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マウスピース型矯正【後方移動】の失敗例

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

後方移動の失敗リスク

マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】は、「歯を抜かない非抜歯治療が向いている」というような説明を、ウェブサイトなどで見る事はないでしょうか。実際、私もワイヤー矯正治療では小臼歯という前から4番目の歯を抜く方が良いケースでも、マウスピース型矯正装置の場合は、歯を抜かない治療方針を推奨する事があります。

この理由は、マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】は奥歯の後方移動という、ワイヤー型矯正装置では難しい治療方針を選択する事ができるからです。ですが、この後方移動の方針には失敗するリスクもあります。

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

後方移動(遠心移動)

後方移動とは奥歯を後ろに1本づつ押し込む治療方針であり「遠心移動」と専門用語で言います。奥歯から順々に後ろへ動かし、前歯を動かす頃には、歯をそろえたり前歯を後ろに引っ込めたりするスペースが獲得できるという治療方針です。小臼歯抜歯ほどのスペースは獲得する事はできないのですが、歯を小さくするストリッピングを併用する事で、その半分程度まで獲得する事ができます。

インビザライン・後方移動
<奥歯から順番に後ろへ移動させる後方移動の流れ>

奥歯を後方に押す力は、反対側の歯列とゴムをかける事で発生させます。ですから、基本的には上下どちらかしか奥歯は後方移動させる事ができません。マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】ではワイヤー型矯正装置より「歯を後ろに押す」事を得意としているため、この治療方法を利用する事が多くなります。
ワイヤー型矯正装置を用いても同じ移動様式を行う事はできるのですが、アンカースクリューのような強い固定源が必要となり、治療装置が複雑になってしまうため患者さんの負担が増えてしまいます。

<左:マウスピース 右:ワイヤーの後方移動>

後方移動の成功率は100%ではない

小臼歯抜歯方針は、前歯を並べる事や後ろに引っ込める事に関して、必ず成功する治療方針です。治療後に後戻りで、抜歯空隙が開いてしまう事もありますが、微量である事が多く、問題にはなりません。

一方、後方移動方針は必ず成功する治療方針というわけではありません。残念ながら、ほとんど移動しないケースもあります。つまり失敗する事もあるという事です。そもそも後方移動の適応症ではないという治療計画作成時の誤りは除いて、後方移動の失敗要因としては以下があります。

物理的に後方移動が困難な骨格

あごが小さく面長のお顔の方は、上の後方移動の成功率が低下します。このような方は、あご骨の前後の長さが足りない事が多いからです。当然、奥歯も骨がないところに動かす事はできません。セファログラムという横顔のレントゲンの計測値で骨格タイプはある程度分かります。

後方移動には後ろに余裕が必要
<後方移動には後ろに余裕が必要>

親知らずを抜いていなかった

親知らずは、奥歯の後方移動の障害物になります。親知らずはあご骨の中に埋まったままになっている事が多く、特に下の場合は真横に向いている事があります。親知らずを抜歯しないまま、大きな後方移動を行うと。奥歯の歯根にぶつかってしまい後方移動の成功率が落ちる事があります。また、今後の親知らずが生えてくる力が後戻りの原因になる事もあります。

生えていなくても奥歯の歯根がぶつかる
<埋まっている親知らずが奥歯の歯根がぶつかる>

顎間ゴムの使用が足りなかった

後方移動のエンジンは顎間ゴム(エラスティック)と呼ばれる上下の歯列にかける輪ゴムになります。後方移動の難易度によって使用時間や強さを変えていくのですが、顎間ゴムの使用量が想定より少ない場合は治療計画通りに奥歯が動きません。実は、これが一番多い失敗する原因です。

遠心移動・顎間ゴム

後方移動に失敗すると・・・

後方移動に失敗すると治療結果の低下が起きます。以下のような事例が発生し、場合によって治療計画の見直しが必要となります。

前より出っ歯になる

本来は奥歯を後方移動して前歯を並べる予定が奥歯は動かず、逆に前歯が前方移動してしまう場合があります。そうすると、治療開始前より出っ歯になってしまう事があります。これが「マウスピース型矯正は出っ歯になる」というような情報が出てくる理由の一つです。そのまま、治療計画の変更をせずに進めていくと、歯茎を超えて前歯が前方に移動してしまい歯肉退縮が発生しまう事があります。

インビザライン 出っ歯になる
<奥歯の位置は変わらず、上下の前歯だけが前に出ている>

治療期間が無駄になる

後方移動は大体1年間くらいかけて行います。ですから、もし失敗した場合は1年間まるまる治療期間を無駄にする事になります。そうすると、少しでも隙間を作るために歯にヤスリをかけるストリッピングを併用して再度後方移動を行うか、小臼歯抜歯の治療方針に変更するかなどを検討する必要が出てきます。いずれにしても治療が最初からやり直しになってしまうわけです。

<治療期間1年の無駄は大きい>

後方移動の計画は慎重に立てる必要がある

マウスピース型矯正治療【インビザライン・薬機法対象外】では、抜歯矯正治療は難易度が高いため、担当医からどうしても後方移動の治療方針を勧められる事が多くなります。ですが、後方移動は歯を抜かない方針であってもリスクがある方針です。また、少しの後方移動量でも全ての歯を後ろに移動しなくてはならないため、治療期間が長くかかり、失敗すると大きく時間のロスをします。さらに、親知らずの抜歯がある場合は、あご骨に埋まっている事が多く、小臼歯の抜歯より大変です。

後方移動と小臼歯抜歯の比較・インビザライン
<八重歯の矯正は小臼歯抜歯の方が移動量が少ない>

治療前に患者さんもマウスピース型矯正治療で失敗しないように、これらの事をよく考えて治療方針を選択すると良いと思います。

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