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受け口治療の開始時期

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

受け口の治療

受け口(反対咬合)は下の前歯が上の前歯の受け皿のように前に出ている状態です。この状態では前歯で食べ物を噛む事ができません。長期的には奥歯への負担が大きく歯の寿命が短くなる可能性があるという報告もありますので、矯正治療を受けた方が良いとされている歯並びになります。

どのタイミングで受け口を治す矯正治療を開始するべきかは判断が難しい所です。これは、矯正歯科医の中でも意見が分かれます。お子さんの生活環境も考慮する必要があり、同じような歯並び・かみ合わせでも治療方針が全く異なる事があります。

受け口の3つの矯正治療開始時期

成長期のお子さんで受け口が発生するタイミングは3回あります。

  1. 就学前の乳歯列期
  2. 小学校低学年の前歯だけが永久歯の時期(混合歯列期前期)
  3. 中学生〜高校生の下あごの成長期(思春期性成長期)
受け口の治療開始時期
<3つの受け口の治療開始時期>

つまり、一旦矯正治療を行っても再発の可能性があるという事です。就学前の男子の場合は、乳歯列期から矯正治療を開始すると治療終了時期が20歳を超える事も考えらます。その後の後戻り予防のための保定も含めると、20年を超える通院が必要になる事もあります。

全てのお子さんがそうなるわけではありませんが、長期管理のリスクを考えると矯正治療の介入を行うかは、慎重に考えなくてはなりません。

就学前の乳歯列期

受け口・乳歯
<就学前の乳歯の受け口例>

乳歯のかみ合わせは、3歳前後で奥歯が生えてきた時期に決まります。この時期ではじめて「受け口」という症状がわかります。保健所の3歳児歯科検診などで指摘される事もあります。一度乳歯の歯並びが決まると、上の前歯が永久歯になる7歳くらいまでは、そのまま噛み合わせに変化ががない事が多いです。

永久歯と乳歯
<乳歯の下にある永久歯の種>

就学前に矯正治療を行うかのポイントは、「乳歯の受け口を治しても、その下の永久歯の位置が良い位置に移動するわけではない」という事です。お子さんが頑張って矯正装置を使用しても前歯が永久歯に生え変わる際には、受け口が再度発生する事例もあります。
また、逆に全く治療せず経過観察したが、前歯の生え替わりと共に勝手に受け口が治ってしまったケースもあります。

矯正治療を開始するという事は、常に何かしらの矯正装置を使っていただかなくてはなりません。既に「食べ物が噛めない」など日常生活に問題があったり、お子さんのモチベーションが高くご家族の協力も得られるのであれば、就学前から治療を始めても良い効果が出ると考えられます。

乳歯列期から受け口の矯正治療を開始する方は、これらの内容をご理解の上、治療を開始される良いと思います。重度ではなければ、小児用マウスピース【プレオルソ】などを夜間使用するだけで、半年以内で受け口は改善できます。ですが、特に困っている事がない場合は、そのまま小学生まで受け口を放置していても大きな問題にはなりません。

乳歯受け口の重症度判別

さて、上の2つの乳歯の受け口、どちらが重度でしょうか?

<右の受け口は正中のずれ・乳犬歯まで受け口があり重度>

一見似ているように見えますが右側の写真ケースの方が症状が重いです。前から3番目の下の乳犬歯が上より前に飛び出しているケースの場合、重度の受け口である可能性が高いです。さらに上下の正中線もずれている場合は、既に下あごの非対称が発現している可能性があります。逆に左の写真のように正中線が一致しており、下の歯並びに空隙がある場合は軽度なケースである事が多いです。

小学校低学年の前歯だけが永久歯の時期

下の前歯が生え変わった半年から1年後に上の前歯が生え替わります。下の前歯が永久歯でも上の前歯がまだ乳歯の場合は、受け口治療を行ってもすぐに上の前歯が永久歯に生え替わり再発してしまう事があります。いくら乳歯の位置を治しても、基本的には生え替わりと共にかみ合わせはリセットされてしまう傾向にあり、治療期間が無駄になってしまう事があります。

<上下前歯が永久歯になるまで治療待機が良い>

ですから、永久歯の上の前歯2本が全部生え切った所で矯正相談を受ける事が良いと思われます。ここで、家族歴やレントゲン分析を行い、あごの大きさや成長予測を行います。骨格性の原因が強く、小児矯正治療を行なっても治療成功率が低いと考えられるケースは治療を見送る事もあります。

特に、歯並びに左右差がある場合は、受け口以外にあごの非対称という症状がある可能性があります。非対称がある場合は、成長とともに噛み合わせが大きく変化する可能性があります。矯正治療単独で改善できないリスクもご理解いただく必要があります。

小学生の治療方法

<プレオルソType III>

治療方法はそれぞれの症状によって異なります。切端咬合といって上下の前歯を接触させる事できるケースの場合、小児用マウスピース【プレオルソ】により比較的簡単に改善をする事できます。床矯正装置や裏側固定装置などを使用しても同様の効果が得られます。
また上あごが極端に狭くでこぼこが強い場合は、固定式の拡大装置を使用する事もあります。症状によっては上顎前方牽引装置と呼ばれる夜間のお顔のマスク装置を使用して、上の歯並びを骨格ごと前方誘導する方針を選択する事もあります。

実際は小児矯正のみの治療で、その後に受け口が再発しないお子さんの方が多いです。ですが、多くはないのですが思春期の成長期に下あごが大きく前方成長してしまい後戻りしてしまうケースもあります。
下顎が前方成長するリスクの大きさはある程度は分析でわかりますが、この時期に成長量を予測する事は困難です。

中学生〜高校生の下あごの成長期

上あごは頭の大きさの成長に似ていて小学校低学年で成長のピークを迎えます。一方、下あごは体の成長に似ていて、永久歯列完成後に急激に大きくなります。この下あごの成長ピークは女子は13歳前後、男子では遅く15歳前後になります。男子はゆっくりと成長が18歳まで続きます。

スキャンモンの成長曲線
<スキャモンの成長曲線>

中・高校生の時期で下あごに大きな成長の兆候が見られる場合は、成長のピークが終わるまで治療開始する事ができません。この理由は、矯正治療による受け口の改善と下あごの前方成長が打ち消しあってしまい治療が前に進まないからです。

中学生以降に著しい下あごの成長があった場合、「下顎前突」になります。上下の前歯がぶつからないくらいに受け口が悪化したり、横顔を見て下あごの長さが気になる場合、矯正治療単独での受け口の改善は難しくなります。このような場合は顎外科手術を併用した外科的矯正治療になる可能性もあります。健康保険が適応である外科的矯正治療は大学病院をご紹介させていただきます。

骨格の成長量は予測困難

反対咬合・骨格の成長

小児期から始めれば、将来的な下あごの大きな成長が予防できるという確実なデータは今の所ありません。むしろ否定的な報告の方が多く、下顎前突を防ぐ事はできないと考えていただいた方が良いです。保護者の方があせって就学前の時期から矯正治療を行っても長期的には効果は少ない可能性もあります。

受け口治療は管理期間が長くなります。基本的には、急がずに乳歯列期の治療介入は避けて、上の前歯2本が永久歯にきちんと生え替わった時期で初診相談されるのが、バランスが良いと考えています。

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