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マウスピース型矯正の抜歯矯正が難しい理由

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】の矯正治療は、全ての症例をアライナー単独で治す事はできません。つまり、適応症がある矯正治療方法になります。ですが、様々な先生達がチャレンジする事で年々、適応症は拡大してきました。その中でも、難易度が高いと言われているのが小臼歯抜歯を併用する治療方針になります。

当院も、初期の頃は抜歯方針のリカバリーに悩まされていましたが、段々と体系化してきましたので、これを説明していきたいと思います。

※完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります(詳しくは)。

抜歯方針の難しいポイント

日本矯正歯科学会のマウスピース型矯正装置による治療に関する見解にも、適応症は「歯の移動量の少ない症例に限られる(軽度の乱杭歯、軽度の歯の空隙、矯正治療後の軽度の後戻り等)」と記載されています。
→日本矯正歯科学会 ポジションステートメント

当院が考えるマウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】の抜歯方針が難しい理由は以下の3つです。

1.奥歯が前に倒れ込みやすい
2.前歯の歯根を動かす事が難しい
3.リカバリーには時間がかかる

奥歯が前に倒れ込みやすい

矯正治療において抜歯は、「A.歯の配列スペースがない時」「B.前歯を大きく後ろに引っ込めたい場合」に併用されます。その際、抜歯したスペースを有効利用するためには、動いて欲しくない奥歯をしっかり動かさず固定させる事が大切になります。これは、専門用語でアンカレッジ(固定源)と呼びます。通常は、歯の移動量が大きいBの「前歯を大きく後ろに引っ込めたい場合」の方が、大きなアンカレッジを必要とします。

<Bの方が奥歯が大きく前に引っ張られる>

ワイヤー型矯正治療などにおいて抜歯空隙を閉じる時は細い軟らかいワイヤーではなく、必ず太くて硬いワイヤーを使用して、歯列が倒れ込まないように配慮を行います。場合によっては奥歯同士を裏側でワイヤーでしっかり固定しおくような顎内固定装置を使用する事もあります。

一方、マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】の場合は、弾性がある素材のため、抜歯空隙へ歯の並行移動が難しく歯の倒れ込みが起きやすくなります。また、アライナーは個々の歯の動くスピードと関係なく、抜歯空隙を閉じて行こうとする力がかかります。歯茎の中の歯根の動きが遅れていても、アライナーはどんどん交換していく事ができるため、歯冠と呼ばれる頭の部分だけの倒れ込みが始まるのです。

奥歯に関しては、一度倒れ込みが始まると、2,3か月で一気に手前側が歯茎に隠れるくらいまで倒れ込んでしまいます。こうなると、奥歯が噛み合わない「臼歯部オープンバイト」と呼ばれる状態になり、リカバリーステージと呼ばれる、治療計画の立て直しステージに進んでしまいます。

<下の歯列が抜歯空隙に倒れ込み、噛めなくなっている様子>

前歯の歯根を動かす事が難しい

多くの抜歯ケースはリトラクションと呼ばれる前歯の後方移動が必要になります。前歯を理想的に後方移動させる時には、「ルートトルク」という歯冠の位置は変えずに歯根のみ後方移動させる力が必要になります。この力をかける事は構造上マウスピース型矯正装置では非常に難しいです。

<前歯を引っ込める際は歯根の位置も変える必要がある>

ワイヤー型矯正装置の場合は、モーメント力と呼ばれるブラケットスロットに対してワイヤーのねじれが戻ろうとする力を利用してコントロールする事ができるのですが、マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】では、この力を発生させる事が難しいと言えます。そのまま気にせず前歯を後ろに引いていくと、過蓋咬合と呼ばれる前歯がすれ違いの状態になったり、上の前歯が下に落ちてきてガミースマイルという過剰に上の前歯の歯茎が見える状態になってしまったりとなります。

リカバリーには時間がかかる

奥歯の倒れ込みや前歯の位置のコントロールが不足してしまった場合は、アライナーがアンフィットになる手前でリカバリーというステージに移行します。リカバリー方法の第一選択は顎間ゴム(エラスティック)の長時間使用になります。それでも難しい場合は、従来型のワイヤー型矯正装置やアンカースクリューといったアンカレッジの追加を行う事もあります。

<アンカスクリューや顎間ゴムのリカバリー>

これは、元の治療計画に戻るため、治療の進行ではなく一旦現状を回復させる事を優先する期間になります。つまり、この期間の間は治療は進みません。リカバリーが長ければ長いほど、治療期間はどんどん延びていくわけです。

リカバリーの間は地味です。それは、見える部分に大きな歯の変化はないからです。この時期は患者さんのコンプライアンスが大事なのですが、段々と落ちていってしまう傾向にあります。こうして、「さらに治らない」という悪循環が生じてしまう事もあります。治療へのモチベーションコントロールが大切になります。

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