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矯正治療で抜歯した隙間が埋まらない理由

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

抜歯した隙間が中々閉じない理由

 矯正治療のために抜歯した隙間が中々閉じず、治療が終われないという事があります。この理由は、治療の終盤は歯根の移動量が多いからです。


小臼歯抜歯空隙の使い方

 矯正治療で「でこぼこがある歯列」や「前へ傾いている前歯」を正しく並べるためには小臼歯という前から4、5番目の歯を抜歯して大きく隙間を作る事があります。小臼歯は平均7.5mmの横幅があり、左右抜歯すると合わせて1.5cmくらいの歯を並べる隙間を作る事ができます。この隙間は、抜歯した両隣にある歯を引っ張り合、時間をかけて閉じていきます。

<小臼歯抜歯空隙の隙間>
<小臼歯抜歯空隙が最後に残る>

 矯正治療中、はじめの頃は抜歯空隙は順調に閉じていくのですが、治療の終盤に近づくにつれ、わずかの隙間が中々閉じなかったり、逆に開いてきてしまったりする事があります。「もう少しで矯正治療が終わりそうなのに、最近治療が進んでいないように感じる」と患者さんは少し不安になってきます。この抜歯空隙が一向に閉じてこない現象について詳細に解説していきます。

歯根を動かすのには時間がかかる

 抜歯空隙を閉じるステージは大きく分けて2つに分かれます。それは、でこぼこや出っ歯を治すために傾斜移動と呼ばれる歯を傾けながら動かすステージと、その後に残った空隙を歯体(したい)移動と呼ばれる歯を平行移動させるステージです。

 傾斜移動のステージでは、歯茎に埋まっている歯根の動きは少ないため、かなり早いスピードで歯を動かす事ができます。ワイヤー矯正装置を装着して最初の半年間は、とにかく歯がきれいに並んで行くのが嬉しいのですが、これは傾斜移動が先行して起きているからです。

 ですがその後、歯体移動のステージになった途端、歯根の動く量が多くなり歯の移動は停滞します。ここでは炎症反応により歯茎の中のあご骨が再構成され、歯根が動きますので非常に時間がかかります。同じ距離を動かすのに歯体移動は傾斜移動の4倍くらいもの時間を要してしまいます。

傾斜移動と歯体移動による空隙閉鎖
<傾斜移動と歯体移動による空隙閉鎖の違い>

抜歯の隙間が閉じない理由は歯体移動が起きているから

抜歯空隙閉鎖終盤はスピード低下
<抜歯空隙閉鎖終盤はスピード低下>

 明確に別れてはいないですが、矯正治療中は「傾斜移動」と「歯体移動」が交互に起こっています。傾斜移動だけで抜歯空隙閉鎖を行えるケースは多くなく、歯体移動も少なからず必要です。

 例えば、先に傾斜移動が起きていて、どんどん抜歯空隙を閉鎖できた場合は、最後の最後で歯体移動が必要になります。この瞬間、抜歯した隙間が閉じるスピードが1/4程度になり一気に遅くなります。この時、これまで順調に歯が動いていたのに最後の1mmの隙間がいつまでたっても閉じない事に、患者さんは少し不安感を持ちます。ですが、たった1mmの空隙閉鎖でも歯体移動をさせなくてはならない場合は、半年以上かかる事もあるのです。

 特に下の前から5番目である下顎第二小臼歯を抜歯した場合は、抜歯空隙の閉鎖に時間がかかります。これは、4本の太い歯根がある第一大臼歯を大きく動かさなくてはならない事と、下あごは上あごと比較して骨密度が高く、あご骨の再構成に時間がかかるからです。

下の第一大臼歯の歯根の移動量は大きい
<下の第一大臼歯の歯根の移動量は大きい>

その他の理由

 抜歯空隙が閉じない理由として次のような理由もあります。歯茎のタイプによっては抜歯空隙が閉じるにつれ、間にある歯茎が盛り上がっていく方もいます。そのまま角化して歯茎が硬くなると、隙間を閉じる事を邪魔する事もあります。ふつうは矯正治療を終了すると歯茎の腫れは治ってくるのですが、歯肉が歯を覆うくらいまで膨れてしまった場合は歯肉肉切除術を行なっていただく事もあります。

抜歯空隙が閉じない
<抜歯空隙の歯茎の腫れ>

 また低位舌といって、舌が常に前歯をさわっている状態の場合、舌の力で歯が前方に押し出され抜歯空隙を開いてしまう事があります。この場合、口腔筋機能訓練(MFT)といって、舌を正しい位置におくトレーニングをする必要があります。

<舌と矯正力が均衡していると歯が動かない>
<舌と矯正力が均衡していると歯が動かない>

治療後に抜歯空隙がまた開く事もある

 患者さんも矯正治療に通院できる期間に限りがあります。治療終了の予定時期が最初から決まっている場合や、治療期間が予定よりかなり延長してしまっている場合は、やむおえず強力な力で抜歯空隙を閉鎖する方法を選択する事があります。多少歯根が短くなる歯根吸収のリスクが上昇するのですが、強い力をかける事ができるループと呼ばれるバネがついたワイヤーなどを使用して、歯根ごと強力に抜歯空隙を閉じる事もあります。強い矯正力は生体にリスクがあるのですが、個々の歯茎や歯の状態によっては、普通の牽引では歯体移動が難しく仕方がない事もあります。ですからループ強力な矯正力をかける方針が決して悪い治療という訳ではありません。

 急いで抜歯空隙閉鎖を行うと、リテーナーを使用していても治療後すぐ抜歯空隙が開いてくる事があります。ですが、1mm以内であれば、審美的にも目立たず機能的にも問題はないため、再治療せずそのままにしておきます。

<抜歯空隙が残っていても問題はない>
<抜歯空隙が残っていても問題はない>

 全てのケースが治療後に抜歯空隙が再び開いていく訳ではありませんが、出っ歯症例など、大きく前歯を歯体移動させた方に、治療後の隙間の再発は起きやすいと言えます。どうしても気になる場合は、再治療より虫歯治療で使用するレジンで隙間を埋める方が後戻りしづらく良いこともあります。

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