ブログ

【実例あり】固定式フィックスリテーナー

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

定期的な歯科医院での管理が可能であれば、フィックスリテーナーは矯正治療後の後戻り防止に有効な方法です。

先日、来院された患者さんの希望でこのような方がいらっしゃいました。「歯の裏側の固定している針金が一部外れてしまったので、またつけてほしい」との事でした。この針金はフィックスワイヤーといって固定式のリテーナーの一つです。

患者さんによく聞いてみると矯正治療後10年近くも装着しているとの事でした。以前、治療を受けた矯正専門医から必ず後戻りするのフィックスリテーナーは外さない方が良いと言われたそうで、接着材が外れる事に律儀に付け直しに行っていたそうです。

矯正治療後の後戻りは1番の心配事

後戻りは矯正治療後の患者さんの不安要素の一つです。この後戻りが発生する理由は、リテーナーの使用が不十分である事がほとんどです。矯正治療後には全員リテーナーが必要になります。

リテーナーには「取り外し式」と「固定式」の2パターンがあります。取り外し式は、患者さんに歯並びの後戻り管理が任せられています。当たり前ですが、取り外し式は規定通り装着しないと後戻りの可能性は高まります。

一方、固定式は針金が歯面についている限り歯は動かないため、後戻り防止を強力にアシストしてくれます。固定式を装着できる場所には条件がありますがリスクの高い方は絶対にあった方が良いと言えます。

フィックスリテーナー 写真
<上下の前歯の裏側にフィックスがついている様子>

フィックスワイヤーリテーナーとは?

フィックスリテーナーは、歯の裏面の形に合わせて太さ0.5mm以下のワイヤーを屈曲させて作成します。一般的には歯型をとって模型を作り、矯正専門の技工所でオーダーメードで作成します。左右の犬歯間に計6歯にレジンという樹脂性接着剤で固定するタイプが多いです。接着剤は非常に薄いため、舌感が悪かったり、発音に支障が出る事はありません。

フィックスワイヤー リテーナー
<細いワイヤーなので違和感はありません>

フィックスリテーナーの撤去時を希望の場合は、接着材を削り取らなくてはならないため時間がかかります。当院では治療終了から2年たった患者さんには、そのままにするか撤去するかを必ず聞きます。後戻りを考え外さずにそのまま残しておく方の方が多いです。

全てのケースに固定式をつけるべきか?

フィックスリテーナーは1度接着すると絶対外れない訳ではなく、部分的に外れてしまう事があります。治療後2年間全くワイヤーが外れなかったという方はあまりいません。基本的には故障するものだと思っていただく必要があります。ですから、矯正治療後も必ず検診にいく必要があります。

患者さんにとっては、この部分を面倒と感じる方もいます。ですが、それ以上に見える前歯部分の後戻りリスクを大きく軽減できるメリットを考え、当院では必要な方には積極的に設置するようにしています。主に使用するのは以下のようなタイプの患者さんです。

歯の裏側に装着する装置で治療した方

裏側装置(リンガルブラケット)で矯正治療を受けられた患者さんは、治療中も前歯の細かい位置を確認できるため、少しの後戻りでも敏感である傾向にあります。ですので、上下の前歯にほぼ必ずフィックスリテーナーを設置します。

もちろん、取り外し式のリテーナーも併用するのですが、目立つ事や取り外しが面倒といった理由で規定通り使用してくれない事もあります。ですから、その際の後戻りの保険にもなります。

前歯のスペースや捻れなど後戻りしやすい歯並びの方

上の前歯のスペースやねじれて回転している前歯は、治療後に規定通り取り外し式リテーナーを使用しても後戻りしやすいと言われている歯並びです。このような歯並びには部分的にフィックスリテーナーをつけたりする事があります。

フィックスワイヤーの適応症
<歯周靭帯と呼ばれる繊維の力で戻りやすい>

下の骨格と歯並びが狭い方

海外でこのような研究報告もあります。
「矯正治療後に下の前歯の歯並びの横幅は必ず減少する。」
つまり治療後に何もしなければ、下の前歯のデコボコは必ず戻るという事です。下あごが狭い出っ歯傾向のお顔の方は下の歯並びが狭くならないようフィックスリテーナーを設置した方が良い事があります。

<20年前矯正治療をしたが歯列が狭くなって後戻りした例>

フィックスリテーナーのデメリット

一見、万能に見えるフィックスリテーナーなのですが欠点もあります。それは接着剤の劣化や部分的に強い力がかかると歯から外れてしまう事です。特に上の前歯のワイヤーは下の前歯が噛み込むため外れやすいと言えます。

しかも1箇所だけ外れていても端の部分が外れていなければ、患者さんは気がつきません。ワイヤーが外れたからといって、すぐに歯科医院を受診するとは限らないため、その合間で歯が動いてしまうという事はよくあります。

また、下の前歯の場合は、歯石もつきやすいです。デンタルフロスが途中までしか通せません。こういった理由から、フィックスリテーナーをつけている時は年1回でも良いので定期チェックを受けなくてはなりません。

※上の前歯のフィックスワイヤーやフロスは工夫すれば通せます。

このような理由から固定式のフィックスリテーナーは管理が難しいため、全ての矯正専門クリニックでも使用しているわけではありません。当院は、成人の方の矯正治療後には、フィックスリテーナーに取り外しのプレートタイプリテーナーを通常使用しております。

成人矯正後のフィックスリテーナーの例

当初は、取り外し式リテーナーもしっかり使っていた方も、1年後には全く使用しなくなってしまうという例は結構あります。この例は、上の歯並びのでこぼこが強かったため、矯正治療後は固定式と取り外し式のリテーナーを併用していました。下の歯並びは軽度のでこぼこであったため固定式は設置しておりません。

<治療前>
<上の歯にフィックスリテーナー装着>

<症例概要>
主訴
:叢生
年齢・性別:30代女性
住まい:千葉県船橋市
症状:著しい叢生・正中線のズレ
治療方針:抜歯空隙閉鎖(中等度固定)
治療装置:白い表側側矯正装置(クリアティ)
固定装置:リンガルアーチ
抜歯:上顎第一小臼歯・下顎第二小臼歯(計4本)
治療期間:2年6か月
リテーナー:上下プレートタイプ+上フィックスタイプ
治療費用:850,000(+税)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮

<治療後2年経過時>

実は、この患者さんは治療後に妊娠・出産などがあり、最初の半年以降は、取り外し式のリテーナーは全く使用していなかったのです。人の生活スタイルは日々変わります。今回は、途中何回か再接着も行いましたが、念のために設置し固定式リテーナーには意味はあったと言えます。良く見てみると、固定式がリテーナーがついていな下の歯並びは若干崩れています。

結局、フィックスリテーナーは歯並びの後戻りに対する自分への保険と考えてもらうと良い考えます。全ての方が、治療後もしっかり取り外し式のリテーナーを使用してくれるとは限らないからです。

このエントリーをはてなブックマークに追加