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矯正歯科治療が保険適応外の理由

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

日本では歯並びが悪い事は病気でないため保険適応外診療になります。

虫歯が減った事と国際化の影響で、ここ数年、矯正歯科治療の需要が増えています。矯正歯科治療を受けたい方は多いのですが、やはりネックになるところは費用が高額である事です。マルチブラケットと呼ばれる永久歯の一般的な矯正歯科治療費の総額は80-90万円となってしまいます。

健康保険の適応内で矯正歯科治療も受けられればもちろん良いのですが、日本では手術矯正が必要な顎変形症や一部の特定疾患を除いては、基本的には自費診療になってしまいます。この理由について説明します。

なぜ矯正歯科治療は保険適応外なのか?

健康保険の対象になる治療は、病気でなくてはなりません。見た目を良くする美容医療や、将来的な疾患を防ぐ予防医療には健康保険は適応されません国の医療保険の財源が限られていますから、今すぐ生死に関わる疾患に医療費は優先されてしまいます。

矯正歯科治療の目的は歯並びを綺麗にする「美容目的」と噛み合わせを良くする「機能回復目的」に分かれます。ですが、「歯並びの見た目は一切気にならないので、噛み合わせだけ治して欲しい」という方はほとんどいません。つまり、多くの患者さんの主訴は「美容目的」なのです。という事は、残念ながら矯正治療は美容医療に近いという事になります。学会も努力をしているのですが、国も矯正治療に対しては、現在のところ「美容医療」と認識しているようです。

矯正装置も見た目が良いものが選択される
<矯正装置も見た目が良いものが選択される>

「歯並びが悪いと歯周病や虫歯になりやすいから疾患である」という声もありそうですが、これは予防医療になります。つまり保険適応外です。子供の場合、「歯並びが悪いと、正しい成長発育が促されない」という報告もありますが、これも予防医療になります。インフルエンザになった時に症状を抑える予防接種を行う事と同じです。日本では明らかな病気にならないと健康保険は適応されないのです。

海外の方が保険が効いて矯正治療は安い?

よく「アメリカでは矯正治療をすれば、医療保険が効くから安い」という話も聞く事があります。ですが、日本のように国民皆保険制度がないため、自分で高額な民間の医療保険に加入すれば、矯正治療費ある程度カバーされるという仕組みです。歯科医院の元々の矯正歯科治療費の設定には日本との差はあまりありません。

海外の医療保険は、自動車保険みたいなものですから、グレードによってサービスが異なります。民間の保険会社は営利目的で販売しているため、病歴やリスクの高い方は保険に加入する事すらできません。さらに、グレードの低いプランには高額な歯科治療は含まれていない事多く、アメリカで矯正歯科治療がカバーされている民間の医療保険の場合は、日本円にして年間の支払い30万円を超えるものもあります。家族が3年病気にならなければ子供の矯正歯科治療費が出てしまいます。

東南アジア地区の場合は、物価の違いで矯正治療費を20万円程度で受ける事ができる国もあります。ただし、矯正装置自体は旧式の目立つ金属装置であったり、専門医制度も設定されておらず、治療の質も先進国と比べると高くはありません。ある程度、リスクを取って価格相応の治療と思って受けるのであればアリかもしれません。でも結局、日本で自費診療で矯正歯科治療を受けるのが費用対効果的にもベターと言えます。

また、スウェーデンなどの予防先進国は、なんと未成年の矯正治療は公的な保険が適応され無料です。なぜ、こんな事が可能なのかというと、人口が日本の1/10以下で人口も年々増加しており、国の財政状態が良いからです。国民皆保険制度は、そもそも人口増加によって支えられているシステムです。人口減少が起こっており、財政難の日本では国民皆が望むような医療が、今後保険導入される事はまずないと言えます。

小児矯正保険適応への運動

実は、今小児矯正治療を保険適応にしようという運動が見かけられます。私は基本的には、永久歯列になっていないお子さんの矯正治療が保険適応になる事には賛成です。ただし、全てのケースを保険適応になると、見た目を治したいという美容目的のケースも多く含まれてしまいます。私は、相談が多い歯並びのスペースが足りない「でこぼこ(叢生)」については、審美的な問題が中心と考えています。

ですが、多くの保護者の方は「噛めない」事ではなく「歯がきれいに並ばない」という事を心配に小児矯正の相談を受けます。このようなケースには保険適応は望ましくないとも感じます。この審美目的か機能改善目的かを判断する事が難しい事が一つのハードルだと思います。

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