ブログ

マウスピース型矯正装置のリファインメントと追加アライナー

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

インビザライン・リファインメント・追加アライナー

 マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】は、患者さんへ最初にお渡しする数十枚のマウスピースのみで治療が完了する事は多くありません。ほとんど場合、リファインメントといって治療計画の修正作業が必要になります。

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

※少し難しい専門的内容が含まれています。

なぜ計画通りに治らないのか?

インビザラインの治療計画

 マウスピース型矯正治療は、少しづつ歯列の形が異なる薄いプラスティックシートを順番に装着していく事で、コマ送りのように歯を移動させていく治療方法です。そもそもマウスピース型矯正装置は、20年前までは軽度の歯列不正のみしか対応していませんでした。それが、アタッチメントやシート素材の進歩、治療シミュレーションシステムの向上により歯の回転や歯根の移動など難しい動きも再現性が上がってきた事で、一般的に普及するようになりました。 

 ですが、指示通りに装着していてもマウスピースの矯正力全てが歯に伝わるわけではありません。様々な理由で、矯正力のエネルギーロスが発生します。海外の研究報告では「インビザライン社マウスピースでは2週間交換使用で平均73%歯の動きが達成された」というデータがあります。

【参照】Effect of aligner material on orthodontic tooth movement

 現在ではマウスピースを1週間交換で進めていくのが主流のため、実際の数値はもう少し低いと考えられます。おそらく歯の動きの達成度は平均70%程度ではないかと推測されます。

インビザラインマウスピースの力は歯列に70%程度伝わる
<マウスピースの力は歯列に70%程度伝わる>

リファインメントと追加アライナー

 初回のマウスピースで達成できなかった歯の動きは、「リファインメント」という修正作業を行い改善していきます。まずは歯列データを取り、初回の治療計画で改善が足りなかった部分や、治療計画からズレてきている部分を確認します。そして新たな治療計画を追加し、続きのマウスピースである追加アライナーを発注します。

 追加アライナーを使用していく事でアップライトと呼ばれるような奥歯の倒れ込みの改善、回転不足の歯の調整、奥歯の上下の噛み合わせの調整など行っていきます。上下の歯を引っ張る顎間ゴムを併用していただく事が多いです。

リファインメントの回数と期間

 リファインメントの回数は2回程度が一般的です。これは、前述のようにマウスピースの歯の動きの達成度が平均70%であるからです。普通であれば、初回で70%→追加で91%→再追加で97%…といった感じで歯列が完成していきます。

リファインメントの回数と期間
<少しづつ100%に近づけていく治療>

 難症例ではなく患者さんの装着時間にも問題がなければ、2回のリファインメントでおおよそ矯正治療の完成に近い95%を超えてきます。ただし、マウスピース型矯正治療は常にマウスピースを一層噛んだ状態で進めていきますので、噛み合わせが100%になる事はありません。ですから、このあたりが矯正治療のゴール地点になる事が多いです。

 3回目以降のリファインメントで作ったアライナーでは、目に見える変化はほとんどないと思っていただいた方が良いです。マウスピース型矯正治療の限界点に近いと言えます。

 大きなリカバリーがなければ、追加アライナーのマウスピース量は20枚以内に設定する事が多く、1回のリファインメントで、その治療計画が完了するまで最低半年くらいかかると考えていただくと良いと思います。

リファインメント後の流れ

 リファインメント後に、すぐに追加アライナーが使用できるわけではありません。歯列データをエンジニアがシミュレーションが作れるようなフォーマットに変更した後、担当医が何日かかけて治療計画の修正を行ってきます。この作業期間は各歯科医院によって異なります。さらに海外からのアライナー郵送期間と、開封後のセット準備も含めると、追加アライナーを使用するまでの待機時間は、大体1〜2か月になります。

インビザライン・追加アライナー

 リファインメント中は前回の計画での最後のアライナーを使用し続けてもらう必要があります。ですからこの期間はアライナーを大切に使用していただかなくてはなりません。紛失や破損で、一時的にアライナーを使用する事をやめてしまうと、歯が動いてしまい追加アライナーが入らなくなってしまう事があるからです。

 リファインメントの待機期間が1か月以上になる場合は、後半の歯の動きを少なくして2,3枚アライナーを残した状態でリファインメントをする事もあります。また、予備のアライナーをその場で作成する場合もあります。

「リファインメントなし」あるのか

 初回のマウスピースで歯の動きの達成度が95%を超えた場合は、リファインメントをせずに終了する事もあります。このようなケースは、元々の歯並びの不揃いが軽度で噛み合わせの問題が少ないケースになります。また、マウスピースも、治療期間は長くなりますが、10日交換で確実に進めている方が多いです。当院の場合、「リファインメントなし」のケースは全患者数の3%程度になります。次に示すケースのように奥歯の噛み合わせの問題が少なく、軽度でこぼこの症状等に可能です。

インビザライン・リファインメントなし
インビザライン・リファインメントなし
インビザライン・リファインメントなし

<症例概要>
主訴
:叢生
年齢・性別:40代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生・クロスバイト
治療方針:IPR・軽度拡大
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー)
治療期間:1年
アライナー枚数23ステージ(14日交換)
リテーナー:上下プレートタイプ+フィックスタイプ
治療費用:900,000(+税)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

リファインメントが不可能な場合はリカバリーへ

 適応症があるマウスピース型矯正治療では治療の限界があります。例えば、マウスピースで歯をしっかりつかめない位置に移動してしまうと、追加アライナーを使用しても改善が見込めない場合もあります。このような場合は、リファインメントを行わずににワイヤー型矯正装置を装着したリカバリーステージに進む事もあります。ある程度、リカバリーされた後は再びリファインメントを行いマウスピース型矯正治療に戻ります。

インビザライン・リカバリー
<強い奥歯の倒れ込みはリカバリー不可>

追加アライナーへのモチベーション

インビザラインを説明

 リファインメントで一番大切な事は、患者さんのモチベーション量です。中には、追加アライナーがある事を知らず、初回の治療計画で燃え尽きてしまう方もいます。こういった場合、その後のアライナーの装着時間が著しく減少してしまい治療が進まなくなってしまいます。リファインメントは「矯正治療の小休憩」と思っていただき、患者さんには後半戦へのモチベーションを保ち続けていただく事が重要なポイントになります。

このエントリーをはてなブックマークに追加