1本抜歯・3本抜歯【奇数抜歯矯正】
ヒトの歯数は親知らずを除き上下14本づつで合計28本です。ですから、矯正治療で抜歯が必要な場合は、左右対称となるよう2本か4本の偶数抜歯になることが多いです。特に第一小臼歯と呼ばれる前から数えて4番目の歯を4本抜歯するケースが一番多いです。
ですが、割合としては少ないのですが、1本や3本など奇数抜歯を行う場合もあります。その際、上下どちらかの歯並びが奇数になるため、患者さんが「かみ合わせや歯並びの対称性は大丈夫か?」と心配されることがあります。これについては理由があって奇数抜歯を行う場合は、問題ありません。
目次
奇数抜歯が選択される理由
以下のような症状がある方は奇数抜歯方針をとることがあります。
下あごが左右にズレている
ヒトの骨格は完全に左右対称ということはありません。特に下あごの骨格は左右どちらかずれていることが多く、下の歯並びの正中線も同じ方向に引っ張られます。矯正治療で骨格を左右対称に治すことはできないのですが、歯並びの正中線のみカモフラージュして合わせる場合は、奇数抜歯を行います。
歯列が左右非対称
歯列が左右非対称で、片側のみがスペース不足が強い場合は片側のみ抜歯を行うことがあります。正中線が行きすぎないようにコントロールすることが難しくなります。奥歯の後方移動や歯にヤスリをかけるIPRなども併用して歯を並べるスペースを微調整します。
傷んでいる歯がある
予後不良の治療歯がある場合は、優先的に抜歯しなくてならないことがあります。こういった理由で奇数抜歯を選択する場合は、意図的に非対称を作るため治療方針が難しくなります。よって、左右の非対称感や正中線のズレを整えられず治療が完了することもあります。
歯の数や形に問題がある
先天性欠如歯や喪失歯があり、もともと奇数の歯並びの場合は、奇数抜歯により偶数歯にして矯正治療を行うことがあります。また癒合歯(1.5歯分)や矮小歯(0.5歯分)など、歯の大きさがふつうと異なる場合も、上下の歯の大きさのバランスを考え奇数抜歯が選択されることがあります。
奇数抜歯の主な3つのパターン
ここで、よく選択される小臼歯の奇数抜歯方針を3パターンを紹介します。また部分矯正治療では下前歯の1本抜歯も取ることがあります。
下あごにずれがある前突【小臼歯3本抜歯】
日本人は前突(出っ歯)傾向の歯並びであることが多く、奇数抜歯方針の中で一番多いパターンです。上の奥歯の位置は左右対称であり、前歯は前に出ているか八重歯になっています。一方、下あごが左右方向のずれがあることに伴い、下の歯並びの正中線も同じ方向にズレていることが多いです。
上の歯並びは左右の小臼歯を抜歯し、下の歯並びは骨格のズレと反対方向にある小臼歯のみを抜歯します。1本だけ抜歯した下のスペースは上下歯列の正中線を合わせるように上手く閉じていきます。
片側のみ八重歯【上小臼歯1本抜歯】
上の歯並びが左右非対称であり、片方のみ犬歯が八重歯になっていることが多いです。上の奥歯の生える位置に左右差があることが原因となっています。八重歯がある方の上の小臼歯のみ1本抜歯します。
ただし、この治療方針は上の歯並びの正中線が抜歯した方向に引っ張られやすいため注意が必要になります。上の正中線は下と比べて、左右にズレると患者さんは気になりやすいです。よって、抜歯しない側も、奥歯の後方移動やIPRを行い正中線を調整していく必要があります。かなり特殊な方針であるため、3本抜歯方針や非抜歯後方移動方針にするか判断に迷うケースもあります。
下あごにずれがある受け口【下小臼歯1本抜歯】
左右片側に骨格自体がずれている受け口ケースで、下1小臼歯1本抜歯を行うことがあります。下あごがずれている後方移動(親知らず抜歯あり)を、反対側は小臼歯を抜歯してスペースを作り下の歯列を回転させながら内側に入れていきます。
この方針をとる場合は、抜歯する側の下の親知らずが使用できることが条件になります。既に親知らずが抜歯されていたり向きが悪い場合は、非抜歯で奥歯の後方移動を選択した方がかみ合わせを考え良いこともあります。
部分矯正【下前歯1本抜歯】
下前歯1本抜歯は、奥歯のかみ合わせに問題がなく、下の前歯のみの不ぞろいを短期間で改善する場合に選択する方針です。特に上の前歯に矮小歯がある場合は、下の前歯が3本になっても、上下の歯の大きさの合計バランスが合います。
治療が簡単になるというメリットもありますが、上下の正中線が合わなくなるデメリットがあります。また、前歯を抜歯した部分がブラックトライアングルになり歯茎が痩せたようにみえやすいことにも注意しなくてはなりません。
下の前歯にガタガタがあり、前歯のかみ合わせが深いタイプが適応症になります。前歯のかみ合わせはそのままで下の歯並びのみ部分矯正治療で改善していきます。矯正装置を設置する面積が狭いため、裏側につけるワイヤー矯正装置やマウスピース型矯正装置が向いています。
奇数抜歯のかみ合わせは大丈夫か?
小臼歯の奇数抜歯を行う場合は片方は「1級」というかみ合わせにならず、2級か3級というかみ合わせで仕上げる形になります。ですが、上下の犬歯はしっかり左右対称にかむように作り、1歯対2歯咬合という「ギザギザ」に上下の歯がかみ合うようになりますので、かみ合わせは問題ありません。また、奇数抜歯は親知らずも歯列に参加させることで上下の歯数を偶数に合わせることができます。
ただし、奇数抜歯方針はオーソドックスな治療方針ではないため、偶数抜歯方針よりも注意して治療計画を立てなくてはなりません。事前に治療後のシミュレーションを行い、しっかりとしたゴールに向かえるかよく確認しておく必要があります。また、担当する矯正医の好みもあるため、必ずしもどこの医院でも行っているわけではありません。当院は、治療期間の長さや正中線の一致させやすさなども総合的に判断して奇数抜歯を提案します。
3本抜歯の治療例
下あごと歯列が左方にずれており、前歯が前突しているケースです。上は2本、下は左側のみ1本小臼歯を抜歯して、前歯を引っ込め上下の正中線を合わせました。奥歯は右側は1級、左側は2級仕上げというかみ合わせで仕上げています。
<症例概要>
主訴:出っ歯
年齢・性別:高校生女子
住まい:千葉県船橋市
症状:上顎前突・過蓋咬合・正中線のずれ
治療方針:上抜歯空隙閉鎖(中等度固定)・ストリッピング
治療装置:唇側矯正装置
固定装置:ナンスホールディングアーチ
抜歯:上左右4番、右下5番(計3本)
治療期間:2年2か月
リテーナー:上プレートタイプ+クリアタイプ・下フィックスタイプ
治療費用:935,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用