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医院に行かずに自力で歯列矯正?【セルフ矯正の実情】

2019/12/8最終更新

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

セルフ今日矯正の実態

アメリカでは歯科医院を通さないマウスピース矯正配送サービスもあります。今回はこのような患者さんが自力で治す「セルフ矯正」について詳しく説明します。2019年12月、日本でもOh my teethという類似サービスがスタートしました。

歯医者のホント

ここ数年世界ではもちろん、日本でもカスタムメイド型マウスピース矯正治療が多く普及してきました。アラインテクノロジー社やストローマン社だけではなく、すでに何十社と、この分野に参入してきています。それだけでなくこのような事が起きているかと言うと、そこには理由があります。

→週刊ダイヤモンド2019/11/30号にも特集

それは、「マウスピース型矯正治療は、矯正専門医でなくても行う事ができる」からです。

矯正装置配送サービスの登場

今までアメリカでは、ワイヤー装置を中心とした矯正歯科治療は、専門医の独占業務でした。実際、専門領域を学ぶためには、大学を中心とした教育施設で最低3年以上の研修必要であり、そのコースを受けるための高倍率の試験もあり、とても狭き門でした。つまり、矯正治療は一部の研鑽を積んだ専門医にしか治療を扱う事ができない治療分野だったのです。

そこに、自動でシステマチックに治療計画を立案してくれるマウスピース型矯正システムが現れ、矯正治療が施術できる人を増やす事に成功したのです。もちろん治療結果は別です。アメリカは医療も自由競争社会であり、「常にマーケティングが優先される」という潮流があります。誰でも矯正治療を行えるようになる事は、マーケットも広がり患者さんにとって、大きなメリットと考えているわけです。

少し怖いところは、この「誰でも」というのは歯科医師だけを含みません。「医療関係者でなくても」という事です。

それまでは、「DIY矯正」といって、ホームセンターで買ってきたような工具や3Dプリンターを使って装置を作って、自分で歯の矯正治療をする方はいました。もちろん結果は思わしくはなかったようです。それが、「自力で歯列矯正を行う事を手伝ってくれるシステム」をもった会社が複数現れ、歯科医院を通さずマウスピース型矯正装置を患者さんに直接配送してくれるサービスが普及し始めたのです。患者さんは自分で治療を管理します。まさに自力矯正です。

<マウスピースを作るための歯型も自分で取る>

Smile Direct Club

https://smiledirectclub.com/
<https://smiledirectclub.com/より>

米国で一番有名なセルフ矯正治療をサポートする会社はスマイルダイレクトクラブです。ウェブサイトを見ると矯正治療に成功した患者さんの笑顔の写真が多く載っています。

治療のステップは、まず、ウェブサイト上で自分がこのシステムの対象者なのかという事のチェックをします。選択項目を入力していく事で30分程度で終わります。その後、アメリカとカナダにある近くのSmile shopという店舗に行き3Dスキャンを行うか、自宅に専用キットを送ってもらい自分で歯型を取るかして歯のデータを取ります。

smile direct club 矯正
<アメリカではコンビニで簡単に矯正治療を申し込めます>

この歯のデータを送ると、数日後に矯正治療後のシミュレーション画像がメールで送られてきます。これを確認し、承認するとマウスピース作成され自宅に郵送される仕組みです。全てのマウスピースを使用した後は、リテーナーも自分で発注する事ができます。オプションでホワイトニングの薬液も注文可能です。

<月々1万円程度のローンもあります。>

価格はトータルで1850ドル(約20万)と歯科医院で矯正治療を行う1/5の費用でできるそうです。結局、安価というのが患者さんがSmile Direct clubを選ぶ一番の理由です。

CEOのデビッド・カズマン氏は医療業界と全く異なる事業から来た完全なビジネスマンといった感じです。一時期、インビザラインを出しているアラインテクノロジー社もマウスピースの材料を提供していたようで、様々な会社があるアライナー配送サービスの業界で、一気に上り詰めてきました。

同じようなサービスとしてCandidSnap Correctなどがあります。

<2019/9、ナスダック(全米証券業界)に上場しました>

自力で本当に治るのか?

ウェブサイトや症例を見る限り、かなり軽度な歯並びのみ対象といった感じの気がしました。まず、噛み合わせのチェックの記録を取らないため、出っ歯や受け口など上下の噛み合わせに問題があるケースは非適応と考えます。また、歯を動かす事ができるのは前歯だけであり奥歯を動かす事ができません。

要するに「部分矯正治療」に近い感じです。部分矯正治療はアメリカでは「Social6」と呼び、目立つ前歯の歯並びのみ整えます。どちらかと言うと医療というより美容になります。

通常の全体の歯並びを整える治療には、奥歯の移動も必要ですし、ストリッピング や抜歯も行います。これらの処置は医療機関の受診が必要です。要するに、複雑な歯並びにはセルフ矯正は、対応していないという事です。世界的に歯並びが悪いと言われているアジア人には、少し難しい気がします。

<紫色が動かす部分。前歯の矯正しか対応していない>

アメリカ矯正歯科学会でも問題視

<矯正装置配送サービスへの警鐘>

AAOというアメリカで最も権威のある矯正歯科専門医団体も、歯科医師の診断とモニタリングがない矯正歯科治療を危険視しています。複雑な症状の歯並びには対応していないのですが、矯正装置配送サービスのウェブサイトにはそういった事は一切書いてありません。治療ではなく完全にビジネスなのです。

引用:https://www.aaoinfo.org/1/online-orthodontic-companies

特に治療中に緊急事態があった際に相談する場所がないのも問題です。歯周病で歯が抜けそうな患者さんがセルフ矯正をして歯が抜けてしまったという事例があり、訴訟にもなっているそうです。セルフ矯正はリスクがあるという事です。

スマイルダイレクトクラブは、日本ではまだ対応していません。「いつかはこの黒船がやってくる可能性はあるか?」と聞かれると、「おそらくない」と考えます。

それは、日本の矯正歯科業界では、歯科医院で提供するインビザラインなどのマウスピース型矯正装置自体も、薬機法適応外であり正式には認められていないからです。そして、世界的に難しいケースが多いとされている日本人には、マウスピース型矯正装置で治療をできるケースは限られているからです。

→日本矯正歯科学会の見解

日本にもついに登場!Oh my teeth

上記に「日本には、矯正装置配送サービスは登場しないだろう」と書きましたが、リリースされたそうです。「Oh my teeth」です。

Oh my teethより>

まずウェブより申し込みセッションと呼ばれる、東京で行われる矯正歯科医師によるグループ相談会に参加します。ここでマウスピース作成用検査を行い、診断および3Dシミュレーション作成まで行います。その後、契約するとマウスピースが治療計画に沿って郵送されてきます。そして各個人で使用してもらう形です。その後は、マウスピースの作り直しがない限りは通院はありません。まさにSmile direct clubの日本版です。

費用は、Basicと呼ばれている部分矯正が30万、Proと呼ばれいる全顎矯正が60万となっています。矯正治療の難易度が高いと言われている日本人向けだからか、郵送サービスでは少し高めの設定になっています。医院でしっかりと行うマウスピース型矯正治療でもこのような費用で行なっている所はありますので、価格優位性はなさそうです。

oh my teethのセッション
<矯正歯科医師が所属・管理している様子>

当然のごとく、歯科医師の介在しない治療ですので、矯正歯科の同業では早速問題視されていました。ですが、私はもしかしたら、「このサービス意外と広まる可能性があるかも?」とも感じました。それは、初回がグループセッションである事です。

矯正治療中というのは、患者さんは誰もが孤独なものです。特にマウスピース型矯正装置の場合はモチベーションをキープして、使用し続けなくてはなりませんので、「矯正治療を行う仲間」を作る場所と考えると、グループセッションは良い面もあるのかもしれないとも考えられます。ただし、ウェブサイトを見る感じ、Oh my teethでは、まだ、ただの集合説明会のようですが。。。

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