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矯正歯科治療の限界

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

患者さんの中には、「矯正歯科治療は、歯並びやかみ合わせを治すの最後の砦」と思ってご相談に来れられる方もいらっしゃいます。ですが、矯正歯科治療で治せる事には限界があります。
矯正歯科医が簡単なケースと診断して治療を開始したところ、途中で難易度が高いケースである事が判明する事もあります。当院にも、あれこれ手を尽くしてみたものの、残念ながら正直医療的にも患者さんの満足いくレベルまで歯並びを改善させる事できずに終了してしまったケースもあります。

矯正治療に限界がある理由

どんな医療にも治療の限界というのがあります。これはどういった状態かというと、「症状の改善スピードがかなり低下した状態」です。半年ぐらい目に見えるような変化がなく、治療が膠着状態になってしまっている状態と私は考えています。このような状態にある理由として以下の3つが挙げられます。

土台がないところに歯は動かせない。

歯は上下左右無限に移動させる事ができるわけではありません。歯が動かせる範囲は「歯周組織」といって歯茎とその下にある歯槽骨がある場所のみです。口の中から見るとあと少しの距離でも、レントゲンで確認すると土台の歯周組織がなく歯の移動の限界に達している事はあります。それでも成長の余力がある10代の場合は歯の移動と共に歯周組織が再構成される事があるのですが、成人の方の場合は移動が難しくなってきます。

矯正力により一時的に歯がダメージを受ける

矯正治療を行うと、多かれ少なかれ歯はダメージを受けてしまいます。これを聞くと驚くかもしれませんが、このデメリットよりメリットの方が上回っているので矯正治療を行う意味があります。

例えば前歯を硬いものにぶつけてしまうと、その衝撃で歯が少し後ろに動きます。矯正治療は、この外傷の反応に近い状態を人工的に作り、歯周組織の再生力を利用して歯を動かしていく治療です。ですから、歯根が矯正力に負けてしまい根っこが溶けてくる歯根吸収や、歯の神経血管が移動した先で再構成できず切断される歯髄壊死などが発生するリスクは少ないですが常にあります。また、矯正装置を撤去する場合は、エナメル質に必ず細かな傷がつきます。そして治療中には、虫歯や歯周病が悪化するリスクもあります。

矯正治療による歯へのダメージが大きい事が予想される場合は、矯正治療の中断を勧める事もあります。

矯正治療で歯や骨格の形態までは変えられない

美容意識の高い患者さんの中には、矯正治療で歯並びが理想的に並んでも満足できない事があります。「前歯の角度が少し傾いている 」、「1番目と2番目の歯に段差が残っている」といった例です。
微調整して治す事ができる場合もありますが、そうではない場合もあります。これは、歯の厚み・歯のサイズ・歯の摩耗のあとなど患者さん自身が持っている歯の形が問題になっているからです。さらに上下の骨格に前後差や左右差が強い場合は、どうしても骨格のズレを歯でカモフラージュする治療になってしまいます。矯正治療では歯列を動かす事ができても骨格を改善する事はできません。

これは、長い時間をかけて微調整を行っても、ほとんど変化がないという事もあります。場合によっては美容歯科医院などの受診を推奨する事もあります。

患者さんの負担が多い治療方法を選択するかは環境次第。

矯正治療は限界に近づいた時は、「難しい治療を試してみるか」、「そのまま治療を終了に向かうか」を選択しなくてはなりません。

その際、複雑で難しい治療方法を行う時は、患者さんの生活上の負担と、治療の成功率を天秤にかけます。難しい治療方法は、矯正装置の故障が多く、短期間で結果をモニタリングをしなくてもならないため、患者さんには頻繁に通院をお願いする必要が出てきます。

また、アンカースクリューの使用や部分的な歯槽骨削除、埋伏親知らず抜歯といったなど小外科処置が入る事もあり、患者さんの外科的侵襲性も高くなります。ここまで行っても治療の成功率が50%以下の場合は、その治療方法を行うかは良く検討しなくてはなりません。

土曜しか休みが取れない忙しい社会人の方の場合は、矯正歯科への通院に十分なお時間が作れなかったり、仕事に差し支えのあるような大きく目立つ矯正装置は使用する事ができない事が多いです。結果的には、ある程度、治療の膠着状態が続いたところで、治療の限界と判断し終了する方向へ向かう事もあります。

結局は、難易度の高い治療方法が成功するかは、矯正治療を受ける患者さんの環境がキーポイントになるという事です。

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