矯正歯科治療中の話しづらさ
矯正歯科治療を受けている患者さんの感覚は、本当に人それぞれです。ですから、治療中の発音や話しづらさに関しても、何も気にしない方から、辛くて治療をやめたいという方まで様々いらっしゃいます。話しづらさを感じるのは社会人の方に比較的多く、人によってはこれが、かなりのストレスになる方もいます。そこで当院の事例を分類分けしていくつか紹介していきます。
目次
どのようにして声は出るのか
人間が言葉を発音するメカニズムは、声帯を振るわせその振動した空気を口から出し発音させます。その際、舌の位置と、唇や頬など口の周りの形を変える事で音を変えます。矯正歯科装置を装着すると、この舌と口の周りの形が変化するため、矯正治療開始直後は、うまく環境に慣れる事ができずに、今までの話し方と変わる事があるようです。
舌の接触する場所が変わる
よく発音しずらいという意見を受けるのはサ・タ・ナ・ラ行です。サ行の場合は口蓋と舌との間のわずか隙間に空気を圧縮して一気に出します。一方、タ・ナ・ラ行は一度、口蓋(こうがい)と呼ばれる上の前歯の裏側のヒダがあるところに舌を勢いよく当ててします。
ですから、この口蓋付近に矯正装置が装着されると、慣れるまで一時的に発音が悪くなる事があるのです。装置の大きさは厚さによる違いはあまり関係ないようですが、もともと舌をきれいに動かし発音している人の方が、治療を始めると発音しづらいと感じるようです。
このような悩みが出やすい方は2パターンいます。まずは、オペレーターの方。これは、マイク越しに声のみで相手に内容を伝えなくてはならないため、きれいな発音が必要になってくるからです。次に通訳や講師など英語を話す仕事をされている方。これは、「R」の発音など、日本語より意識的に舌を持ち上げて発音をしなくてはならない単語が多いからになります。
発音しづらい上顎の矯正装置
上の前歯の内側につく装置は全て、発音が悪くなるリスクがあります。それぞれ解説していきます。
裏側につけるリンガル矯正装置
話しづらそうというイメージが定着している装置といえば、歯の裏側にワイヤー装置を装着するリンガル矯正装置だと思います。ですが、実際はワイヤーがついているのは歯の裏側のみで口蓋部まで覆っていない事が多いため、タ行など歯の裏面に舌を接触させる必要がある言葉意外は問題ない事が多いです。以前は、複雑なワイヤー装置が多く設置されていたため、故障すると舌に刺さったりと大変でしたが、最近の装置は小型でシンプルなもので、大分楽になりました。
医院側が治療の技術的に難しいため、患者様に選択させないためにこのような、話をする事もあるようです。
口蓋を覆うプレート型装置
矯正治療が終了すると必ず、リテーナーを装着します。必ず取り外しのタイプを渡されます。この装置の構造は、レジンという薄くて強い材料なのですが、ほとんどのものが口蓋部を覆った形になっています。これが舌との接触感や、空気の通り方が変わり、今まで通り発音ができなくなってしまう方がいらっしゃいます。
子供に使用する拡大床というのも同じような形態ですが、子供の方が矯正装置への慣れが早く、こちらは特に問題にならない事が多いと言えます。
顎内固定装置や拡大装置
成人のアンカースクリューを併用する固定装置や、小児の歯列拡大を行う急速拡大装置などが挙げられます。これらの装置は大きさにある程度のボリュームがある事と、形状の問題から舌に当たると痛いという事から、話しづらくなるという事があります。
ツバがたまりやすいマウスピース型装置
口蓋を覆わないマウスピース型矯正装置で治療する場合は、発音しづらいという悩みよりもツバがたまって話しにくいという事例が多くなります。これは、マウスピース型矯正装置などによくある現象ですが、装置を装着する事で唾液がうまく口の中で循環せず、口角あたりにたまってしまうのです。そうすると、口元から泡がでてきて少し、話づらくなります。
人前に立って話す仕事の場合、少し恥ずかしい思いをするため、これを嫌がり、マウスピース型装置やクリアリテーナーを日中使用してくれない患者さんもいます。せっかく、目立ちにくい矯正装置を使用したのに、口を隠して話さなくてはならなくなってしまう事もあるのです。
時間が経つと共に慣れる
矯正装置を装着した当初は、話しづらくイライラしやすいのですが、大半の方は時間の経過と共に、元のように話せるようになります。これは、口の中の機能が新しい環境に徐々に順応していくからです。
この慣れるまでの期間には個人差があります。どんな方も治療の最初の頃は、我慢と練習が必要になります。その前に患者さんが自分のキャパシティーの限界に達してしまった場合は、矯正装置の変更など検討しなくてはならなくなります。