床矯正はいつまで効果があるのか?
小学生後半になると生えかわりが進み、床矯正装置を維持する歯が少なくなることにより適合性が悪くなり拡大効果が少なくなっていきます。また、この期間に床矯正装置の使用を止めてしまうと後戻りをしてしまいます。
床矯正装置
床矯正装置は、小児矯正治療で一番クラシックな装置になり、多くの歯科医院で使用されています。
写真は全て小学校2年生のお子さんに装着予定の床矯正装置になります。最近は、既製マウスピース型矯正装置【プレオルソ】の方がお子さんの矯正装置としては主力となってきたため、少し減ってきました。
子供のスペース不足=床矯正装置?
小児矯正でのスペース不足の治療法は、外側への歯列拡大が一般的です。よく「あごを広げる矯正装置」と言われている取り外しの床矯正装置がこの治療方法に当てはまります。ただし、この床拡大装置の効果で広がっているのは「あご」ではなく、「歯列とそのまわりの歯茎」ということがほとんどです。
※骨格は変わりませんが厳密には歯のまわりの骨は多少変化します。
つまり、床矯正装置骨格を変える力はほとんどなく、拡大量についてもそれぞれのケースよって限界というものがあります。これを通り越してしまうと、歯根の位置は変わらず、歯の頭の部分のみ外開きに移動していくだけになります。ここまで歯並びを広げてしまうとだんだんと上下の奥歯の接触点が減っていき、かみ合わせが著しく悪くなってきます。また、中学以降もそのまま長期にわたってを使用し続けると歯茎が下がってしう歯肉退縮を起こす事があります。床矯正装置というのは適応症と適応年齢というのがあり、「こどものスペース不足=床矯正」というわけではないのです。
拡大床装置の作用機序
床矯正装置は、床部(プレート)と呼ばれるプラスチックに近い薄い材料部分に、クラスプと呼ばれる歯にかける金属のフックがついています。床部は真ん中で二つに割れており、中心部に「拡大ネジ」と呼ばれる手動のスクリューがついています。
このスクリューを専用のキーで回すと床部の割れ目が開き、少し横幅が広くなります。そのまま装着すると、床部が歯並びを横に少し押します。これを決められた日にちで少しづつ行う事で歯並びが拡大していきます。量としては1回の操作で約0.25mmほど横に広がります。
例えば、1週間に1回拡大操作を行うと、大体1か月で1mm歯並びが拡大する事になります。拡大床矯正装置でどれくらいまで広がるかというと、症例にもよりますが、奥歯が横に傾斜しすぎない程度で拡大できる量は、6〜8mmぐらいではないかと考えます。
たまに、「あごが広がり顔が変わるのでは?」と質問される事もありますが、床矯正で骨格は広がりません。つまり、歯並びが広くなっていくだけであごや顔は広がっていきません。
いつまで効果があるのか?
床矯正装置はまだ下の乳犬歯(下の前から3番目)が生え変わっていない小学生低学年向けの装置の一つです。まだ生え変わっていない乳歯を固定歯にして歯並びを広げます。この時期は、これから永久歯に生え変わる前なので、そのまま歯の下の歯茎も比較的簡単に再形成されます。
その後、側方歯群交換期といって横の部分の歯の生え変わりが始まると、固定歯がなくなり装置の不具合が多くなってきます。「歯がグラグラして使えない」や「永久歯が生えて来たところから装置が上手く入らない」などのトラブルが頻発してきます。ですから、小学校高学年は歯列拡大が難しく、床矯正装置の適応時期ではありません。
その後、中学生以降で永久歯列になってからは床矯正装置による治療は、歯の動くスピードが遅く効果が少なくなってきます。取り外し装置による継続治療を希望の方はマウスピース型矯正装置を使用した2期矯正に移行することが望ましいと言えます。
生えかわり前に余分に広げても…
小児期に歯列拡大を行なっても、歯並びは残念ながら戻ります。時間とともに歯列は段々狭くなっていってしまうからです。広げた歯並びをもとに戻らないようにするためには、保定といってその後も取り外し式の矯正装置を使用し続けなくてはなりません。ですが、この装置もたった1か月程度使用できない時期があるだけで、簡単に合わなくなってしまいます。そうなると再作成するか、そのまま何も使用せず待機するかのどちらかになってしまいます。
海外文献などでも、小児期の拡大矯正治療は戻ってしまうという見解が一般的です。早期から床矯正治療を行うということは、一生取り外しの矯正装置を使用しなくてはならなくなるということでもあります。
そうすると、治療開始前に後戻りを考え何mm広げるといった計算自体ナンセンスである事が多いです。