【副作用】矯正治療による歯根吸収
矯正治療ではわずかに歯根が短くなる事があり、一部の方はレントゲンでも明らかになります。
歯の根っこが短くなる歯根吸収
影響は少ないのですが、頻度が高いリスクとしてあげられるのが「歯根吸収」です。これは骨に埋まっている歯の根っこの部分「歯根」が、矯正治療により吸収して溶けていってしまう現象です。
矯正治療は歯の動きとともに歯根も、アゴ骨の中を動きます。歯根が動く側の骨が溶けて歯根が動き、反対側の骨が作られるという作業が、治療中は繰り返されています。このメカニズムの最初は、歯のまわりにある血管の膜である「歯根膜」の中にいる「破骨細胞」がまわりの骨を溶かす作業から行います。ですが、この破骨細胞は、同時に歯根も溶かす作用もあるのです。
【参考】昭和大学歯科薬理学研究センター
歯根吸収が起きる確率
基本的には歯根吸収は、全ての治療患者さんに多かれ少なかれ必ず起きています。ですが、レントゲン写真を見てもほとんどわからないレベルしか起きませんので気がつきません(放射線量の問題で行いませんが、毎回CT写真を撮影すればわかります)。レントゲン写真を見て歯根吸収が明らかにわかるのは歯根が1/3ほど短くなった場合です。私の臨床経験上、割合としては矯正治療患者さんの3%程度と感じています。発生しやすい場所としては上の前歯が一番起こりやすいと報告されています。次が、下の前歯と6歳臼歯になります。
吸収する量については、「歯根の元々の形態」や「治療による移動量」が関係していると考えています。まず、歯根が細長い場合は少しの吸収でも形が変わるので、レントゲン写真で分かりやすいという事があります。そして、圧下やトルクといった移動様式の場合、歯根を骨の中で大きく歯を動かさなくてはならないため、それだけ吸収する力がかかりやすいようです。まだ、詳細には明らかにはなっていませんが、研究では遺伝子も関係しているという報告もあります。
矯正治療以外の歯根吸収
矯正治療による歯の移動によって起こる歯根吸収以外にも、アゴ骨の中にある永久歯が生えようと移動する事によっても起こる事があります。これは、骨の中の歯には「歯嚢」といって、まわりが膜に覆われています。この膜の中に歯骨細胞が存在しており、歯が生える方向に向かって骨や、上にある乳歯を溶かしていきます。この歯の生える向きが、正常方向と異なっていた場合は、誤って既に生えている永久歯の歯根を溶かしていく事もあるのです。上の犬歯や親知らずが生える時によく起きます。
歯根吸収の対処法
では、歯根吸収が強く起きてしまった場合は、その後どうなるかというところですが、答えは「すぐに治療が必要になるほどの問題にはならない」です。そのまま、短くなり続ける事はなく、治療後に吸収が止まる事がほとんどです。その後は、ゆっくりと残った歯根の鋭利な部分が吸収され落ち着きます。
結局、歯根が短くなってしまっても、その後の口腔ケアを怠り歯周病になってしまい歯槽骨を早めに失ってしまうという事などがない限り、「歯の持ち」に関しては変わりません。当院では、治療開始から1年後程度にレントゲンを必ず撮影し、治療経過を確認しています。強い歯根吸収像がある場合は、治療方針を再検討する事もあります。
また、短根歯と呼ばれる歯根がもともと短いケースの場合には、最初から歯根に負担がかかりづらい治療方針を選ぶ事になります。
▶︎短根歯の治療方針についての論文(原著:牧野正志)