矯正治療と親知らず抜歯
矯正治療を開始する上で、「親知らずを抜歯しなくてはならないのか?」気になるところです。親知らずの抜歯が必要なケースについて詳しく説明いたします。
目次
矯正治療で必ず親知らず抜歯が必要なわけではない
矯正治療を検討の方は、親知らずを必ず抜歯しなくてはならないと思っている方もいます。親知らずの抜歯といえば「痛い」「腫れる」など、あまり良いイメージがありません。患者さんは、親知らず抜歯があるというだけで矯正治療に躊躇してしまいます。
ですが、矯正治療を受けられる方全てが親知らずを抜歯しているかというと、そうではありません。むしろ、矯正治療前に抜歯していない方が多いと言えます。「抜歯が必要か」は個々の歯ならびの状況によって異なりますので、初診相談時に可能性があるか、担当医の先生に確認をしておくと良いと思います。
そもそも親知らずがあるのか?
親知らずは歯茎の中で横に向いて埋もれている事も多々あります。ですから、「親知らずがあるか?」はレントゲンを撮影して判断します。正常であれば18〜22歳くらいに生えてきます。歯の種自体は歯茎から生える6年くらい前に見えてきます。ですから、早いお子さんだと12歳くらいで「親知らずを持っているか」の判断をする事ができます。
日本人は欧米人と比較して顎の奥行きが短く親知らずの欠損が多い民族です。昭和大学歯学部の研究では、親知らずの種が欠損する遺伝子配列が既に発見されており、遺伝的要素も影響しているようです。1本でも親知らずが先天的に欠損してる可能性は30%程度のようですが、上下左右4本全ての親知らず欠損している方は比較的マレです。
親知らずはどのように生えてくるのか
現代人のあごの骨格は、どんどん小さくなっていますので、最後に生える親知らずが並ぶスペースが足りない事が多くなっています。そうすると、あご骨の中に埋まったまま出てこないか、悪い位置から生えてくる事になります。上の親知らずはあごの外側に、下の親知らずは前に倒れて半分埋まった状態になって生えるケースが一番多いです。どちらも歯磨きが行き届かないため、虫歯のリスクが高まります。
親知らずが生える際は歯茎を破って出てくるため「智歯周囲炎」といって一時的に歯肉炎になります。さらに「萌出痛」といって、奥歯にジ〜ンとする痛みが2〜3か月続きます。その後、この痛みはなくなります。
矯正治療で親知らず抜歯が必要なケース
矯正治療において親知らずを抜歯する方針の場合は、何かしらの意図があって行います。3つのケースを下記に説明します。
ただし、親知らず抜歯が必要な方でも、一旦抜歯を後回しにして、矯正治療を進めてくれる場合もあります。
既に親知らずが問題を起こしている
矯正治療をするしないに関わらず、既に生えている親知らずが一般歯科で抜歯対象の状態になっている場合は、矯正治療を始める前に抜歯を行う事をお勧めします。
- 横に向いている下の親知らず部分に汚れが溜まりやすく、頻繁に歯茎が腫れる
- 親知らずの虫歯が進行しており、一般的な虫歯治療が困難な部位にある(上の親知らずに多い)
- 1つ手前の12歳臼歯の後ろの部分が虫歯になっており、虫歯治療が親知らずが邪魔でできない(下の親知らずに多い)
- 上の親知らずが下に延びてきて常に粘膜を噛んでしまい痛い
矯正治療の計画上親知らず抜歯が必要
矯正治療の計画では歯を並べる方法を考えます。その一つに「奥歯の後方移動」という歯並びの奥行きを広げる方法があります。この治療方針をとる場合は、一番後ろにある親知らずの抜歯が必要になる事が多いです。
既に生えている親知らずはもちろんですが、まだ生えておらず歯茎の中に埋まっている場合も、前方歯の歯根がぶつかってしまうため抜歯になる事もあります。歯茎の中に埋まっている「埋伏親知らず」を抜歯する場合は、特別に口腔外科を得意とする歯科医院で、歯茎を切って抜歯を行う必要があります。抜歯後は周辺の骨も削る必要があり1週間ほど顔が腫れてしまいます。
矯正治療結果の予後が悪くなる場合は予防抜歯
歯は「萌出力」と呼ばれる自動エンジンがついた状態で歯茎を破って出てきます。特に親知らずの萌出力は強力で、歯列全体を前方に倒す力が働きます。この力によって、一度矯正治療して治した歯並びが崩れてしまう可能性がある場合は、生える前の親知らずを予防的に抜歯する事が望ましい事があります。叢生や上顎前突を非抜歯で矯正治療をした方が当てはまります。
親知らずが生えてくるのは平均20歳前後ですが、その時に抜歯しても既に手遅れです。萌出力の影響がある場合は、この時点で既に歯並びは崩れてきています。予防抜歯の場合は18歳より前での抜歯が必要になります。
ですが、予防抜歯はまだ生えていない歯茎の中にある親知らずの抜歯であり、歯茎の切除と骨の削除がある小手術です。未成年の方に抜歯をお願いするのは、中々難しいと言えます。さらに親知らずの萌出力が矯正治療後の歯並びを崩す全ての原因というわけではありませんで、過剰治療の可能性も否定できません。
治療途中に親知らずが生えてくる事で抜歯になる事もある
矯正治療中に親知らずが生えてきて痛くなる事はよくあります。親知らずに萌出力がないはずの30代以降の矯正治療でも起こります。これは前方歯列が動いた事により後方に奥行きができたため、隠れていた親知らずが口の中から見えてくるからです。患者さんが親知らずが出てきた事に気が付かない場合は、そのまま歯磨きが行き届かず、智歯周囲炎を起こしてしまい痛みが発生してしまいます。
親知らずを抜歯する際には、外科処置の邪魔にならないよう既に装着されている奥歯の矯正装置を一時撤去しなくてはならない可能性がありますので一度矯正歯科の担当医に確認が必要になります。
写真は矯正治療中に親知らずが生えてきた例です。矯正治療終了後に虫歯予防の目的で抜歯していただきました。