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アンキローシス(骨性癒着)している歯の矯正

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

長い期間、矯正治療を行っているのですが、「1本だけ全く歯が動いていない」という現象をまれに見かける事があります。周りの歯は普通に動いているため、はじめのうちは動いているように見え全然気が付かない事もあります。ですが治療の終盤になると1歯だけ位置が治っておらず、歯が全く動いていない事に気がつくのです。

アンキローシスとは

この歯が動かない理由は、「アンキローシス」といって、歯根と骨が癒着している可能性も疑ってみても良いかもしれません。

歯根とその下の骨の間には歯根膜と呼ばれる血管の膜が必ずあります。矯正力をかけると、この部分が最初に反応して歯が動き始めます。例えば、チタン合金の人工歯根であるインプラントは、直接骨と生着するため歯根膜はなく、矯正力をかけても動かす事ができません。アンキローシスとはこのインプラントと同じ状態になっているという事です。

アンキローシスは歯根と歯槽骨が癒着した状態
<歯根と歯槽骨が癒着してくっついています>

アンキローシスの原因

骨性癒着が起こる理由は、何らかの理由で歯根膜を失ってしまう事が主な原因です。外傷や炎症によって起こります。以下にまとめてみます。

脱臼などの外傷

歯並びが出っ歯傾向の方は、一度は上の前歯をぶつけてしまった事があるのではないでしょうか。その際の衝撃で、歯が歯茎から抜けるところまではいかなくても、歯の位置が前後にずれてしまうという事は結構あります。また、歯の位置に変化はなくとも、歯茎方向に陥没の力がかかり歯根部の歯根膜に損傷を受けている事もあります。

歯根の神経血管も切れていなくて一見大丈夫なようにみえても、一部歯根膜を損傷してしまっている場合は、アンキローシスが起こります。

<外傷によるアンキローシス>

嚢胞(のうほう)などの炎症

歯が骨の中で種の状態の時期や生えている途中に、何らかの炎症が起きる事で、骨内で歯根が癒着してしまう事があります。骨の中に埋伏しやすい上の犬歯に発生する事があります。八重歯の矯正治療で犬歯が動かない時はアンキローシスを起こしている可能性が考えられます。

また、歯根嚢胞と言い虫歯の延長で歯根の先まで感染した場合も、治療とともに膿のふくろである嚢胞は改善しても、歯根部の歯根膜を喪失しアンキローシスが起こる事もあります。

先天性の萌出不全

外傷や炎症もないのに、原因不明に歯が歯茎の一定の高さから生えてこないという事があります。非常にマレな症状ですが、「原発性萌出不全」と言います。奥歯が数歯罹患し、横のかみ合わせが噛み合わない開咬状態になります。

途中までは生えてくるのですが、突然アンキローシス状態になるため、最初は診断ができず、矯正医を悩ませる疾患です。この場合は、一般的な矯正治療は、歯を動かす事ができないため無意味になります。1歯だけというの少なく、数歯が罹患し奥歯が開咬になります。

アンキローシスの診断

外傷・炎症など上記の内容が疑われる場合、まずはレントゲン検査で、歯根膜の線がしっかり見えるかを確認します。ぼんやりとしか見えない場合は、アンキローシスの可能性が疑われます。

また、触診などで歯を動揺するかを確認するのも有効です。正常な場合は、生理的動揺といって指で歯を動かすと、自分で歯が揺れているのを感じます。これは、食事時に歯根膜がスポンジとセンサーの働きもしているため、わずかな動きでも察知できるようになっているからです。

歯を金属で叩いてみるのも有効で、アンキローシスが起きている場合は、骨に直接振動が響きますので、金属音のような音を感じます。

アンキローシスの矯正歯科治療

部分的にアンキローシスしている場合は、脱臼といって抜歯の要領で一度骨と歯根の癒着を剥がすという方法があります。術後は、そのままだと、また歯根が骨癒着してしまうため、すぐ矯正力をかけなくてはなりません。

歯根が完全にアンキローシスしている場合は、歯を動かす事を諦めなくてはなりません。コルチコトミーといって周囲骨ごとブロックで分離させて正しい位置に修正したり、補綴治療といって被せものや差し歯で対処するという方法になります。

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