めたというケースが多いいです。また、実際にスクリューのヘッドにワイヤーやゴムをかけ、矯正力を加え始めてから痛みが発生し緩みが発覚するケースもあります。

緩んだスクリューは、そのままにしておくと短いスクリューの場合、生体異物反応で自然に歯茎から抜け落ちてしまう事もあります。気がついたら早めに担当医に連絡する必要があります。

<3か月後左側が緩んでしまった例>

一度緩んでしまったスクリューは、残念ながら使用する事ができません。麻酔をして撤去して、設置位置を変えて再手術の必要があります。

トラブルよりメリットの方が大きい

歯科矯正用アンカースクリューには、このように一定数トラブルはありまます。しかし、それ以上に難しい歯の動きを可能としたり矯正治療を効率化できるメリットの方が大きいため、必要な方は使用した方が良いと考えます。

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