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【妊娠・出産】を考えている方への矯正治療

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

矯正治療は治療後のメンテナンスも含め4年近くはあります。妊娠・出産を検討されている患者さんは、産後の通院も考えて矯正歯科医院を選ぶ事が大事です。また、妊娠後に矯正治療を開始する場合、リスクに敏感な場合は治療開始を見合わせた方が良いと言えます。

妊娠後に矯正治療を始めるかは、患者さんのリスク許容度で決まる。

今は多くの女性の方が出産2か月前くらいまでお仕事をされ、産後は1年程度の育児休暇を取ってからすぐ仕事復帰します。この時間的に少し余裕がある期間を利用して気になっている歯並びを治療したいという方は一定数いらっしゃいます。

ですが、妊娠が発覚している場合に矯正治療を行うか、先送りにするか迷うところです。この際、ポイントとなるのは、患者さんのリスクの許容度です。
「胎児に影響を及ぼす行為はできるだけ避けたい」という希望の方の場合は、妊娠中に矯正歯科治療を開始するのはやめた方が良いです。

<患者さんのリスク許容度が関係>

レントゲン検査

一般的には矯正治療の治療計画を立てる場合、まずは複数枚レントゲンを撮影します。この際、胎児にごくわずかですが放射線が被曝される事になります。ただし、最近の歯科ではほとんどが、デジタルレントゲンであり1回の放射線量は自然で浴びる放射線量と変わらず、問題がない事が多いです。そして、撮影は頭部のみであり、お腹を守る防護着を着用して撮影しますので、ほとんど無視できるレベルであるとも言えます。また、妊活中であったとしても問題にはなりません。

参照:一般社団法人中部地区医師会 検診センター

放射線量の多いCT撮影までは必要はありませんが、セファロレントゲン検査なしで矯正治療を開始するのは危険です。レントゲン検査のリスクをどう考えるかが妊娠中の矯正治療を開始するかの一つのポイントになります。

抜歯・アンカースクリュー設置手術

矯正治療をする上で、便宜抜歯やアンカースクリュー設置が必要になる事があります。これらの処置は外科的小手術であり、局所麻酔が必要な観血的処置になります。緊急性のある処置ではないため、痛みによるストレスも考慮すると、安定期(16週~)以降に行なう事が望ましいです。
術後は、胎児への副作用などを考慮した最低限の量の抗生物質や鎮痛薬を服用する事があります。妊娠中は想定外の事も発生してしまうこともありますので、このリスクをどう取るか考えていただく事になります。

妊娠中の矯正歯科への通院

実際は上記と順番が逆で、矯正治療中に結婚・出産をされる患者さんの方が多くいます。この場合は、治療開始からしばらく時間が経過しており、初回のレントゲン検査や観血的処置はすでに終わっています。ここでポイントになるのは、体調が優れない妊娠初期と、産後の治療復帰の準備です。

<初期の悪阻への対処がポイント>

妊娠初期

妊娠初期でつわりがひどい方の場合、診療台での長い処置が難しくなるだけでなく、公共交通機関での通院自体も難しくなる方もいます。特に日々お忙しくお仕事をされている方の場合は、体調を見て無理に処置を行わない事があります。
マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外※)などで治療をしている方の場合、気持ち悪さからマウスピースを装着する事ができなくなる事があります。そのまま1〜2か月放置しておくと矯正装置が合わなくなるだけでなく、治療前の状態に戻ってしまいます。新しいマウスピースに進まずに、装着できる時間だけでも良いので、使用を勝手にやめない事が大事になります。矯正治療後のリテーナーに関しても同様の事が言えます。

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

安定期

妊娠5か月目に入って安定期に入ると、普通に矯正処置は可能になります。出産2か月前くらいまでの4か月の間で可能な限り積極的な矯正処置を済ませておく必要があります。この時期は、女性ホルモンの影響で妊娠性歯肉炎のリスクが上がります。自宅での歯磨きだけでなく、来院時にいつもより念入りにクリーニングを受ける必要があります。

参照:育児と乳歯の情報サイト

<安定期に入ったら必ず歯科医院に報告して下さい>

出産前

妊娠8か月目あたりで、出産に備えて矯正力を弱めたり、ワイヤー装置などの故障が出にくいように処置をして、待機期間に入ります。里帰り出産されるかなども事前に確認しておかなくてはなりません。

ワイヤー矯正を行なっている患者さんでしばらく通院できない場合、少し無理をして矯正治療を早く終わらせたり、矯正装置を一時撤去をしたりする事もあります。基本的には出産1か月前は装置故障の確認のみになります。マウスピースのお渡しや矯正装置のアメニティなどが必要な場合は、郵送で対応してもらえるよう歯科医院に交渉していただくと良いと思います。

矯正歯科治療の再開

産後2か月後から矯正治療を再開する事ができます。産後は忙しいため、ついつい矯正歯科医院への連絡が遅くなる事があります。通院を再開する事を忘れないようにしなくてはなりません。

矯正治療の処置時間は一般歯科診療より長めになります。ですから産後の通院に関しては、免疫が弱い赤ちゃんを歯科医院に一緒に連れていく事はお勧めはしません。お子さんをご家族の方に見てもらって、お一人でご来院していただく方がが望ましいです。やむ得ない事情があって赤ちゃんも連れて行く場合でも、歯科医院が空いている平日の昼に通院をする事をお勧めします。

こういった事情から、出産後は矯正治療を受ける歯科医院の所在地が非常に重要になってきます。自宅から遠方や交通の便の良くない歯科医院を選択している場合は、産後の通院が困難になってしまう事がありますので、よく検討していただく必要があります。

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