ブログ

歯の大きさのバランスはボルトン分析でみる

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

ボルトン分析

 矯正治療開始前の検査では、必ず「歯の型取り」があります。以前はアルジネート(粘土)で型取りを行い石膏で歯列模型を作成していましたが、最近では口腔内スキャナーで型取りを行いデジタル3Dデータにして歯列を確認するようになってきました。この歯列模型を作成する一番の目的は細かなかみ合わせの確認ですが、それ以外に歯の横幅や歯列の長さなども計測します。そして、ボルトン分析といって上下の歯の大きさのバランスも計算します。

歯の横幅(歯冠幅径)

歯冠幅径の計測
<歯冠幅径の計測>

 歯の横幅は専門用語で「歯冠幅径」といい、1歯づつ計測しで平均値と比較します。歯の計測部位は、前歯は左右の横幅、奥歯については前後幅になります。最大豊隆部といって一番外側に膨らんでいる部分で2点間の距離を計測します。同じ番号の歯でも左右で歯冠幅径は異なることもありますので、それぞれ計測します。

 当院では主に6前歯のみ標準値と比較しています。これは、かみ合わせだけでなく、患者さんの目につくところで、審美にも大きく関わる場所だからです。特に「上の前歯が大きくて目立つ」ということを気にされている患者さんに、本当に歯が大きいのかを確認します。中には、歯の横幅ではなく縦が長かったり、側切歯(2番)が小さいため相対的に中切歯(1番)が大きく見える方もいます。

歯冠幅径の
日本人標準値
上の歯下の歯
中切歯(1番)8.4mm5.4mm
側切歯(2番)7.1mm6.0mm
犬歯(3番)7.8mm6.7mm

 ですから、同じような形の歯並びの患者さんでも、歯の大きさの違いによっては、矯正治療を行う上で抜歯の必要性が異なってくることもあります。

ボルトン分析とは?

 Wayne A. Boltonにより提唱された分析方法で、上下の永久歯の横幅を一つ一つ計測し、上下の歯冠幅径のバランスを割合(%)で表します。トゥースサイズレイシオ(Tooth size ratio)と呼びます。

 ガタガタになっている歯並びを矯正治療で並べていく際、歯の大きさのバランスが理想的であれば、きれいな歯並びや理想的なかみ合わせを作りやすくなります。こういった情報を事前に確認しておくことがボルトン分析の目的になります。

オーバーオールレイシオ(Over all ratio)

 上下全体12歯の歯冠幅径の総和で計算します。左右の第一大臼歯(6歳臼歯)間の歯列の長さになります。

オーバーオールレイシオ
<オーバーオールレイシオ>

オーバーオールレイシオ
【下12歯の歯冠幅径の合計/上12歯の歯冠幅径の合計】
日本人の標準値は91.4%になります。

 実はこちらは臨床ではあまり参考にすることはありません。以前と比較して成人矯正治療患者さんが増えてきているため、奥歯はすでに虫歯治療で修復されていることが多く、ほとんど標準値にならないこと多いからです。また、日本人は小臼歯といって前から4番目の歯を抜歯して矯正治療を行うことが多く12歯ではなく10歯で計算することになり、標準値と比較が難しくなります。

アンテリアレイシオ(Anetrior ratio)

アンテリアレイシオ
<アンテリアレイシオ>

 上下6前歯の総和で計算し、一番多く利用される分析値になります。左右の犬歯間の歯列の長さになります。

アンテリアレイシオ
【下6前歯の歯冠幅径の合計/上6前歯の歯冠幅径の合計】
日本人の標準値は78.1%になります。

 こちらは臨床ではかなり有用性が高い数値になります。特に日本人は上の側切歯(2番)が矮小歯といって横幅が小さい歯であること多いため、上の前歯の歯冠幅径の合計が小さく、レイシオが標準値の78%より大きくなってしまうこと多くなります。さらに80%を超えてくると、理想的なかみ合わせを作ることが困難となってくるため治療計画に配慮しなくてはなりません。逆にレイシオが76%より小さいケースは珍しく、この場合は少し上の前歯の歯冠幅径が大きいため、多少上の前歯が前に出たような仕上がりで特に問題にはなりません。

アンテリアレイシオに問題がある場合

 前述のアンテリアレイシオが標準値から外れている場合は、上下の歯の大きさの不調和をどうするか、治療計画を立てる上で決めておかなくてはなりません。問題になる頻度が多いのは上2番が矮小歯の場合です。アンテリアレイシオが78%以上になってきます。

矮小歯ある際のアンテリアレイシオ
<矮小歯ある際のアンテリアレイシオ>
  1. レイシオが78〜80%の場合
    不調和は軽度のため、上の歯並びに合わせて下の前歯にIPR(ストリッピング)を行うことである程度バランスを取ることができます。
  2. レイシオが80%以上の場合
    不調和をIPRではカバーできないため、矮小歯を大きくする補綴処置を行うか、問題にならない範囲で奥歯のかみ合わせを犠牲にして歯を並べるかを決める形になります。
  3. レイシオだけでなく、側切歯の形も悪い場合
    横幅だけでなく縦の長さも短い側切歯の場合はあえて抜歯し、隣の犬歯を前方に寄せて並べてしまうという治療方針を選択することもあります。

このようにボルトン分析は、矯正治療前にそもそも歯の大きさが理想値から離れていないかを確認する大事な項目になります。

このエントリーをはてなブックマークに追加