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【副作用】矯正治療による歯髄炎・歯髄壊死

■まきの歯列矯正クリニック 院長 牧野正志

矯正治療による歯髄壊死のリスク

矯正治療中に歯の移動と共に神経血管が切れてしまい壊死する事があります。
全治療患者さんの中で1%以下というかなり少ないリスクである「歯髄壊死」について解説します。

歯の神経が死んでしまう歯髄壊死とは

 健康な歯には必ず歯髄と呼ばれる神経血管が通っています。虫歯が進行すると歯質だけでなく歯髄まで細菌の感染が起こります。その結果、炎症反応が起こり歯に痛みが走ります。これを放置しておくと最後は、歯髄が壊死し、歯の色の変色を起こしたりします。この歯の神経血管が失活し回復不可能になる状態を「歯髄壊死」と言います。

<歯髄血管が切れる歯髄壊死>

 この歯髄壊死ですが、かなり少ないのですが矯正治療によっても起きる事があります。前兆もなく突如歯髄炎が発生し、そのまま神経血管が失活してしまいます。一時的に強い痛みを感じる事もありますが、細菌感染がないため痛みもない事もあります。一旦、前歯が赤黒く変色したかと思えば、しばらくすると歯の色が段々薄い灰色に変色し、歯髄の生活反応がなくなり判明します。

矯正治療中の歯髄壊死

 矯正治療中の歯髄壊死全てを、矯正治療が原因なのか特定する事は難しいです。ただ、年単位の治療ですので、矯正治療が原因である可能性が否定はできません。後発部位としては上の前歯が多いです。前歯は奥歯と異なり歯髄が1本である事も歯髄壊死の可能性を高めています。年齢・最初の歯並び・矯正力の強さ・歯の動く量など特に関係なく発生します。

 若干ですがワイヤー矯正装置よりマウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】の方が発生率は高いという報告もあります。マウスピースは、歯への矯正力のコントロールの管理が難しい事と、着脱時に強い力がかかる事が理由とされています。

 当院の経験上は、上の前歯を「圧下」といって歯を歯茎方向に沈める力をかけている時に発生する事が多いような気がします。これは、元々難しい歯の移動様式であるのに加え、歯髄血管の入り口である歯根の先に圧迫するような強い力かかるからだと考えています。

対処方法

 実際、矯正治療中に「熱いものがしみる」など歯髄壊死の手前の急性歯髄炎症状や歯髄充血認められる場合は、一旦矯正治療の力を弱めます。歯髄充血が治ると、まれに歯の色が元に戻り回復する事もあるのですが、残念ながら多くの場合は歯髄血管が損傷し歯髄壊死が発生します。歯の色は若干灰色に変色します。

 その後しばらくして、歯根部の歯茎が腫れてくるような症状が出る場合は、一般歯科医院にて急いで根管治療(歯根の治療)を受けていただきます。この費用は矯正治療の保証の対象にはなりません。

 常に歯髄壊死が起こる前に何か症状が出るとは限りません。前回の通院時には問題なかったのに、1ヶ月後に突如、膿のふくろが出現することもありますし、矯正治療を終了してから半年後に現れる事もあります。

歯髄壊死・歯根囊胞
<治療後に黄色丸の部分に歯髄壊死による膿のふくろが見える。変色はないが前歯の神経血管が壊死している可能性がある>

 歯の変色が残ってしまった場合は、漂白(ウォーキングブリーチ法)で改善を期待します。歯の内側から漂白剤を浸透させる方法で、ある程度の改善が期待できます。自由診療で1歯3万円前後になります。すでに大きく修復治療が行われている歯の場合は、セラミックの被せ歯により調整します。当院ではどちらも提携歯科医院をご紹介するかたちになります。

歯髄壊死の発生率

 当院の経験ですと1000人中で疑わしいものも含め8人いました。つまり発生率は0.8%程度と言えます。年齢や症例の難易度などにも相関性はありません。治療から1年後のメンテナンス中に急に上の前歯根元の歯茎が腫れ、レントゲン写真で見ると歯根の先に膿の像が写っていたというケースもありました。そのまま根管治療を一般歯科医院に依頼し、歯の変色もありましたので漂白もしていただきました。

奥歯の中心結節の破折

 小臼歯という奥歯には、中心結節といい噛む面の真ん中が著しく尖っている事があります。この場合は、矯正治療をするしないに関わらず、突起が折れてしまう事で歯髄壊死を起こす可能性が非常に高いです。矯正治療の管理中でしたら、少しづつ突起を研磨して歯髄壊死を防ぐという事を行いますが、それでも突如、突起が破折する事があります。中心突起をみつけたら、早めに一般歯科を受診し研磨をするか、折れないように外堀を埋めてもらうかをした方が良いです。

中心結節
<矯正治療中に中心結節を研磨した例>
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