抜歯矯正治療に対するマイナスイメージ

抜歯の相談
●患者さんの希望と実際をすり合わせます

 矯正相談として圧倒的に多いのは、歯を抜かない矯正治療(非抜歯矯正治療)の希望です。「健康な歯を少しでも多く残してあげたい」そう思って、保護者様は矯正治療をお子さんに受けさせるます。そこで「歯を減らす」という抜歯矯正治療方針の説明を受けると、「歯を残す事の逆の行為」ですから、抵抗感があるのは当然だと思います。そしてお子さんも歯を抜くという事には何か「怖さ」を感じると思います。

 では歯を抜かない非抜歯矯正治療が一番良い方針か?というと全ての方がそうとは限りません。もちろん当院も非抜歯矯正を行っていますが、やはり非抜歯矯正には向いている人と向いていない人がいます。また、治療を開始する時期によっても変わります。歯並びにはそれぞれタイプがあり、抜歯・非抜歯が向いているかが個々で違うのです。

 治療方針が選べる患者さんは選択する事も可能ですが、残念ながら抜歯方針しかない方もいらっしゃるのは事実です。

歯を並べるスペースの獲得方法

 矯正治療で歯を並べるためには、並べるスペースの獲得が必要になります。スペースがないと、歯を正しい位置に移動させる事できません。ですからこのスペースの獲得が治療方針を左右します。これには以下の4つの方法があります。このうち抜歯以外の3つの方法を組み合わせたのが非抜歯矯正と言います。

非抜歯矯正の方法
<非抜歯とは後方移動・拡大・IPRの組み合わせ>

 この4つ方法は、全ての方に利用できるわけではありません。それぞれの歯並びや骨格の形で、得られるスペースの量は変わってくるため、選択できる方針が穴ない方もいます。一般的には「小臼歯抜歯」が一番スペースを獲得できる方法になります。

IPR 拡大 後方移動 抜歯
●抜歯が一番スペース獲得量が多い

小臼歯抜歯方針

矯正治療小臼歯抜歯方針

 小臼歯という歯並びの真ん中の歯を抜きスペースを作ります。メリットとしては多くのスペースを獲得できるため、かなり前歯を後方移動できる事です。「出っ歯」の方の前歯を引っ込めると、横顔で口元が大きく引っ込みますので、抜歯方針を取るケースが多くなります。欠点としては、抜歯空隙の閉鎖のコントロールが難しいため、ある程度、前歯が引っ込み目的が達成させても、空隙を閉じ続けなくてはならないため治療期間がかかってしまうという点です。

奥歯の後方移動方針

矯正治療奥歯の後方移動方針

 奥行きを広げるように歯並びを後ろに引きます。ワイヤー型装置の場合は、歯科矯正用アンカースクリューヘッドギア装置を使用します。また、マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】は補助装置なく単体で、この方針を得意としています。全ての方に同じ効果が得られる方針ではなく、あまり効果が出ない事もあります。骨格の前後が短い方(面長の方)などは、スペースの獲得量が少なくなります。つまり、必ず成功する方針というわけではありません。また、奥歯の移動の妨げになる場合は親知らずの抜歯が必要になる事があります。

歯列拡大方針

矯正治療奥歯の歯列拡大方針

 歯並びを形を整え整えながら外側に膨らませます。一気に全ての歯を動かせるため比較的期間はかかりません。事本的には前歯の位置は現状維持もしくは前方に傾斜します。ですから前歯を後ろに引っ込めたい場合は向いてはいません。また、歯槽骨のない所に移動はできませんので、無限大に歯列拡大はできるわけではありません。成長期のお子さんの場合は、上顎の場合は正中口蓋縫合という顎の真ん中の継ぎ目が硬化しておらず、急速拡大装置を使用することで骨格の拡大ができるケースもあります。

IPR(ストリッピング)

矯正治療IPR方針

ストリッピングとも呼ばれ、歯に0.5mm以内で少しづつヤスリをかけます。特に歯に大きなダメージも少なく、処置に痛みもありあません。獲得できるスペース量はわずかですがが、欲しい所にピンポイントでスペースを作れるというのが特徴です。麻酔などは必要ありませんが、少ないのですが「歯を削る処置」と言えます。銀の詰め物や被せ物など治療歯が多い場合は、侵襲性も少なく向いていると言えます。ブラックトライアングルを軽減できるメリットもあるため、成人の矯正治療ではよく行われます。

非抜歯矯正に向いている方とは?

非抜歯矯正の判断基準

 歯を並べるためのスペースが多く必要であるほど、小臼歯抜歯を併用しなくてはならない可能性が高まります。このようなケースは、歯並びのコボコの量が多い方出っ歯の方になります。この2つに当てはまらない以下の場合は非抜歯治療で治療ができる可能性が非常に高まります。

歯が大きくなくデコボコが少ない

 歯が大きいとそれだけ並べるのに大きなスペースが必要になります。ですから、スペース不足は少なければ少ないほど良いです。既に歯1つ分程度、スペース不足がある場合は、小臼歯抜歯方針になる可能性が高まります。

前歯が前に出ていない

 横から見て鼻先と顎を結んだラインであるEライン内に下唇がある場合は、多少歯並びの拡大方針を取る事ができます。「出っ歯」の場合は、Eラインから口元が前に出てしまいます。当然、口元をこれ以上前には出せないため拡大という方針は取る事ができなくなります。この場合、抜歯を併用してスペースを作り前歯を大きく後方移動させる必要があります。

親知らずの抜歯は抜歯数にカウントしない

 多くの「抜歯矯正」とは小臼歯の抜歯を意味しますので、親知らずは抜歯の本数にカウントしない傾向にありますので注意が必要です。非抜歯矯正とはいっても親知らずを抜く事はあるわけです。また、まだ生えていない中高生の場合は、メンテナンスになってから親ら知らず抜歯が必要になる事もあります。

非抜歯矯正・親知らず抜歯

 非抜歯方針の一つである後方移動という方針をとる場合は、後ろの障害物である親知らずを抜歯しなくてはならない事が多々あります。親知らずは75%の方が持っていますから、4人に3人は抜歯です。そしてほとんどが埋伏といって骨に埋まっています。

 この埋伏親知らずですが、中高生の場合は矯正治療後の18歳〜20歳、成人の場合は矯正治療前に抜歯しなくてはなりません。一般的な抜歯矯正の際に抜く小臼歯とは異なり親知らずは、抜いた傷口は見えないのですが術後にとても腫れやすいです。また口腔外科など専門科を受診する必要があります。

 親知らず抜歯は歯茎を切って、骨の中から分割して取り出さなくてはならない事が多く、小臼歯抜歯と比較してとても大変な処置になります。非抜歯で矯正治療をした方で、成人する前に時期がきたらキチンと抜いてくれる方もいらっしゃいますが、そのまま放置し後戻りしてしまう方もいる事は事実です。

 また、歯茎に埋まっている親知らずは抜歯自体も難しく、神経損傷などの少ないですがリスクがあります。一般の歯科医院では行ってはおらず、口腔外科専門の医院に紹介される事がほとんどになります。

<後方移動は抜歯より時間がかかる>

 ですから、結局抜歯するなら、親知らずより抜くのが楽な小臼歯抜歯による「抜歯矯正」を選択した方が良い場合もあります。また、同じ量だけ前歯を後ろに下げるとしたら、小臼歯抜歯の場合は前歯6本だけに対し、親知らず抜歯の場合は14本の歯全て後ろに動かさなくてはなりません。その分、治療期間もかかってしまうという事です。歯列の状態によっては異なりますが、小臼歯抜歯の方が前歯を後ろに引っ込める治療には向いていると言えます。親知らずか小臼歯を抜歯するかは、精密検査を行い判断します。