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上顎前突治療のガイドライン

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

上顎前突治療のガイドライン

 上の前歯が前方に突出している症状である上顎前突(出っ歯)は日本人でも最近急増している歯並びになります。2014年に日本矯正歯科学会が上顎前突治療のガイドラインを一般公開しています。これについて詳しく解説していきたいと思います。文献検索については、電子検索データベースとして、PubMed あるいは医学中央雑誌を対象となっています。

上顎前突とは

 上顎前突とは「出っ歯」と表現されるように、一般的には上の前歯が下の前歯より大きく前方に突出した状態を言います。顎(あご)という言葉が入っていますが、上のあご骨が前方に出ているケースばかりという訳ではありません。過去の文献から上顎前突の特徴をまとめると以下になります。

上顎前突・出っ歯
  • 横顔で見て上唇が下唇より突出している
  • 上の前歯が下の前歯より7mm 以上前方に突出している
  • 上の前歯が前開きになっており前方に倒れている
  • 口が閉じにくく、外気にさらされている唇の部分が裂傷を起こしている
  • 上の歯並びに対して下あごの骨格や歯並びが後方に引っ込んでいる

上顎前突の治療の必要性

 上顎前突は、「見た目」の問題による心理面と、「噛めない」という機能面から、矯正治療の必要性を考えます。ですが、全ての上顎前突患者さんが歯並びの悪さを自覚し、不都合に感じているわけではありません。矯正治療で改善をするべきかは、問題点を整理して患者さんによく検討してもらう必要があると考えます。

 文献的には上顎前突は以下のような影響を与えます。

「好感度や」「聡明さ」などの他者からのイメージによる自尊心の低下など心理的な影響が出ます。
前方歯が噛み合っていないため噛み合わせが良くなく、持っている全ての歯をバランスよく生かす事ができていません。
上の前歯の外傷誘発リスクが正常な歯並びと比較して約2倍あるという報告があります。
(統計的に前歯をぶつけてしまい歯の破折や脱臼などしやすいという事になります。)

 一方、文献的には以下の内容のエビデンス(科学的根拠)は不確定です。

発音・顎関節症や歯ぎしりの改善と、矯正治療が直接的な関連があるというエビデンスはありません。
(ただし、上下の前歯が噛んでいる「開咬」が併発している場合は関係性があります。)
歯周病や虫歯との関連性は、上顎前突が直接的原因となるエビデンスはありません。
他の要因で発生した歯周病や虫歯の増悪因子として間接的な影響を与えている可能性はあります。)

 以上をまとめると、上顎前突の矯正治療「見た目の改善」・「前歯の噛み合わせの改善」「歯の外傷リスクの低減」は期待できます。
ですが、「発音・歯ぎしり・顎関節症」・「虫歯・歯周病」の改善は期待できません。

上顎前突の小児矯正

 まだ永久歯が生え揃っていない時期の矯正治療については1期矯正と言い、上下の顎骨の大きさや位置のバランス改善、歯列の成長発育を阻害する因子を取り除く事が目的になります。しかし、現時点では特に日本人に対しての治療効果について、エビデンスの高い報告はありません。今後の研究報告が待たれるとのことでした。

 他の矯正歯科学会団体では、「上の前歯が出ている子どもは、永久歯が生えそろうまでは、矯正歯科治療を行わないことを強く推奨します」という考えもあります。上顎前突のお子さんをもつ保護者の方は、いつから矯正治療を始めるべき悩むところだと思います。

日本矯正歯科専門医学会<上の前歯が出ているお子さんのための矯正治療ガイドライン>

 当院は、「後に仕上げ矯正を行っていただく必要がある事をご理解の上、突出している上の前歯の一時的改善を希望の場合は、小児矯正を勧めます。」と説明しております。この説明後に治療開始するお子さんの割合は30%程度になります。

ヘッドギア装置の効果

 ヘッドギア装置は、上の奥歯を首や頭にかけたゴムバンドから、後方に骨格ごと牽引し上顎の前方成長を抑えます。思春期成長前の早期治療では骨格に変化をもたらす事できるが報告されています。早期に行っておく事で、永久歯列が完成するまでの間に起こる機能障害や外傷を予防する効果が期待されます。また、後に記載する「上顎大臼歯後方移動」にも、副作用が少ない有効な方法とされています。

 しかし、2期治療まで行った患者さんの比較では、ヘッドギアにより抑制された上顎骨の成長も、時間と共に効果は消失してしまうようです。

ヘッドギア装置

永久歯列後の上顎前突の矯正治療

 永久歯列期の上顎前突を改善する場合、どのように前方に突出している上の前歯を引っ込める空隙を作るかが治療方針になります。そこで小臼歯の抜歯を併用するか、しないかは大きな論点になります。ここには明確な基準はありませんが、以下の3つで決まります。

・骨格の成長が残っているか
(成長期が遅く下顎骨格が後で前方成長する事があります)
・担当矯正歯科医の治療経験に基づく診断
(矯正歯科医にも流派があり得意な治療方法があります)
・患者さんや保護者の方の価値観
(絶対抜歯は受け入れられないという場合もあります)

 抜歯を行わなわずに上顎前突を改善する場合、一番採用される治療方針が「上顎大臼歯後方移動」になります。これは奥歯を順々に後方に押し込みスペースを作る治療方針です。欧米の研究ではエビデンスレベルが高いものが高く有効な治療方針とされています。

 しかし、アジア人とは顎の骨格構造が異なり、日本人にそのまま適応することは、難しいようです。短頭型で顎骨の奥行きが少ない日本人では成功率は低くなると予測されます。

<上顎前突の2つの治療方針>

 当院も上顎前突の治療方針に、「上顎小臼歯抜歯」か「上顎大臼歯後方移動」のどちらを選択するかは、詳しく検査をしてもいつも悩まみます。最終的には、患者さんの負担が少ない治療期が短く、成功率が高い方を選択しております。

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