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【大丈夫!?】シミュレーション動画通りに歯が動いていない!

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】のシミュレーション動画とは「歯にかかる矯正力」を示した設計図であり、「矯正治療の完成図」ではありません。

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

シミュレーション動画とは?

インビザラインをはじめとするマウスピース型矯正装置では、歯が少しづつ動きみるみるうちに理想的な歯並びが完成するシミュレーション動画というのが必ずあります。

多くの場合、診断時かマウスピースセット時に、患者さんにこの動画を見せながら担当医は治療概要を説明します。そして患者さんは、最終段階の歯並びを見て「こんなにキレイになるんだ」と思いながら、長い治療期間を頑張って進めて行きます。

ですが、このシミュレーション動画の作成目的は、患者さんに矯正治療のゴール地点を見せるためではありません。実は、マウスピースを作るための単なる設計図でしかないのです。

<シミュレーションでは簡単に歯は動く>

セットアップの模型画像を重ねたもの

通常、矯正装置を作る場合は、「歯をどのように動かしたいか」を考えてそれを設計図に加え作成を行います。特にマウスピース型矯正装置の場合は、何十枚ものアライナーと呼ばれるマウスピースを作って少しづつ歯を動かしていくため、一枚づつ歯の動く方向や力の量を調整したセットアップ模型というマウスピースを作るための型版が必要になってきます。このセットアップ模型という型版にシート材料をプレスしそれぞれマウスピースが作られていきます。

実は、このマウスピースを作るために必要なセットアップ模型の画像を最初から連続させて、つなげたものがシミュレーション動画となります。ですから、これは「矯正治療の完成図」ではなく、ただの「設計図を連続させたもの」でしかないのです。

シミュレーションどおりになる事は絶対ない

シミュレーション動画という言葉が、患者さんにとってもいかにも「完成予想図」のような感じに聞こえてしまうため、誤解を持ってしまう事が多くなります。当院でも、治療中に次のような相談を受ける事があります。

「マウスピースを最後まで使用したがシミュレーション通りに歯並びになっていない」
「マウスピースに浮いている部分があるが歯がシミュレーションどおりにうごいていないのではないか」

シミュレーション動画とは、単に歯にかかる矯正力の方向や量を示したマウスピースの設計図であるため、ゴール地点でも治療経過でもないのです。ここの説明が非常に難しいのですが、矯正力というのは100%歯に伝わるわる事はありません。様々な理由で必ずエネルギーロスが発生しており、実際には60%程度しか伝わっていない事もあります。これがマウスピース型矯正治療では、何十枚と繰り返されるわけですので、当然治療の終盤では予定通りに歯が動いていない部分も発生します。実際の歯の動きが、シミュレーション動画とズレてくるのは当然なのです。

モチベーション維持のためにシミュレーション動画は必要

ここまで、説明すると「どうせ予定通りに動かないのであれば、シミュレーション動画なんて最初からない方が良いのではなか」という声が聞こえてきそうですが、そんな事はありません。それは、この動画は実際にマウスピース型矯正装置を使用する患者さんのモチベーションになるからです。

マラソン大会では、途中に1km過ぎる事プラカードが立ててある事で、今自分がどれくらい走ってきたか分かり、ランナーはゴールに向かって頑張る事ができます。マウスピース型矯正治療も同じで、1枚交換ごとにどのように歯が動く力がかかっているのかを患者さんが知る事で、安心してゴールまで走る事ができるのです。

ゴールが見えないマラソンは、ずっと暗いトンネルを走っているようなもので、モチベーションが続きません。ですから、患者さんもシミュレーション動画を「完成図」とは考えず「簡単な地図」と思って、上手く利用していただければ良いと思います。

<ゴールがあるから走る事ができる>
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