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歯列矯正治療で使用するアーチワイヤーの種類【材質・形・色】

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

矯正治療・アーチワイヤー

 マルチブラケット矯正治療の主役は、金属製の針金であるワイヤーです。歯並びに合わせた半円状の形をしたアーチワイヤーを使用していきます。患者さんから材質・形・色などを質問される事もありますので、ここでまとめていきたいと思います。

アーチワイヤーとは

矯正治療・アーチワイヤー
<アーチワイヤー>

 矯正治療で歯に貼り付けるブラケット装置には、スロットと呼ばれるワイヤーを通すレールがあります。この部分にワイヤーを通す事で、歯に矯正力を加えていきます。人の歯並びはアーチ型のため、使用するワイヤーもアーチ型になっています。

 以前アーチワイヤーは、矯正歯科医が患者さんにの歯並びに合わせて、チャートを見ながら1本の直線ワイヤーをプライヤーと呼ばれる専用器具を用いて屈曲して作成していました。しかし、現在ではブラケット装置の中に理想的な歯並びの平均値データが組み込まれるようになり、これに合わせて既製で屈曲された状態のアーチワイヤーが用意されているため、調整の作業がほとんど必要なくなりました。

 滅菌されたパッケージから出した後、患者さんごとの歯並びの長さに合わせてワイヤーをカットし、微調整を加えた後にブラケットに通していきます。

ワイヤーの材料成分

 矯正治療の段階によって使用するワイヤーは異なってきます。治主に以下の3ステップに分けられます。

1.【初期】歯をアーチ状に一列に揃える
2.【中期】抜歯空隙の閉鎖など大きな歯の移動
3.【後期】細かい歯の位置の調整とかみ合わせの安定

【初期】ニッケルチタンワイヤー

ニッケルチタンワイヤー

<治療開始時は一番弱いワイヤーを使用>

 矯正治療で主に最初に使用するニッケルチタンワイヤーには「超弾性」「形状記憶」という2つの優れた特徴があります。

 まだ生体側の準備が整っていない治療初期から歯に強い力を加えると、様々な副作用や強い疼痛が発生していしまいます。ですから、治療初期はできるだけ弱い力しか発生しないワイヤーを使用していくのが一般的です。

 以前は、細いワイヤーをねじり合わせたり、ワイヤーをループと呼ばれるようなバネのような形に時間をかけて屈曲し、持続的な弱い力が発生するように使用していました。それが数十年前にこのニッケルチタンワイヤーが出た事により矯正治療の方法が大きく変わり事になります。このワイヤーは、非常に柔らかく、どんなに変形させても歯に加わる力は一定で安全に治療を進める事ができます。つまり、矯正力を弱めるために、複雑な形にワイヤーを曲げる必要がなくなったというわけです。形状記憶という特性も持っているため、矯正歯科医が正確な位置にブラケット装置を設置する事ができれば、簡単に歯が一列に揃います。

 最近のニッケルチタンワイヤーは温度変態特性(サーモ機能)もあり、口の中の温度である37度付近で超弾性の能力が変化し、形状記憶された形に戻る力が強くなるように設定されているものもあります。

温度変態特性があるニッケルチタンワイヤーをよくねじって変形させた後にお湯につけた様子です。

すごい速さでワイヤーが元の形に戻ります。勢いあまって器の外の飛び出してしまいました。矯正治療ではこのような力を使って、歯を並べていきます。

【中期】ステンレススチールワイヤー

ステンレスワイヤー

<硬いワイヤーで歯列を一体化させる>

 矯正治療の中盤は耐久性のある一つのワイヤーを少しずつ調整しながら長く使用します。特に抜歯症例の場合は、空隙閉鎖を行う際にワイヤーが大きくたわまないようにある程度硬さが求められます。そこで強く引っ張ってもたわみづらいステンレス鋼のワイヤーが利用されます。こちらは、ブラケット装置に通す前に、歯並びの横幅や前歯の傾きを改善するため、アーチワイヤーのカーブ量を調整します。

 ステンレススチールワイヤーは硬いため途中、ブラケットの故障や付け直しが出た場合は、一旦弾性のあるニッケルチタンワイヤーに変える事もあります。

【後期】βチタンワイヤー

βチタンワイヤー

<複雑な屈曲を入れても折れにくいワイヤー>

 矯正治療の終盤は正しい位置に動かした歯を固定した上で、細かい歯の位置の調整を行います。そのためアーチワイヤーには、ある程度の硬さと弾性が必要になってきます。ここではβチタンワイヤーといってチタンにニッケル以外の金属を混ぜた合金を使用しする事が多いです。モリブテンを混ぜたTMAワイヤーや、ニオーブ・タンタル・ジルコニウムなどを混ぜ超弾性もあるゴムメタルワイヤーなどが用いられます。

 これらのワイヤーは、ニッケルチタンワイヤーとステンレススチールワイヤーの中間的な硬さや弾性を持ち適度な強さがあります。さらに複雑な形に屈曲も可能であり、汎用性の高いワイヤーと言えます。ニッケルを含まないため、金属アレルギーの患者さんにも使用されます。

 βチタンワイヤーが主流になる前は弾性は少ないのですがコバルトクロムワイヤーが様々な形に屈曲可能なワイヤーとして主に使用されていました。

ワイヤーの断面の形

 アーチワイヤーの断面には、丸型と四角型があります。断面積が広くなるほどワイヤーの硬さは増します。また、四角型のワイヤーは、歯にトルク(歯根を動かす回転力)を加える事ができます。インチ単位で直径を分類し、最小で0.01インチのものがあります。

 矯正治療の開始時期は、痛みを減らす目的から細いワイヤーから使用する事があります。その後、段階的にサイズを太くし、途中から断面積が広い四角形のワイヤーを使用していきます。最終的にはブラケットのスロットより少し小さい長方形の断面のワイヤーを使用します。スロットサイズには.018インチと.022インチの二つの規格がありそれぞれで使用する断面サイズは異なります。

矯正ワイヤーの断面

<.019x.025インチワイヤーの断面>
※当院は.022インチスロットを使用しています。

ワイヤーの色

 基本的にアーチワイヤーの色は金属色の銀色ですが、口の中に装着すると想像以上に黒色に見えます。細いもの場合はそこまで気にならないのですが、太いワイヤーになってくると目立ってきます。そこで、各材料会社から審美的なワイヤーの用意がされています。主に、コーティングワイヤーとメッキワイヤーに分かれます。

矯正ワイヤーの色

<矯正ワイヤーの色>

 白のコーティングの場合は、かなり見た目は良いです。ですが、樹脂素材のため段々と剥がれきて中の銀色のワイヤー部分がまだら模様に見えてくるのがデメリットです。コーティング色は2か月以上は持たないイメージです。

 メッキの主流はロジウムコーティングです。メッキ液にワイヤーをつけ電気を流す事でコーティングをします。こちらは完全に白色というわけではなく白銀色になりますが、剥がれにくく色が長持ちする事がメリットです。その他、種類は少ないのですが金色のメッキワイヤーもあります。これは意外ですが、目立ちづらく多用されています。

ワイヤー交換は状況を見て決める

 矯正歯科専門医院ではアーチワイヤーの交換は歯科衛生士が行う事が多いのですが、どの段階でどの種類のワイヤーを使用するかは矯正歯科医が決定します。また、一度設置したワイヤーはある程度効果が出るまでは交換せず、そのままにしておきます。中には「毎回ワイヤーを交換しないが、矯正治療が進んでいるのだろうか」と不安に思われる患者さんもいますがご安心ください。

アーチワイヤーの交換

<歯の動きを確認してワイヤーを交換します>

アーチワイヤー交換の治療例

 一般的な上下小臼歯抜歯治療のアーチワイヤー交換の流れを治療例から説明します。

  • 治療初期 ニッケルチタンワイヤー(上下3サイズづつ使用)
  • 治療中期 ステンレススチールワイヤー(チェーンで前歯を牽引)
  • 治療後期 βチタンワイヤー(スペースの完全閉鎖と微調整)

 初期と中期の使用ワイヤーは審美性を配慮したロジウムコーティングワイヤーを使用しています。後期のワイヤーはΩ型にループを屈曲して使用しています。

ワイヤーの種類・矯正症例
ワイヤーの種類・矯正症例
ワイヤーの種類・矯正症例

<症例概要>
主訴
:出っ歯
年齢・性別:大学生女子
住まい:千葉県船橋市
症状:上下顎前突・叢生
治療方針:上抜歯空隙閉鎖(中等度固定)
治療装置:唇側矯正装置
固定装置:ナンスホールディングアーチ
抜歯:上下第一小臼歯(計4本)
治療期間:2年3か月
リテーナー:上下クリアタイプ+下フィックスタイプ
治療費用:930,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用

まとめ

 アーチワイヤーは矯正治療の主要な器具で、歯並びに合わせた半円状の金属製ワイヤーです。治療段階によって3種類のワイヤーを使用します:初期は柔軟で形状記憶性のあるニッケルチタン、中期は硬くて耐久性のあるステンレススチール、後期は適度な硬さと弾性を持つβチタンです。断面形状は丸型と四角型があり、治療進行に応じて細いものから太いものへと変更します。見た目への配慮から、白色コーティングや金色メッキなどの選択肢もあります。ワイヤーの交換は矯正歯科医が歯の動きを確認しながら判断します。

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