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マウスピース型矯正から前歯が浮く理由【上2番】

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

インビザラインの上2番のアンフィット

 マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】でコントロールする事が一番難しい歯は上2番【側切歯(そくせっし)】です。マウスピースの使用時間を厳守しても、ズレてきてしまう事が多いです。今回は、なぜ上2番はシミュレーション通りに動かないのかを説明していきます。

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

上2番がズレてくる原因

 他の歯と比べて上2番はあまり大きい歯ではありませんが、その割には矯正治療での移動量が多い歯になります。矯正力が生体反応の限界を越えてしまうと、歯が矯正治療の移動についていけず、マウスピースから浮いてきてしまいます。これには主に歯の位置と形の2つの原因があります。

インビザライン・アンフィット

<右の写真の矢印がついた部分がアンフィット>

歯の位置の問題

 矯正治療が必要な患者さんの多くの歯並びは、上2番が上1番より後方にあることが多いです。そうすると矯正治療で4前歯をきれいに並べるためには、上2番は後方移動より前方移動させる必要がでてきます。

 マウスピース型矯正治療では歯を前方に動かすと、「圧下(あっか)」といって歯茎方向に沈んでいく反作用があります。ですから、前歯を前方に出すにつれ上2番は圧下をしていきマウスピースからズレてくるようになります。

インビザラインの上2番の移動量

<上2番の前方移動量は多い>

 さらにクロスバイトといって下の前歯と部分的に反対のかみ合わせになっている場合は、正しい噛み合わせに治す際に、下の前歯を乗り越えて前方に移動させなくてはなりません。その際に下の歯とぶつかる事でも上2番が圧下していってしまう事もあります。

 上2番は分かりづらいのですが、ねじれている歯もあります。歯の位置が後ろ側にあるだけではなく、ねじれもあるとマウスピース型矯正装置で正確に動かす事は難しくなります。

歯の形の問題

 日本人の上2番の矮小歯(わいしょうし)である傾向が高いです。つまり、上2番は横幅も長さも短い歯が多いという事です。当然、マウスピースは歯の頭の部分をつかんで動かしていく治療のため、歯が小さい場合はコントロールが難しくなります。

 歯の長さが短い場合、上1番と歯列の高さを合わせようとすると、「挺出(ていしゅつ)」といって大きく歯を下方向に引っ張り出さなくてはなりません。これも難しい移動様式になります。

 矮小歯の場合は、歯根も細く短いです。そうすると、矯正治療で歯は歯根のまわりにある歯根膜という血管膜の活動によって動くのですが、この歯根膜量が少なくなってしまいます。その結果、歯周組織の再生が追いつかず治療計画にズレが発生します。

矮小歯・インビザライン・浮く

<矮小歯の上2番は歯根も細い>

マウスピース型矯正での上2番のリカバリー法

 マウスピース型矯正治療では、上2番に生体の限界を越えた矯正力がかかると、すぐにマウスピースから歯が置いていかれます。そして、マウスピースが歯列から少し浮いた状態になります。この状態を「アンフィット」と呼びます。軽度であれば、マウスピースの交換速度を遅らせてチューイーをしっかり使用する事で回復する事も可能です。完全にズレしまい歯をつかんでいないない場合は、追加アライナーによるリカバリー治療に進む事になります。このリカバリーテクニックをいくつか紹介していきます。

アタッチメントの工夫

 歯茎近くに置いていかれてしまった上2番を再度下方向に引っ張り出すためには、歯にマウスピースが引っかかりやすいように大きめの四角いアタッチメントをつける事が有効です。取り外しが難しくなりますが、歯の表裏両面にアタッチメントをつけると確実に下方に引っ張り出せます。

インビザラインのアタッチメント・挺出

<表裏にアタッチメントを設置>

挺出ゴムの使用

 アタッチメントの工夫でも対処できない場合は、歯につけたボタンフックからゴムをマウスピースにたすきがけにして歯を下方向に引っ張り出す方法もあります。挺出ゴムは1日中装着してもらうため、歯に持続的な力をかける事ができるので成功率が高いリカバリー方法です。

インビザラインの挺出ゴム

<挺出ゴムで歯を引っ張り出す>

ブラケット矯正装置をつける

 上記の2つを何回か行なっても変化がない場合は、マウスピース型矯正装置により矯正治療の限界を迎えている可能性が高くなります。特にねじれがある歯をマウスピースで治すのは難しいです。このような歯の場合は、少々目立ちますが、治療期間の短縮を考え表側のブラケット装置を装着して改善する事も検討しても良いかもしれません。

歯の形態調整

 矯正治療ではありませんが、歯の審美治療で見た目をごまかすという方法もあります。矮小歯は被せ歯にしたりダイレクトボンディング法で歯を大きくするという方法です。また、逆に隣の上1番の先端を研磨する事で、短い上2番の印象をカモフラージュする方法もあります。

上2番のダイレクトボンドによる形態修正

<上2番のダイレクトボンドによる形態修正>

上2番の挺出ケース

 上2番が「クロスバイト」で「矮小歯」のケースです。予想通り、途中で上2番はアンフィットします。アタッチメントを多くつけても効果が少なかったため、最後は挺出ゴムでリカバリーしました。治療後は後戻りしないように、前歯に固定式リテーナーを設置しています。

上2番浮く・インビザライン・治療例
上2番浮く・インビザライン・治療例・挺出ゴム
上2番浮く・インビザライン・治療例

<症例概要>
主訴
:八重歯・正中線のズレ
年齢・性別:30代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生・前歯交叉咬合・下顎左偏
治療方針:左上遠心移動・ストリッピング
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー)
治療期間:2年2か月
アライナー枚数:38+16+15ステージ
リテーナー:上下フィックスタイプ+クリアタイプ
治療費用:900,000(+税)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮

まとめ

 上側切歯は、マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)でコントロールが最も難しい歯です。主な原因は二つあり、一つは歯の位置の問題(多くの場合、上1番より後方にあり、大きな前方移動が必要)、もう一つは歯の形の問題(日本人に多い矮小歯による制御の困難さ)です。治療中に歯がマウスピースから浮く「アンフィット」が発生した場合、アタッチメントの工夫や挺出ゴムの使用などでリカバリーを試みます。これらが効果的でない場合は、ブラケット矯正装置の併用や歯の形態調整などの代替手段を検討します。

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