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ユーティリティーアーチ矯正

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

ユーティリティアーチ矯正

 ワイヤー矯正治療方法は、歯根が太い第一大臼歯を固定にして4前歯を細かく動かしていくのがセオリーです。この考え方をもとに作られた、第一大臼歯と4前歯だけをつなぐ特別な形のワイヤーをユーティリティーアーチと呼びます。

ユーティリティーアーチとは?

 ユーティリティアーチ(Utility Arch)は、その名の通り「汎用性が高いアーチワイヤー」です。略してUAとかU-archとも呼ばれます。基本形態は、側切歯から第一大臼歯(6番)にかけてワイヤーが歯茎側に曲がっています。これは、既製のワイヤーではなく矯正歯科医が診療室で患者さんの口の中で長さを合わせながら作成していきます。材料は、コバルトクロムやβ-チタンのような比較的弾性があり柔らかいワイヤーを使用していきます。

<ユーティリティアーチの構造>

 どちらかといえば、ワイヤーを屈曲させて細かく歯を動かす.018スロットというレールが細いタイプのブラケット装置の方に使用されます。ユーティリティアーチは治療開始時からすぐ使用できるわけではなく、ある程度太いワイヤー入るレベルまで前歯が整列してから装着する事になります。6番のブラケット装置には2つワイヤーを通せる穴が空いていることが多く、歯茎側の方のサブチューブに屈曲したワイヤーを通してきます。6番の後方から出たワイヤーはチューブ抜けないように歯茎方向にしっかりと曲げておく必要があります。

使用目的により形態が異なる

 ユーティリティーアーチは持続的な弱い力で前歯を3次元的に様々な方向へ動かしていきます。また、ワイヤー屈曲入っている部分をプライヤーで調整すると回転力(モーメント)が発生します。これにより前歯にトルクと呼ばれる歯根のみの回転移動も可能となります。主に3つの移動様式があり、前歯の動かす方向によって多少形状を変えていきます。

前歯の圧下

 使用目的として一番多いのが、歯を歯茎方向へ沈める移動である「圧下」になります。前歯のかみ合わせが深い過蓋咬合がある症例に、前歯をいち早く正しいかみ合わせに調整することができます。特に下の前歯はまわりの歯茎や骨は少なく、ユーティリティーアーチを使用すること安全に圧下を行うことが可能です。

<図は一般的なUA>

ユーティリティアーチ

前歯の後方牽引

 前歯の前突症例で、6番の後方に出ているワイヤーをさらに引く事で、バネの力が作用し前歯を後方牽引することができます。特に抜歯症例の場合は、歯根の位置もコントロールできます。前歯を後方牽引すると、傾斜移動といって前歯はどうしても内側に倒れてきます。ここにトルクを加えたユーティリティアーチを併用することで歯根も後方に移動させることができます。

<図はコントラクションUA>

コントラクションUA

前歯の前方移動

 内側に入っている前歯を前に傾斜移動で押し出す際に用います。主に反対咬合を改善する際に使用していきます。上の前歯が下の前歯を乗り越える時にぶつからないように上下位置のコントロールもします。

<図はアドバンスUA>

アドバンスUA

使用方法

 ユーティリティアーチは第一大臼歯と前歯しか動かせませんので、本格矯正治療中に単体で使用することはありません。主に3つの使用方法があります。

セクショナルワイヤーと併用

 ワイヤーを通していない側方歯(犬歯と小臼歯)に、6番ブラケットのメインチューブから部分(セクショナル)ワイヤーを通します。これにより前歯と側方歯の移動を分けていきます。抜歯症例や過蓋咬合症例など、犬歯と前歯の歯の移動方向が異なる場合に反作用を少なくして効率的に治療を進めるために行います。最終的には1本のワイヤーにして歯列の形をアーチ型に整える必要があります。

ユーティリティアーチ+セクショナルアーチ

アーチワイヤーと重ねる

 矯正治療中に前歯の歯根の位置のコントロールを積極的に行いたい場合、既に使用しているアーチワイヤーにユーティリティーアーチを重ねて使用します。前歯のスロットにはワイヤーが2本入っておりオーバーレイと呼んだりもします。その他、ユーティリティアーチと直接アーチワイヤーを針金でとめて使用すること(※)もあります。

※)バーストン圧下アーチという方法で、当院では良く使用します。

ユーティリティアーチ+アーチワイヤー

混合歯列期に乳歯をパス

 小学生のお子さんは第一大臼歯と前歯だけ永久歯という状態が長く続きます。この時期に前歯の位置を調整したい場合には、生えかわり途中の側方歯を通過できるユーティリティーアーチは効果的です。ただし、まだ生えたばかりの第一大臼歯の固定が弱いため、内側固定装置(リンガルアーチ)なども併用して使用する必要があります。

小児のユーティリティアーチ

万能装置というわけではない

ユーティリティアーチの種類

<様々なユーティリティーアーチ>

 ここまで説明をするとユーティリティアーチを全ての方に使用した方が良いように思えてくるのですが、けして万能な装置というわけではありません。まず、ワイヤーの形が複雑なため、曲げる矯正歯科医にも技術が必要であり、設置にも時間がかかります。また、持続的な弱い力をかけて歯を移動させる方法なので早く歯が動くというわけではありません。そして、装着される患者さんにとっても見た目が悪く、口内炎ができたり、歯磨きのしづらくなるというような日常生活でのデメリットもあります。よって、個々の歯ならびをみて効果が高いと判断した場合に使用するものになります。

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