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上だけ抜歯の矯正治療は、噛み合うのか?

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

上だけ抜歯の矯正治療は大丈夫?

 2級(II級)咬合と呼ばれる出っ歯傾向のケースの矯正治療には、上の小臼歯のみ2本抜歯する片顎抜歯治療が頻繁に選択されます。これは上下で歯の数が変わりますが、しっかりと噛み合う昔からある確立された治療方法です。

※少し難しい専門的内容が含まれています。

2級咬合とはどのような状態か

 今から120年以上前、1899年にアングルという矯正歯科医が悪い歯並び・かみ合わせの分類方法を発表しました。上下の6歳臼歯(第一大臼歯)を基準に前後的にどのような噛み方になっているかで3つのパターンに分けています。このアングル分類は矯正歯科の治療計画を立てる上で最初に確認する項目になります。

アングル分類

 その中で下の6歳臼歯が後方にズレて噛んでいる状態の事を専門用語で2級(II級)と呼びます。下より上の歯並びが前方に出ているような出っ歯傾向(上顎前突)の方が、2級のかみ合わせになっている事が多いです。このアングル分類は、患者さんが自分で鏡を見て判断する事は困難です。トレーニングを受けた矯正歯科医が診療室でよく審査しないと3パターンを正確に判断する事はできません。

正しい噛み合わせにするためには

1級正常咬合

 永久歯列の2級咬合の多くは、1歯対1歯咬合といって、上下の歯の間に隙間がありギザギザに噛んでいません。医学的には1歯対1歯咬合を、持っている歯列を最大限使用できている状態ではないと判断します。矯正治療では、これを1歯対2歯である1級の正常咬合にしていく事がオーソドックスな治療方針になります※。

 2級咬合は、上の奥歯を後方に移動させるか、下の奥歯を前方に移動させる方針をとる事で1級咬合になります。1級咬合にするには色々なやり方があります。

  1. 上下小臼歯4本抜歯  → 下の奥歯を手前の抜歯空隙に移動
  2. 上顎後方移動     → 上の奥歯を後ろに移動
  3. 下顎の前方成長を利用 → 骨格と共に下の奥歯を前に移動
2級咬合のの治し方

<2級咬合の3つの治し方>

上だけ抜歯をする2級仕上げ

 上記に書いた3つの治療方針は、全て1級という噛み合わせにもっていく治療方針になりますが、これ以外にかみ合わせは2級のまま「1歯対2歯」の正常咬合に持っていく治療方針もあります。これを、「2級仕上げ」と呼び、上のみ左右の小臼歯を抜歯し、上の奥歯を前方に移動させます。上下小臼歯4本抜歯よりは前歯が後方に引っ込む量は少なくなりやすいですが、確実に出っ歯(上顎前突)を治ることが可能で、成功率が高い治療方針となります。

 「上だけ抜歯をすると、上下で歯の数が変わってしまうので大丈夫か」と患者さんが心配される事もありますが、2級仕上げは上下の歯並びを意図的に1歯ズラして噛み合わせを作るため問題はありません。2級仕上げも治療後は1歯対2歯のかみ合わせになるからです。

2級仕上げの歯の動かし方

<2級仕上げの歯の動かし方>

 2級ケースを、1級仕上げにするか2級仕上げにするかは、治療前の分析から診断して決定します。基本的には、矯正治療ではできるだけ奥歯の移動量が少ない治療方針の方が、治療期間も短く、かみ合わせの変化への負担も少なくなります。ですから、できるだけ奥歯の移動量が少ない治療方針選択することが良いと考えます。

※これについては、院長が研究して数年前に論文を発表しております。
Characteristics of dentoskeletal morphology and treatment changes in 2-maxillary premolar extraction: A comparison with 4-premolar extraction

2級仕上げの適応症

 このように永久歯列の2級治療には大きく4つの方針がありますが、まずは2級咬合の度合いをみて、1歯対1歯を超えてフルクラス2というような状態であれば、ほとんどが2級仕上げを選択します。1歯対1歯の2級の場合は、その他のパラメータと患者さんの希望を含め治療方針を選択していきます。このようなボーダーラインの場合の治療方針の選択方法について以下に説明します。

下あごの成長が期待できるか?

 10代の成長期であれば、下あごの成長とともに下の歯列の前方移動が期待できます。これによりII級咬合は改善することができます。この下あごの「成長がどのくらいの期間あるか」と「成長方向が前方か下方か」によって、下あごの前方成長を利用するか、2級仕上げにするかを検討します。下あごの成長期が過ぎていたり成長方向が下方の場合は2級仕上げを選択する割合が多くなります。

上の前歯をどれだけ引く必要があるか?

 2級咬合は、上顎前突といって「出っ歯傾向」を伴うことがあります。上の前歯の後方移動量が多いほどできるだけ、抜歯を小臼歯をする方が成功率が高まります。これは後方移動では14歯全ての後方移動させるのに対し、抜歯では前歯6歯だけ移動させれば良いからです。この上の前歯の後方移動量によって、上顎後方移動か2級仕上げが検討します。上の前歯が下の前歯より7mm以上前突している場合は、2級仕上げを選択する割合が多くなります。

横顔を大きく改善する必要があるか?

2級咬合には、上下顎前突といって「口ゴボ」を伴うことがあります。これを改善するには上の前歯を後方移動させる必要があるのですが、矯正治療後の上の前歯の位置は下の前歯の位置で決まります。よってこの下の前歯の位置によって上下小臼歯4本抜歯か2級仕上げか検討します。「口が閉じにくい」、「あご先がない」などの問題がなければ、横顔の改善は最小限で済むため2級仕上げを選択する割合が多くなります。

上の親知らずは大切にする

 2級仕上げについての大事なポイントに「上の親知らずはできるだけ使う」というのがあります。上は2本抜歯しているのですが、親知らずが生えてきて使用できれば、上の歯が2本増え上下の歯の数は実質同じになります。全てのケースで親知らずを並べることができるわけではありませんが、上手くいけば、上だけ抜歯方針のイメージも良くなります。

上顎片方抜歯が親知らずが噛み合わせに参加している様子

<上顎片方抜歯が親知らずが噛み合わせに参加している様子>

 10代で矯正治療を行うと、まだ生えてくる前までに治療が終了します。その場合は、「下の親知らずは抜歯しても良いけど、上の親知らずは虫歯にしないように」と念を押しておかなくてはなりません。

上だけ抜歯の治療例

 下の写真は上の第一小臼歯のみ抜歯して、2級仕上げにしています。一つずらして噛み合わせを作っていますが、問題なく「1歯対2歯咬合」に改善しています。 

上だけ抜歯矯正治療例
上だけ抜歯矯正治療例
上だけ抜歯矯正治療例

<症例概要>
主訴:出っ歯・噛めない
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:上顎前突・鋏状咬合・正中線のズレ
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
抜歯:上顎第一小臼歯(計2本)
治療方針:抜歯空隙閉鎖、IPR、下顎遠心移動
治療期間:2年5か月
アライナー枚数:51+23+18+17ステージ (7日交換)
リテーナー:上下顎クリアタイプ+フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
その他の副作用とリスクについて▶︎

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