後戻りの少ない治療方法はあるのか?
後戻りの少ない治療方法というのは今の所はなく、証明する事も難しいと言えます。
目次
治療方法と後戻りの関係
治療方針が複数ある場合、患者さんの選択基準は様々です。そこに医療者側が検査時の分析結果などから、ニーズに合った方法を説明する形で患者さんをフォローします。それぞれ患者さんは治療で優先したい事項が異なるため、同じ歯並びでも方針は全く異なる事になる事もよくあります。その中で最近、増えているのが「後戻りの少ない治療方法が良い」という意見です。
矯正治療は長期にわたりますが治療期間が長くても連続4年以上いく事はめったにないです。ですから治療後の生活の方がずっと長いと言えます。そうなると気になるのが治療後の後戻りというのもよくわかります。
これに対して当院では、「後戻りは治療方法とは関係が薄い」と説明しています。結局は「後戻りするか」は、治療前の歯並びのパターンと治療後のリテーナーを中心としたメンテナンスとの方が関係性が高いと考えます。
後戻りしやすいと言われる治療への見解
ここでよくある「後戻りしづらい治療」の当院の見解を説明していきます。
歯を抜かない矯正治療は後戻りしやすい?
一般的に抜歯方針は歯の配列スペース不足が著しい場合や前歯が出ている場合に併用する方法です。患者さんも、選択可能ならば非抜歯を希望するため気になるところですが、抜歯・非抜歯の方針の違いは後戻りのしやすさとは関係がないと考えています。抜歯方針でも治療後のリテーナーを使用しないと、前歯にでこぼこや出っ歯が再発します。
ただ、治療後の患者さんの意見としては、意外と非抜歯方針の方が後戻りしたという意見が多いです。これは、抜歯方針は非抜歯方針と比較して、治療前の歯並びの悪さの度合いが重度であるため、多少の歯並びが崩れても後戻りと認識していないからというのが理由なのではないかと考えます。
また、マレに小臼歯抜歯が適応のケースを、歯列を過剰に拡大してしまった場合は、矯正装置の撤去と共に歯列は簡単に戻ってしまう事があります。
セルフライゲーションブラケットは戻りにくい?
メインワイヤーを結紮といって細い針金で縛るのではなく、クリップのようなもので多少ルーズにとめる事ができるブラケット装置です。歯のまわりの組織代謝を上げ、弱い力で矯正治療ができるというのがメリットです。当院でもクッリピー(TOMY製)というブラケットを表側・裏側共に使用しています。
これは、セルフライゲーションシステムが良いからという訳ではなく、弱い矯正力で動かせる範囲でしか歯を動かさないため後戻りが少ないというより、後戻りしにくい治療方針を選択しているだけとも言えます。従来型の結紮型とは基本的には変わらないと考えています。
小児のトレーナー型装置は後戻りが少ない?
以前は、お子さんの小児矯正(1期)では、床矯正と呼ばれるプレート型装置が主流でした。ですが、その役割は今トレーナーと呼ばれるマウスピース型矯正装置に変わろうとしています。
歯並びの改善と共に、筋機能や舌習癖改善を同時に行う事ができるのがメリットです。トレーナーは歯並びのまわりからアプローチするため、口腔機能が改善して後戻りしにくいといったコンセプトです。
当院では小児用マウスピース型矯正装置【プレオルソ】というトレーナーを多数使用しています。確かに、トレーナー向きのケースを選択すると、予後も良いケースもあります。ただし、永遠に装置を使用し続けるわけにもいきません。使用を止めた後に他の治療と同じ後戻りがおきます。装置使用以外のMFTと呼ばれる筋機能訓練の方が重要と言えます。
後戻りを防ぐにはリテーナーが最優先
まとめると、後戻りについては「治療方針」よりも、「最初の歯並び」と「治療後のメンテナンス」の方が影響を及ぼしていると考えます。でも、後戻りといっても「最初の状態まで完全に戻る」という事はほとんどないのでご安心下さい。
後戻りしやすい歯並びNo.1は開咬
歯並びにも矯正治療後に後戻りしやすいタイプというのがあります。それは「開咬(オープンバイト)」です。
開咬とは上下の前歯が離れていて咬めない状態です。多くの場合はその前歯の隙間にいつも舌が入っています。歯というのは本来、上下の歯がぶつかるところまで生えてくるはずなのに、途中で止まってしまった感じです。
開咬はマウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)やワイヤー型装置でアンカースクリュー を併用する事で、矯正治療自体の難易度はそんなに高くはありません。ですが、一番後戻りを管理する事が難しいと言われいます。
矯正治療後は後戻りしないようにリテーナーを使います。リテーナーには上アゴ用・下アゴ用に分かれています。実は上下それぞれの歯並びをおさえているいるのですが、上下の噛み合わせを維持する機能はありません。つまり開咬用のリテーナーはないのです。全ての方というわけではないのですが、治療後時間とともにうっすら前歯の噛み合わせが甘くなっていく事が見られます。
ですから、開咬の患者さんは舌で歯を押す習慣も治しておかないと、治療後に少しづつ前歯の噛み合わせが崩れてしまうのです。この部分に関しては写真のような舌の機能を抑制するリテーナーもありますが、効果は保証できません。結局、開咬は治療中からお口の機能改善の練習をしなくてはなりません。それをMFT(口腔筋機能訓練)と言います。