ブログ

大臼歯(奥歯)抜歯矯正治療

まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

大臼歯抜歯矯正治療

 人間の歯は、「前歯・犬歯・小臼歯・大臼歯」と大きく4つの種類に分けられます。その中で矯正治療において抜歯をおこなうのは「小臼歯」が一番多くなります。ですが、歯の寿命などを考慮して「大臼歯」を抜歯することも稀にあります。

大臼歯とは 

大臼歯の種類
<大臼歯は3種類>

 大臼歯には6歳臼歯の「6番」と12歳臼歯の「7番」、そして親知らずの「8番」が該当します。すり鉢状の形態をしているため、食べ物を細かくし消化の働きを助けます。ですから、大臼歯を1歯失うだけで噛む力はかなり落ちるとされています。

 矯正治療目的で一番後ろにある8番を抜歯することはよくありますが、ごくまれに6番や7番を抜歯することもあります。特に6番は永久歯の中でも早期に生える歯であり、小学生のころに虫歯にしてしまい大きく治療しているケースもみられます。虫歯がエナメル質の奥まで進み歯髄感染を引き起こしている場合、神経血管をとって根管に薬をつめる治療が必要になります。この根管治療がうまくいっていない歯は、大臼歯抜歯の一番の対象となります。

根管治療を受けた奥歯は寿命が短い

根管治療歯の抜歯

 残念ながら歯の神経血管を除去した歯は寿命が短くなります。これは歯の内側からの血管供給がなくなり歯質が弱くなってしまうからです。上部にはクラウンと呼ばれるセラミックや金属の被せものを装着することが多いのですが、食いしばり癖がある方や噛む力が強い方の場合は、徐々に歯根に亀裂が入ってしまい破折してしまうことがあります。

 また、神経血管まで入ってしまった細菌を100%除去することは難しく、歯根の先に根尖病巣といって膿のふくろを作ってしまうこともあります。症状が出ない方もいますが、体調が悪い時などに細菌が繁殖してしまい急性症状を繰り返します。

 いずれにしろ一度神経血管を抜いた奥歯(失活歯)は、完治ということはなくどこかで再治療が必要になる可能性が高いということです。こういった理由で矯正治療を行う患者さんから「神経がない奥歯を抜歯できないか」とよく相談されます。私たちも可能であれば、大臼歯抜歯で治療計画を立てたいのところなのですが、現実的に難しいこともあります。

大臼歯抜歯矯正の種類

 大臼歯は親知らずを除いて上下合わせて4種類の歯があります。実は抜歯部位によって矯正治療の難易度が大きく異なってきます。上7番→上6番→下7番→下6番の順で難しくなります。下よりも上の大臼歯抜歯の方が容易である理由は、上の奥歯の方が歯のサイズが小さく、抜歯空隙を閉じる際も隣との歯根間の距離が短いことが理由になります。さらに奥歯の抜歯は本数が増えるほど難しくなります。

上7番抜歯

 上7番抜歯矯正

<シザーズバイトや叢生ケースで行う上7番抜歯>

 上7番は歯の前後サイズが平均9.8mmと奥歯の中では一番小さいサイズです。また、矯正治療では一番頻度が高い大臼歯抜歯部位です。主に叢生(ガタガタ)症例で、小臼歯を抜歯せずに上の歯並び全体を後方移動させてスペースを作る場合に選択されます。上7番が外側に張り出しておりシザーズバイト(すれちがい咬合)になっている場合などにも有効です。

 基本的には、さらに後方にある上8番を上7番のかわりに使用していく形になります。上の8番は特に矯正治療で並べなくても20代ごろであれば自然と良い位置に生えてくることが多いです。

上6番抜歯

上6番抜歯矯正

<上6番抜歯をするなら強い固定源が必要>

 歯の前後サイズは平均10.4mmです。主に上顎前突(出っ歯)症例で上6番が失活歯の場合に選択されます。一般的に選択される第一小臼歯(8.2mm)よりサイズがやや大きいため、抜歯空隙の閉鎖に治療期間がかかってしまいます。また前歯を後方移動させる際の固定源が不足してしまうため、上8番を使用するか、歯科矯正用アンカースクリューによる加強固定が必要になります。

下7番抜歯 

下7番歯根吸収・下7番抜歯矯正

<下8番によって下7番が吸収>

 歯の前後サイズは平均11.2mmです。あまり選択されないのですが、親知らずが生える際に歯茎の中で下7番の歯根が溶かされてしまったケースなどに選択される治療方針です。上7番抜歯の時と同様に8番を替わり使用していく形になりますが、下8番は水平に倒れていることも多く自然には並びません。狭いスペースにワイヤー矯正装置を設置し、まっすぐ起こす必要があるため治療難易度が高く、治療期間も要します。

下6番抜歯

下6番抜歯矯正

<下6番は治療歯であることが多いが抜歯しづらい>

 歯の前後サイズは平均11.5mmと全ての歯の中で一番大きい歯であり、抜歯すると空隙閉鎖にかなり苦戦します。ただ、治療頻度も一番多いのも下6番であることが多いのが矯正医としては悩みの種です。一番難易度が高い治療方針のため、基本的には痛みを繰り返しており一般歯科医院でもう置いても長くは持たないと判断されている場合のみ抜歯します。状態が悪い歯であってもギリギリまで保存し、矯正治療中に抜歯しなくてはならなくなった場合は、空隙閉鎖せずにブリッジやインプラント治療を提案することが多くなります。

 下6番の歯科治療を繰り返しており、将来矯正治療を検討されている方は、将来のことを考え歯茎に埋まっていても下8番を温存しておく方が望ましいです。

大臼歯抜歯の対応

 大臼歯抜歯矯正で注意が必要なことは、抜歯した隙間を閉じる際に歯根の移動量が多いため、治療期間が長くなってしまうことです。一般的な矯正治療期間が2年程度とすると、3年弱かかるケースも多くなります。さらに、その間は奥歯が噛めない状態が続くため、できるだけ効率的に歯を動かしていく必要があります。複雑な固定装置や歯科矯正用アンカースクリューを使用する頻度が多くなります。

 また、後方歯にある8番(親知らず)が使用できるかは重要なポイントになります。すでに正しい位置に8番が生えているケースであれば、矯正装置を装着することで歯を動かす固定源に使用できるため、治療成功率が格段に上がります。一方すでに8番が抜歯済みであったり横向き埋伏などの位置異常がある場合は、そもそも大臼歯抜歯の治療計画を立案することができなくなることもあります。

大臼歯抜歯の治療例

 左上7番が外に飛びしており、かみ合わせの改善を希望され矯正治療を開始しました。普通は左上7番か8番(親知らず)を抜歯して後方移動を行うのですが、根管治療済である左上6番を抜歯して空隙閉鎖を行いました。矯正治療の抜歯方針は必ず歯の寿命と治療の難易度とのバランスを検討して部位を決めます。このケースは左上6番が虫歯治療で少し小さめのサイズに調整させていたところが大臼歯抜歯の決め手となりました。治療後は左上7番を6番の位置まで移動させています。

6番抜歯

<治療により6番のサイズが一番小さい>

大臼歯抜歯・インビザライン矯正治療
大臼歯抜歯・インビザライン矯正治療
大臼歯抜歯・インビザライン矯正治療
大臼歯抜歯・インビザライン矯正治療

<治療シミュレーション>

左上6番の抜歯部位に7番と8番をゆっくりと移動させます。

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

<症例概要>
主訴:左のシザースバイト・叢生
年齢・性別:30代女性
住まい:千葉県船橋市
症状:左側シザースバイト
治療方針:上顎歯列後方移動・ストリッピング・抜歯空隙閉鎖
治療装置マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
抜歯:左上第一大臼歯・右上親知らず(計2本)
治療期間:2年1か月
アライナー枚数:50+29+24ステージ (7日交換)
リテーナー:上下顎プレートタイプ+フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
▶︎その他の副作用

このエントリーをはてなブックマークに追加