あごを作るオートローテーションとは?

口元が前に出ており、あごがないのように見える口ゴボの矯正治療には、「抜歯矯正治療」、「外科的矯正治療」以外に、「オートローテション」という方法もあります。これについて適応症も含めて詳しく解説していきたいと思います。
目次
あごがない?とは

日本人は、下あごが後退している出っ歯傾向の歯並びが多いと報告されています。口を閉じようとすると無理にあごの筋肉に力をいれなくてはならず「あごがない」状態になります。口元が前方に出ている状態のため「口ゴボ」(上下顎前突症)とも言われ美容的にも改善を希望される方が多いです。これは唇の下のあご先がすっきり見えず、横顔でEライン(鼻先とあご先のライン)から口元が突出している状態になります。
あごを作るためには

この状態を改善するには、出ている口元を前歯と共に引っ込めるか、後ろにある下あごを前に出すかになります。第一選択は、上下合計4本小臼歯抜歯を行い唇を後ろに引っ込める方法が選択されます。あごのサイズがあまりに小さい方は、外科的矯正により下あごを前方に出します。
その他の方法として、下あごの位置を上前方に変化させることで、顎先を作る方法もあります。これは歯並びを動かすことで、下あごの位置が顎関節を中心に自然に前方回転するため「オートローテション」と呼びます。右側から見ると反時計方向に下あごが動くため「カウンタークロックワイズローテション」とも言ったりします。あご先が前方に出ますので、横顔のバランスが良くなり、下顔面高が短くなります。
オートローテションの方法

下あごを前方回転させるには、噛んだ時に奥歯のぶつかりが遅くなるように、奥歯(大臼歯)を歯茎方向に沈める「圧下移動」が必要にあります。いつも噛んでいる場所より深く噛むように設定していくのです。
この大臼歯の圧下移動はワイヤー矯正単独では難しく、歯科矯正用アンカースクリューを用いて歯茎側から牽引する必要があります。
一方、大臼歯の噛む面を覆うマウスピース型矯正装置では、コントロールは難しいのですが、単体で同様の圧下移動を行うことができます。

オートローテーションの適応症

オートローテーションは全ての方に効果が出るというわけではありません。基本的には歯並びが開咬(オープンバイト)の方が適応です。あごの回転後は前歯がぶつかってきますので、治療前は上下の前歯が縦に大きく離れている方が有利になります。オートローテーション後は、前歯の噛み合わせは深くなっていきますので、治療前の歯並びが過蓋咬合(前歯の深噛み)の場合は、どんどん悪くなっていきます。このような場合は、奥歯以上に前歯もアンカースクリューで圧下しなくてはならず成功率が下がっていきます。
また、ハイアングルといって顔が面長で、あご先も長い方が前方回転の振れ幅が大きくなり、あご先はきれいに出やすくなります。下顎下縁平面といって横顔であご下の前後のラインの角度も急であるため、十分な回転量が確保できます。
オートローテションの予後
残念ながらオートローテションは後戻りしやすい治療方法です。その理由は、他の治療法方法と異なり、上下奥歯の上下的な位置を維持できるリテーナー(保定装置)がないからです。さらに、ハイアングルケースの場合は、あごの筋力も弱いため、せっかく前方回転した下あごをその位置で維持することはできません。もともと開咬の予後は他の歯並びと比較してもよくありません。
あごを引っ込めるオートローテーションもある
今までの話と逆ですが、下あごを前方ではなく後方に回転させる方法もあります。奥歯を歯茎方向から出す挺出移動を行うことで、少し口が開いた状態で噛み合わせを安定させます。受け口(反対咬合)の方で下あごを少し引っ込める際や、奥歯を喪失し下顔面高が短くなっている方が対象となりあります。

オートローテション治療例
一度矯正治療を受けても時間の経過とともに、歯並びと噛み合わせが崩れてきてしまう方はいらっしゃいます。特に開咬は後戻りの管理が難しいと言われている症状です。20年経ってかなり前歯が開いてきてしまいましたので、再矯正治療で元の状態まで戻す治療を行いました。
奥歯が強くぶつかって、前歯で噛めない状態であったため、奥歯を沈ませる移動が得意なマウスピース型矯正装置を使用しました。治療効果で奥歯の引っかかりが解除され、前歯で噛み締められるようになり、下あごの位置が前上方に移動しました。その結果、口が閉じやすくなったという副次的効果も得る事ができました。






<症例概要>
主訴:前歯のでこぼこ
住まい:東京都江東区
年齢・性別:40代女性
症状:開咬・叢生・20年前に抜歯矯正済
治療方針:上顎遠心移動・IPR・下顎前方回転
治療装置:マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
治療期間:1年9か月
アライナー枚数:50+23+21ステージ (7日交換)
リテーナー:上下プレートタイプ+上下フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用
<治療シミュレーション>
上の奥歯を歯茎方向に沈める事で、奥歯の当たりを弱くし、前歯で噛めるようにする計画です。
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。