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抜歯矯正治療のデメリットと副作用

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

 矯正治療の相談で多い「口ゴボ(上下顎前突症)」の一番の治療方法は上下の前から4番目の歯を抜歯する抜歯矯正治療です。初診時の問診で「横顔を変えたい」という患者さんの希望がある場合は、かなりの確率でこの治療方針が選択されます。Eラインと呼ばれる横顔のフェイスラインも整えることもできます。ですが、SNSでは抜歯矯正治療を受けた患者さんからデメリットや副作用による後悔も書かれていたりします。今回はこの内容について専門的に解説していきます。

抜歯矯正治療とは

抜歯矯正治療とは

<抜歯矯正治療では前から4番目の歯を4本減らす>

 歯並びが悪くなる原因の一つとして、あごと歯の大きさのバランスが問題であることがあげられます。つまり、小さなあごに大きな歯が並びきらないという状態になっています。歯を並べるスペースを作る方法は様々あるのですが、歯の数を減らす「抜歯矯正治療」が一般的な治療方針として選択されることが多いです。主に以下の3つの問題を解決するために抜歯方針が選択されます。

  1. 横顔の改善
  2. 前歯を引っ込める
  3. 歯を並べるスペース獲得

横顔の改善

抜歯矯正による横顔の変化

<抜歯矯正による横顔の変化>

 理想的に口元は、鼻先とあご先を結んだEラインという基準線上に唇が触れるくらいの状態です。Eラインから唇が前方に出てくると、無理をしないと口を閉じることができない状態になります。さらに重度になってくると、唇の下に筋肉の緊張によるシワができやすく、「あごがない」ように見える状態になります。

 抜歯によってできた隙間に前歯を後方移動させることで、その前方にある唇が後ろに引っ込み横顔が改善します。ただし、この横顔の変化は、歯の移動から間接的に改善する形になるため、詳細な予測は難しいと言えます。体重の増減による皮膚の脂肪量からも影響を受けます。

出っ歯を引っ込める

抜歯矯正による前歯の位置の変化

<抜歯矯正による前歯の位置の変化>

 出っ歯は上顎前突といって前歯が前開きになって出ており、スマイル時に前歯が目立つ状態です。前歯のかみ合わせも良くないことがあります。こちらも抜歯をすることで前歯を後方に傾斜移動させることで改善することができます。

 一見すると「横顔の改善」と同じ目的のように感じますが、「出っ歯≠横顔が悪い」とは限りません。よって、横顔が悪くない出っ歯の場合は、前歯の位置は良くなっても、口元が下がりすぎてしまうということがあります。

スペース獲得目的

前歯の歯並びを並べるために抜歯

<前歯の歯並びを並べるために抜歯>

 歯を並べるスペースが著しく不足している場合には抜歯を行います。目安としては1歯分(8mm)を超えたスペースが必要な場合は、高い確率で抜歯が必要になります。

 こちらの問題点は「隙間の量をコントロールすることができない」という点です。抜歯をする歯の横幅は決まっていますので、欲しい量だけ隙間を作ることはできません。余ってしまったスペースに過剰に前歯を後ろに引っ込めてしまうこともあります。

抜歯矯正のデメリット・副作用

あごが小さい方が多い日本人にとって、抜歯矯正治療は、前述の「横顔の改善」「前歯を引っ込める」「歯を並べるスペース獲得」の3つの目的のうち2つ以上が当てはまる場合は非常に有効です。ですが、1つのみの改善目的で抜歯矯正治療を受ける場合は、下記に記載するデメリットや副作用を患者さんが感じやすくなります。

スマイルが暗くなった

 どうしても前に出ている前歯を後ろに引っ込めるため前歯の露出範囲は少なくなります。特に口の入り口が小さい方は、スマイル時に歯がほとんど見えなくてしまったと感じることもあります。歯が見える量が多いほど好印象なイメージがある場合もあるため、気になる方は一定数います。

抜歯矯正でスマイルの印象変化

<抜歯矯正でスマイルの印象変化>

 さらに抜歯矯正は歯列の横幅を狭くするため、もともと歯並びの狭い方は「バッカルコリドー」といって口角と歯列の間に黒い隙間が広くなり、歯並びが暗く見えることがあります。また、歯が逆三角形で細長いタイプの方は、前歯を引っ込めることで、角度が変わり「ブラックトライアングル」が発生することで「すきっ歯」に見えるようになる方もいます。

 このように歯並びに暗い部分が増加することで、スマイルの印象も暗くなってしまうケースもあります。

バッカルコリドーとブラックトライアングル

<バッカルコリドーとブラックトライアングル>

ほうれい線が深くなった

 ほうれい線はの両側から唇の両端にかけて八の字に伸びる2本の線です。前歯の位置が後ろに後退すると、一緒に歯茎やあご骨の量は変化するのですが、頬の皮膚組織の量は変わりません。よって、抜歯矯正により前歯が引っ込み、頬まわりの皮膚が余ることでたるんでしまい、ほうれい線が深くなる方もいます。

 また、矯正治療期間は3年弱かかりますので、その間のエイジングもほうれい線が深くなる原因となります。10代患者さんの矯正治療は問題ないのですが、ミドルエイジの方の抜歯矯正治療には注意が必要になります。

抜歯矯正でほうれい線が深くなる

<抜歯矯正でほうれい線が深くなることも>

口の中が狭くなった

 抜歯矯正は歯並びが前後だけではなく横幅も狭くなります。低位舌といって、もともと舌を置く位置が適正でない方の場合は、口の中が狭くなったと感じます。その結果、舌の位置が後方に押し込まれ、気道が狭くなるケースもあります。こういった方は、治療後に備えて、矯正治療の早い時期から口腔筋機能訓練を行っておく必要があります。

抜歯矯正で口の中が狭くなる

<抜歯矯正で口の中が狭くなる>

人中が伸びた

 抜歯矯正治療で人中(じんちゅう)といって、前から見た鼻下から上唇までの距離が長くなったと感じる方もいます。美容面になりますが、一般的には人中は短い方が良いというトレンドがあります。ですが実際は、抜歯矯正で皮膚が伸びるということはありませんので、前歯が後ろに引っ込むことで、口が閉じやすくなり、その前にある皮膚の見える角度が変わっただけになります。逆に前歯が引っ込むことで口元の緊張がほぐれ人中が短くなった感じる方もいます。このように、人中の見え方は矯正治療で多少変化するものですが、実際はかなり軽度であるため多くの患者さんは気にはされません。

抜歯矯正で人中が伸びたと感じる理由

<抜歯矯正で人中が伸びたと感じる理由>

口元が下がりすぎた

 「口ゴボ」を治したいという患者さんに、口元が下がりすぎたという方はほとんどいません。どちらかというと、「前歯を引っ込める」や「歯を並べるスペース獲得」の目的で抜歯矯正を行った方に起こります。

 口元の下がり具合はもともとの唇の厚みも影響しています。唇が薄い方の方が、同じ前歯の後退量でも口元が下がりやすい傾向にあります。また、あご先が前方にくっきり出ている横顔の方は、前歯を後ろに引っ込めると、口元が下がることで相対的にあご先が前に出て「しゃくれ」たように見えることがあります。

抜歯矯正で口が下がりすぎるイメージ

<口が下がりすぎるイメージ>

抜歯矯正は悪なのか?

 ここまで説明すると「抜歯矯正は悪い」というイメージを持ってしまうところですが、そうでもありません。ほとんどの患者さんは抜歯矯正治療を受けて、歯並びや横顔に満足をしています。もともと日本人を含むアジア人は欧米人と比較して骨格が前後的に短く、鼻先やあご先が前に出ていないためEラインも良くありません。ですので、横顔のバランスをよくするためにも抜歯矯正治療の適応の方は多いと考えます。

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