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スリーインサイザー【先天性欠如による3前歯】の矯正治療

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

先天性欠損・3インサイザー

 先天性欠損歯の中でも、下の前歯が1本だけ欠けている状態をスリーインサイザー(3 incisor)と呼びます。3インサイザーは他の歯の先天性欠損と異なり治療計画立案が難しい歯並びになります。また、治療方針も様々あります。

※少し難しい専門的内容が含まれています。


3インサイザーでも問題はない

 下の前歯は先天性欠如があっても、奥歯と異なり永久歯がない部分に乳歯が残存し続けるという事はほとんどありません。普通は小学校低学年の生え替わり時期に乳歯は自然抜けてしてしまいます。その後、下の歯並びは1本少なくても特にすきっ歯にななる事なく自然に並ぶ事が多いです。

 歯科医院で指摘されない場合、そのまま保護者の方も本人でさえも3インサイザーである事に気が付きません。大人になってから歯が足りない事に気がつく事もあります。

3インサイザー
<レントゲンでみても前歯が3本しかない>

 ですから、3インサイザーであるからといって、上の歯並びも噛み合わせも問題がなければ、そのまま何もしなくても良いです。もちろん矯正治療は必要ありません。結局、「3インサイザーだから矯正治療をする」ではなく「矯正治療をしようとしたら3インサイザーであった」というタイプが多いです。

なぜ3インサイザーは難しいのか?

 緊密な噛み合わせを作ろうとする矯正歯科医にとって、3インサイザーはとても悩まされる症例になります。3インサイザーの矯正治療が難しい理由は主に2つあります。この理由は以下で説明していきます。

・前歯の本数が奇数になってしまい、上下歯列の正中線を合わせる事が困難になる。
・下の左右小臼歯抜歯の治療方針を選択する事ができなくなるため、奥歯の噛み合わせの調整が甘くなる

 ですから、歯の形に問題あったり、骨格の大きな非対称などがある場合を除いて、矯正歯科医は安易に下の前歯を抜歯して3インサイザーにする矯正治療する事は行いません。

正中線を一致させる事は難しい

 正中線は歯の種類と数が左右対称ではないないと、上下一致させる事が難しくなります。ですが、正中線を合わせるためだけにあえて歯数を減らす方針は選択しません。ですから、3インサイザーは非抜歯矯正治療の場合、正中線を下の真ん中の歯に合わせる事になります。正中線を上下一致させる事はできないのですが、上の歯並びが左右対称であれば、見た目はほとんど気にはなりませんのでご安心ください。

 その他、もともと骨格に非対称があるケースの場合は、正中線の設定をあえて隣の歯にズラす治療方法があります。稀ですが下の歯並びにでこぼこがある場合はもう一本下の前歯を抜歯するという方針を選択する事もあります。

3インサイザーの正中線設定
<一般的な3インサイザーの正中線設定>

下の両側小臼歯抜歯ができない

 一般的な抜歯矯正治療の方針は、上下小臼歯抜歯方針です。歯並びでちょうど中間歯である前から4番目の歯を抜歯する事で、前歯と奥歯の前後的な噛み合わせを調整する事ができます。

 ですが、3インサイザーで抜歯方針を選択する場合、歯の数を偶数にしなくてはならない関係上、左右片側1本しか減らす事ができません。よって、奥歯の噛み合わせの調整は多少犠牲にしなくてはならなくなる事があります。
以上の事より上の小臼歯は抜歯したとしても、下の歯並びは抜歯せず、3インサイザーのままにする方針が一般的な治療方針になります。

3インサイザーは抜歯できない
<下の歯並びを3本欠損にはできない>

3インサイザーの治療例

 ここで3インサイザーで、下の歯を抜歯していない場合と抜歯した場合の2つの例を紹介します。どちらも治療計画立案にはかなり苦戦しましたが、仕上がりは悪くはありません。

ケース1【下顎抜歯なし】

 3インサイザーによくある歯並びは、出っ歯と上の歯並びのでこぼこです。これは、歯の本数が多い上の歯列の方にスペース不足が発生してしまうからです。

 このような場合の治療方針は、歯の本数は奇数になってしまうのですが、上の左右第一小臼歯(4番)を抜歯して、歯並びを改善します。「II級仕上げ」という方針で奥歯の噛み合わせを安定させます。

ワイヤー矯正・3インサイザー
ワイヤー矯正・3インサイザー
ワイヤー矯正・3インサイザー
ワイヤー矯正・3インサイザー

<症例概要>
主訴:前歯の歯並びと噛み合わせ
年齢・性別:中学生女子
住まい:千葉県八千代市
症状:右下側切歯先天性欠損・上顎前突・叢生・過蓋咬合
治療方針:抜歯空隙閉鎖(中等度固定)
治療装置:白い表側側矯正装置(InVu
固定装置:ナンスホールディングアーチ
抜歯:上第一小臼歯(計2本)
治療期間111か月
リテーナー:上プレートタイプ+フィックスタイプ
治療費用850,000(+)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮

ケース2【下顎抜歯あり】

 上下の歯並びにでこぼこがある場合は、下の側切歯(2番)と上の左右第一小臼歯(4番)を抜歯する事で、歯の数を偶数にして並べる事もあります。
骨格が左右対称である必要があり、こちらの治療方針を選択できるケースはあまりありません。また、下の幅の大きい犬歯を前歯の位置に持ってくるために、歯のサイズ調整(IPR)が必要になります。

インビザライン・3インサイザー
インビザライン・3インサイザー
インビザライン・3インサイザー
インビザライン・3インサイザー

<症例概要>
主訴
:八重歯
年齢・性別:20代女性
住まい:千葉県鎌ヶ谷市
症状:叢生・クロスバイト・正中線のズレ・左下23癒合歯
治療方針:上顎後方移動、上下前歯唇側移動、ストリッピング
抜歯:上顎第一小臼歯・右下側切歯
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー)
治療期間:1年10か月
アライナー枚数:30+18+18+21ステージ(7日交換)
リテーナー:上下クリアタイプ+フィックスタイプ
治療費用:900,000(+税)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮

<治療シミュレーション>

右下の犬歯を抜歯したスペースに大きく移動させる方針です。

※完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります

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