犬歯を抜歯する矯正治療方法はあるのか?

矯正治療において犬歯は、少々位置が悪くても抜歯しないことが多いです。その理由は、他の歯のと異なりかみ合わせにおいて唯一無二の役割を果たす歯であるからです。また、前歯、小臼歯、大臼歯はそれぞれ同じ形態の歯が2本以上あるのですが、犬歯のみ1本しかありません。
犬歯の役割
犬歯は、人間が動物性タンパク質を多く摂取していた時代の名残であり、鋭く尖った形状をしているため、肉類などの硬い食べ物を裂いたり、切り裂いたりするのに適しています。だんだんと先端が丸まってくるのですが、位置異常でうまく噛み合っていない場合は、うまく先端が摩耗せず「八重歯」というかたちで尖ったままになります。
また、上下の犬歯がかみ合うことで、かみ合わせの安定性を高める働きもあります。「犬歯誘導(キャナインガイダンス)」といって、食事や歯ぎしり時にあごを大きく動きすぎて顎関節に過剰負担がかからないよう犬歯が制御しています。さらに上下の奥歯を離開させて、歯の負担も和らげる効果もあります。犬歯ガイドが上手く作れていない歯並びは、顎関節症を持っていたり、奥歯が大きくすり減っていいる傾向になります。
【犬歯ガイドの様子】
あごを横に動かすと、片側の犬歯のみが接触し、他の歯や顎関節の負担を軽減するメカニズムです。
犬歯抜歯が適応されるケース
このように、かみ合わせに重要な役割を果たしている犬歯ですが、歯並びが悪くうまく機能していない場合は、矯正治療で改善させるか、犬歯の抜歯を行い他の歯で機能を補うか考える必要があります。もともと日本人の矯正治療は半分以上のケースに抜歯が必要です。
一般的には抜歯する歯は第一小臼歯(4番)になるのですが、これを犬歯に変更します。特に上下の第一小臼歯がしっかりかみ合っている場合は、あえてリスクを取らずに犬歯を抜歯する選択をすることもあります。ただし、犬歯は円錐形で、小臼歯は円柱形であるため、グループファンクションといって小臼歯2本であごの動きをガイドする形になります。
埋伏歯
歯茎の中に埋まっている埋伏犬歯を並べるためには、歯茎を切って歯を牽引しなくてはなりません。埋伏犬歯の牽引は難しく、時間もかかります。
埋伏犬歯を矯正治療で正しい位置まで犬歯を移動できるかというと、うまくいかないケースもあり、不完全な状態で治療が終了することもあります。このようなケースでは、将来的な歯並びの安定性を考え埋伏犬歯を抜歯することがあります。
転位歯
一般的には、犬歯の位置異常である八重歯で、犬歯を抜歯することはありません。患者さんにとって、八重歯は一見すると重度の歯並びの不正のように見えます。しかし矯正歯科医からみると、けっして治療難易度は高くはありません。
犬歯の位置異常で抜歯をするケースは移転歯(歯の順番の入れちがい)などのみになりますので、多くはありません。
歯根露出
犬歯は、歯並びのアーチが切り替わる部位にある歯であり、歯肉も薄いため歯肉退縮が起きやすい部分になります。犬歯は前から見える部分でもあるため歯根部が大きく見られる場合は審美的な問題から犬歯を抜歯することもあります。
片側の犬歯が欠損
犬歯抜歯は小臼歯抜歯と異なり、歯並び狭くアーチ形状が異なってきます。したがって、歯列の左右対称性の問題、片側の犬歯が欠損している場合は、反対側の抜歯部位も合わせて犬歯にすることがあります。
犬歯抜歯手術の難易度
犬歯抜歯と小臼歯抜歯を比較すると、犬歯抜歯の方がより抜歯手術自体の難易度はが高くなります。その理由として犬歯は小臼歯と比べて、歯根が長く太いということがあげられます。小臼歯は単根または2根で、歯根も細く短いことが多いです。そのため、骨からの歯根の分離と脱臼が容易な傾向にあります。
さらに、歯冠が円錐形であるため、抜歯鉗子(歯の抜くペンチ)が上手く引っかかりづらく、歯冠歯根比といって歯冠に対して歯根の長さが犬歯は長いため、抜くのに時間がかかります。抜歯後の穴の治癒にはやや時間がかかりますが、もともと八重歯で転位しているケースが多いためそこまで目立ちません
犬歯抜歯矯正治療例
上の犬歯が両方とも歯茎が大きく下がっているケースになります。普通は第一小臼歯を抜歯するところですが、治療後の審美性を考え犬歯を抜歯しました。下のがたつきはIPRと後方移動で改善しています。犬歯がないため、小臼歯でガイドをとるグループファンクションというかみ合わせになっていますが、治療後も安定しています。
<症例概要>
主訴:前歯の歯並び・噛み合わせ
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:重度叢生・下顎後退・上顎犬歯歯肉退縮
治療方針:抜歯空隙閉鎖・ストリッピング
抜歯:上第一小臼歯(計2本)
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
治療期間:2年2か月
アライナー枚数:45+31+17ステージ
リテーナー:上下フィックスタイプ+クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用
まとめ
犬歯は咬合に重要な役割を果たすため、通常は抜歯しません。しかし、埋伏歯、転位歯、歯根露出、片側欠損の場合は抜歯を検討します。犬歯抜歯は小臼歯より難しく、歯根が長く太いため時間がかかります。抜歯後は歯列が狭くなり、アーチ形状が変わります。犬歯抜歯の矯正治療は、個々の状況に応じて慎重に判断する必要があります。
よくある質問
Q1: 犬歯抜歯後のグループファンクションと、通常の犬歯誘導では、長期的にどちらが顎関節への負担が少ないですか?
グループファンクションでも、あごを左右に動かした時に奥歯がスムーズに離開すれば、長期的な顎関節への影響は変わらないかと考えています。
Q2: 埋伏犬歯の牽引治療と犬歯抜歯では、治療期間や費用にどのくらい差がありますか?
埋伏犬歯の牽引は、まず歯茎に埋まっている歯を露出させ牽引器具を装着する「開窓牽引」の費用(約8万円程度)が余分にかかります。また、埋伏歯の位置や歯の移動速度によっては、犬歯抜歯より1年程度余分に治療期間がかかることがあります。
Q3: 犬歯を抜歯した場合、将来的に歯が割れやすくなるなどのリスクはありますか?
適切なグループファンクションの機能的かみ合わせを作れば、そういったリスクは増えません。
【記事執筆者の略歴】
牧野 正志
徳島大学歯学部卒業 (2006)
東京歯科大学 歯科矯正学講座 研修課程修了 (2010)
まきの歯列矯正クリニック開設 (2012)
日本矯正歯科学会 認定医・臨床医










