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どうする?【犬歯の埋伏】

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

頻度として多い上の犬歯の埋伏の治療方法は、開窓牽引か抜歯になります。いずれにしろ矯正治療が必要になります。

埋伏とは?

本当は歯が生えてくるはずの時期に、歯茎から生えてこない事を「萌出遅延」と呼びます。当院では、左右どちらかの歯が既に生えているのに、6カ月以上反対側は出てこない場合、萌出遅延と判断します。

さらに、萌出遅延になっている歯が、1年くらい経っても位置に変化がなかったり、レントゲン写真で生える向きが歯茎方向ではない場合、そのまま待っても歯が普通に生えてくる事が期待するできなくなります。この場合は「埋伏」と呼びます。親知らず以外で埋伏が多い歯は上の犬歯になります。

犬歯がでてこない
<生えるのが遅れている?埋伏?>

上の犬歯の埋伏パターン

上の犬歯の埋伏には2つのパターンがあります。1つ目は「スペース不足の問題」、2つ目は「歯胚の位置の問題」です。2つ目の方が原因としては多く、埋伏率も高いと言えます。

スペース不足の問題

<生えるスペースがない>

上の永久歯の中で、12才前後と最後に生えかわる歯である事が多いのが犬歯です。そのため、歯の大きさと骨格の大きさのバランスの不調和がある時は、先に生え変わってしまった他の永久歯がスペースを奪ってしまい、犬歯が萌出遅延を起こします。その中にはそのまま埋伏してしまう事もあります。

このパターンの場合は、縫合といって骨の縫い目が完成していない上顎の骨格を小学校低学年で固定式装置で急速拡大する方法で予防する事が可能である事があります。元々の歯の生える方向が下に向かっている場合は、ある程度有効的な手段です。

歯胚の位置の問題

犬歯の生える向きが悪い
<最初から犬歯が横に向いている>

一方、小学生低学年時に歯の種である歯胚が作られる時に、既に犬歯の生える方向が下ではなく横や前になっているパターンもあります。犬歯が下にまっすぐ生えてこず、骨の中で横方向に進んでいきます。この場合は、高い確率で犬歯が埋伏してしまいます。

こちらは歯胚の段階のため、特に予防の手立てはありません。まれに嚢胞(のうほう)といって歯胚が膿の袋に変化する事もありますので、経過のレントゲンを取り続けた方が良いと考えます。乳歯の時期に虫歯が多いお子さんの場合は、感染がその下の永久歯まで広がり、化膿してしまい嚢胞化するケースもあります。

埋伏に関しての問題

埋伏した犬歯ですが、そのまま問題ないのであれば、「眠れる獅子は起こすな」という気持ちで、そのままにしておきたいところですが、そうは行かない理由があります。

前歯の歯根吸収

歯はまだ生えていない歯胚の状態の時は歯嚢という液体の袋に覆われています。この袋の中の細胞は、まわりの骨や乳歯を溶かすようにプログラムされています。これにより永久歯は乳歯を溶かし、歯茎から出てくるわけです。

<前歯の歯根吸収>

これが正しい向きに犬歯の歯胚が向いていない場合はというと、間違って先に生えている永久歯の根っこを溶かしてしまうのです。2つのパターンがあり、①前歯歯根の側面が少しだけ吸収するケースと、②前歯歯根の根本に上の歯胚が入る事で、完全に歯根が吸収されるケースがあります。②のパターンの場合は、多くの場合は歯根が溶けた前歯は抜歯になってしまう事が多いと言えます。

乳歯脱落時の空隙

埋伏した場合、その上のの乳歯は適切な時期に歯根が溶けず、他の歯が永久歯に生え変わった後も抜けないで残り続ける傾向にあります。ただし、乳歯はそのまま永久的に保存できるわけではなく、徐々に歯根が短くなり、頭の部分だけ前に飛び出したしてしまうため、20代で自然に抜けるか抜歯になってしまう事が多いようです。そうすると、前歯の横に大きなスペースができ、審美的にも悪くなってしまいます。また、犬歯の噛み合わせが悪いケースは、下顎の運動時に顎関節に負担がかかりやすくなります。

鼻腔に上昇する事も

ケースとしては少ないのですが、犬歯の歯胚の先が歯茎と逆の上に向いている場合、鼻の空洞近くまで登っていってしまいます。多くの場合は無症状なのですが、この場合はこの埋伏犬歯を出す事はあきらめる形になります。

犬歯が鼻腔方向に上昇
<鼻腔方向に登っていってしまったケース>

解決法は牽引か抜歯

埋伏犬歯の治療法ですが、矯正装置を使用して歯茎から牽引して出すか、口腔外科で摘出してしまうかのどちらかになります。

引っ張って出す牽引

埋伏牽引
<開窓直後の牽引フック装置>

牽引を行う場合は、まず開窓といって、埋伏している犬歯に外から矯正装置を装着できるように、歯茎の切開と周囲骨の削除という外科処置を行います。そこに、牽引フックを装着します。牽引フックを奥歯を固定した矯正装置から徐々に引っ張り、歯を出していきます。年齢にもよりますが多くの場合1年以内に歯茎から歯の先端が見えてきます。逆に見えてこない場合は、アンキローシスと呼ばれる骨性癒着が起きている可能性があるため、治療方針の見直しする必要があります。

また、歯を牽引するには、非常に強い固定源が必要になります。たった1本の犬歯を出すために、他の歯並びは悪くなくとも上下奥歯まで矯正装置を装着しなくてはならない事もあります。これが、歯並びが悪くない患者さんの場合は、大きな負担になります。

あきらめて抜歯する

埋伏歯は抜歯するという治療方針を立てる場合もあります。これは、もともと日本人は、歯と顎の大きさのバランスが悪く歯並びが悪い傾向にあり、矯正治療を行う場合は抜歯を併用する事50%近くです。元々歯を減らさなければ、矯正治療ができないケースは、積極的に埋伏歯を抜歯するという治療方針を立てる事もあるわけです。

牽引の成功率は100%ではありません。リスクを減らす事を考えると抜歯という方針も無くはありません。抜歯は健康保険も適応になります。こちらの場合は、その後、歯数を左右合わせるために、抜歯矯正治療が必要になります。

費用について

犬歯埋伏の矯正治療には普通の矯正治療より費用負担が大きくなります。開窓牽引手術の費用は、自費診療となり別途口腔外科でお支払いが必要になります。同じ病院で開窓処置と牽引矯正装着を同時に行う場合、検査費も含め10〜15万円程度の費用になります。その後の矯正治療は一般的な全体矯正治療費で100万弱がかかる事になります。

2018年より保険制度が変わり、「3歯以上、前歯の永久歯に埋伏がある場合」は保険診療で矯正治療が受けれられるようになりました。ただし、残念ながら3歯埋伏というのはマレです。多くは1歯・2歯の埋伏であり保険適応外になります。

【参考】矯正歯科治療が保険適応の場合
(注:当院は、保険診療対応医療期間ではございません。)

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