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矯正治療で歯を削る事も?【IPR・ストリッピング】

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

 ストリッピング(IPR)は小臼歯抜歯ほど多くはないのですが、歯を並べるスペースをちょうど良く作る事ができます。また、ブラックトラアイングルが減らす事も可能です。

 最近では、患者さんから「マウスピース型矯正治療=歯を削る矯正治療」と思われています。ですが、IPRはワイヤー矯正が主流であった頃からある伝統的な治療方法です。正しい方法で行えば、抜歯を回避したり、治療期間の短縮に繋がります。

 矯正治療の歯を並べるためにはスペースを作る➡︎できたスペースに並べる」というプロセスが必要です。この中でIPR(ストリッピング)という歯を研磨する方法を解説します。

4つのパターンのスペースの作り方

 矯正治療で歯を並べるスペースを作る方法は主に4つになります。
それは、①拡大・②小臼歯抜歯・③後方移動・④IPRです。

<拡大・抜歯・後方移動・ストリッピング>
<拡大・抜歯・後方移動・IPR>

 10年前くらいまでは、①拡大と②小臼歯抜歯が主流でした。その後、自由な方向に歯を動かすための固定源であるアンカースクリューが登場し③後方移動もよく選択されるようになり、マウスピース型矯正装置が行われるようになってからは④IPRも頻繁に行われるようになりました。このIPRは専門用語でInter Proximal Reductionの略になります。ストリッピングとも呼びます。

IPRは少ないスペースをかき集める方法

 IPR(Interproximal Enamel Reduction)とは日本語では歯冠隣接面切削と言い、昔はディスクで歯を削っていたのでディスキングとも呼ばれていました。歯と歯が接している部分を片面0.2mmほど小さくしていく処置です。

 前歯の場合は、歯は逆三角形の形をしているため実際は、その端の部分を少し落とすだけです。奥歯の場合はエナメル質が厚いため前歯の2倍ほど最大片面0.5mm程度まで削る事ができます。大きなスペースを得るためには可能な限り奥歯のIPRが有効になります。

 「削る」というと虫歯の治療を思い出しますが、量は0.3mmとかシャーペンの芯より少ない量なので安心して下さい。虫歯を削る時は3mmとか削りますから一ケタ量が違います。

IPR・ストリンピングの量
<かなり歯髄神経から遠いところにヤスリをかけます>

 0.2mmとかのIPRでは大してスペースを作る事ができないイメージですが6前歯に行うと両面で0.4mm6箇所で約2.5mmの空隙が作れて結構な空隙を作る事が可能です。

 ふつう矯正治療では歯を並べるスペースが必要なのですが、小臼歯(7〜8mm)と呼ばれる中間歯の抜歯では広すぎてしまう事があります。
ですから、軽度のでこぼこは抜歯を併用しなくてもIPRと後方移動だけでも十分な事もあります。必要な分だけスペースを作るので、抜歯矯正より治療期間も短くなります。多少歯を削っても、非抜歯で歯を並べる事ができるならIPRを行う意味はあります。

<抜歯を避けるため合計で6mmほどIPRを行なった例>
<奥歯に合計6mmほどIPRを行ない遠心移動を行なった例>

IPRで歯が弱くなる事はない

 多くの患者さんが心配されるのは、IPRで歯が虫歯になりやすくなるのではないかという事です。ですが、エナメル質もこの量で虫歯になりやすくなったり、歯がしみやすくなったりという症状が出る事はほとんどありませんのでご安心下さい。研究報告からも虫歯のリスクはなどは上がらない安全な方法と言われています(Zachrissonらの報告)。むしろ奥歯の歯の間はもともと初期虫歯になっている事が多いです。IPRはこれを早めに除去できます。

 そもそも原始時代、ヒトは砂まじりの食べ物を食べており、噛む面だけでなく、歯と歯の間である隣接面も自然に摩耗されていました。これにより歯ブラシなどの手入れも必要なく、歯並びも悪くはありませんでした。
ですが、現代人にはこの自然のシステムがありません。IPRはこの自然の補償システムの替わりにもなります。

<隣接面と咬合面がすり減っている原始時代>

 また、IPRにより歯根が近づくより間の歯槽骨が圧迫され、歯周組織の状態悪化を心配される方もいます。ですが、隣接面距離が短かくても、病理的な問題はないという報告がほとんどです。

IPRは痛くない安全な処置

 歯を削るというだけで、虫歯治療のあの嫌なイメージがあるのではないでしょうか。でも、安心して下さい、専用のタービンバーや電動のヤスリで安全に少しづつ削るだけです。1歯につき1分程度で終わってしまいます。痛みもありませんので麻酔も必要ありません。形態修正にはコツがありますので、術者もある程度トレーニングが必要です。

<IPR用コントラエンジン>
<IPR用コントラエンジン>

 ただし、もともと知覚過敏がある方の場合は、水を使う処置でシミてくる事もあります。電動ヤスリは少し振動がきますので、顎が揺れるのが苦手と感じる方もいます。また高さがない歯や、歯茎が腫れている方の場合は、器具が歯茎に近接するため多少損傷し、出血してしまう事もあります。

<実際のIPRの様子>

ブラックトライアングルを減らせるメリット

 このIPRは歯を並べるスペース確保という以外にもメリットがあります。それは、成人の方に歯茎が下がってできるブラックトライアングルを減らす事ができます。逆三角形の前歯をやや四角形に近づけ、コンタクトを近づける事で、審美的にもよくなります。この目的から成人の矯正治療にIPRはほとんど行います。

<ブラックトラアングルが減るメカニズム>

 IPRは歯を抜かない「非抜歯矯正」には必須の治療方針ですので、当院でも多くの患者に行なっています。0.5mmは患者さんに処置後鏡で見てもらっても削った隙間はわからない程度です。

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