矯正治療のレベリングステージ
ワイヤー型矯正治療は、様々なステップに分かれています。その中でも一番最初の段階を「レベリング」と呼びます。このステージは「矯正治療の準備運動」といった感じですが、実は一番大事なステージでもあります。
レベリングで行うこと
<レベリングでは歯根の位置も整える>
レベリング(Level+ing)とは「ならす」という意味で、バラバラになっている歯列を正しい向きにそろえるステージになります。全ての歯を一旦正しい向きにして一列のアーチ型にすることで、その後の歯の移動を確実に、そして効率的に行えるようにします。
ふつうは、ブラケット装置に歯の向きの平均値データが組み込まれており、スロット(レール部分)に徐々に太いピッタリとなるワイヤーに交換していくことで、正しい歯の向きになります。
レベリングの期間に関しては、各歯並びによって異なりますが、おおよそ6〜12か月程度と考えておいておくと良いです。
レベリングステージでは、アーチワイヤーを交換したり、結紮戦で縛る力を調整することで、以下の3つを順番に調整していきます。
1.歯の傾きや回転
2.隣の歯との並び
3.歯根の位置
歯の傾きや回転
<捻転歯の改善>
レベリングの初期は、丸型で細い断面の柔らかいワイヤーでいろんな方向に向いてい歯を個々に正しい方向に向けます。主に前方や内側に倒れている歯を起き上がらせます。「寝ている歯を起こす」、まさに矯正治療の準備運動です。特に回転している歯(捻転歯)はこの段階で治しておかないと、あとで改善させることは難しくなり治療期間が伸びてしまいます。レベリングの中でもこの初期ステージには多くの時間をかけます。八重歯の抜歯症例ではこの段階だけで、割ときれいに並んでしまいます。
隣の歯との並び方
<歯の高さの調整の改善>
歯が正しい向きになったあとは、今度は隣の歯と前後の位置や高さを揃えていくステージに進みます。四角型のワイヤーを使用し、ブラケット装置のスロットが一直線になるようにします。このレベリングの中期になると、目に見えて前歯の歯並びの位置がよくなります。
歯根の位置
<トルク>
レベリングの後期では、骨の中にある歯根の位置を正しい位置にそろえていきます。「トルク」といって歯根に回転力が発生するように、ブラケットスロットいっぱいの太めの長方形のワイヤーを使用します。この段階は目に見える変化が少なくなってきますので、患者さんは早く次へ進んでほしいと考えがちですが、大事なステージになります。
レベリングが不足していると…
レベリングは、歯並びのガタガタが多い方にとっては変化が大きくモチベーションも高いステージなのですが、軽度の不ぞろい方や出っ歯の方は目に見える変化が少なくつまらないステージになります。そういった患者さんから、「早く次のワイヤーを交換して進めてほしい」と言われることもあります。ですが、このステージを飛ばしてしまうと、結果的には治療期間が延長してしまいます。特に、レベリング初期の歯の傾きや回転に関しては、抜歯スペースなどがある初期段階のうちにしっかりと治しておいた方が良いと言えます。「早く治療を進めたい」と焦る気持ちもわかりますが、ここはゆっくりと確実に治していきましょう。
また、いくらゆっくりとレベリングを行なっても、ワイヤーのレールであるブラケット装置自体の設置位置が良くない場合は正しく歯は並びません。よって、矯正歯科医はブラケット装置の設置には神経を集中しているわけです。
マウスピース型矯正にはレベリングがない
一方、マウスピース型矯正装置は一気に歯が動きますのでレベリングステージという概念のがありません。ですから、症状によってはワイヤー型矯正治療より早く治療が終わることもあります。ですが、歯根の位置を修正せずに治療が進んでいきますので、無理な歯の移動により歯肉退縮や歯髄壊死などといった副作用が発生する割合が少し高くなります。つまりマウスピース型矯正装置では準備運動不足で治療が進むため、少し副作用も起きやすくなるということです。
レベリングの実際
以下の治療例より実際のレベリングの3ステージがわかります。歯の傾きやねじれを治したのち、歯並びを一列に高さを揃え、角度の調整をします。しっかりとレベリングを行ったことで、きれいなスマイルラインを作られました。
<症例概要>
主訴:前歯の歯並びが悪い
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生・クロスバイト
治療方針:上下顎歯列拡大・ストリッピング
治療装置:唇側矯正装置
固定装置:上ポーター
抜歯:左上親知らず
治療期間:2年1か月
リテーナー:上下プレートタイプ+フィックスタイプ
治療費用:968,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用
まとめ
レベリングは矯正治療の最初のステージで、「準備運動」とも呼ばれる重要な段階です。約6〜12ヶ月かけて、3つの調整(歯の傾きや回転の修正、隣接歯との位置関係の調整、歯根位置の整備)を順番に行います。この過程を省略すると治療期間が延長する可能性があり、特に回転している歯の修正は初期段階で行うことが重要です。一方、マウスピース型矯正にはレベリング段階がなく、一気に歯を動かすため、歯肉退縮や歯髄壊死などの副作用リスクが若干高くなる特徴があります。