40代、50代、ミドル世代の矯正歯科治療

 「私の年齢でも歯列矯正治療は可能でしょうか?」
 40〜50代のミドルの方からこういった質問をよく受けます。答えはもちろん可能です。歯列矯正に年齢制限はありません。

本当に何歳でも矯正治療はできるの?

40代、50代の矯正相談の増加

 20年前であれば、40代で虫歯や歯周病で歯を何本か喪失しまていることが多く、歯並びの不正を改善を希望しても、先に一般歯科治療を行わなくてはなりませんでした。それが、1989年より厚生省と日本歯科医師会が推進している8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという運動)によって歯の予防意識が高まり、矯正治療が可能である患者さんの割合が上がりました。そこに、コロナ禍から続く美容への興味と健康に対するつい良い関心が相まって、近年ミドルエイジの矯正治療相談が増加しています。

矯正治療には健康な歯と歯茎が必要
    ●定期検診を受けていれば大丈夫

 矯正治療というのは、奥歯まで歯が残っており、健康な歯茎があれば誰でも受ける事ができます。信じられないとは思いますが、当院でも60代の方が矯正治療を今現在受けています。

 歯列矯正治療は、中高生のお子さんなど10代の方がするイメージが強いと思います。数十年前は、矯正治療の種類や治療方針に選択の余地も少なく、まわりに矯正治療の体験者もいる事もマレでしたので、治療の情報を得る事が難しかったと言えます。ですから、限られた患者さんしか治療を受ける事ができなかったのです。

 その後、成人して社会人や家庭を持ってから矯正治療をしたいなと思っても、今度は時間や費用を用意する事ができません。そうしているうちに40〜50代になってようやく、生活に余裕ができ矯正歯科医院に相談に来られるのです。「お子さんの矯正治療が終わったので、ようやく自分の番になりました」という2世代で矯正治療を受けていただいている方もいらっしゃいます。

 「大人になってからでは歯が動かないのではないか?」と質問される方もいます。ですが、そんな事はありません。歯の動くスピードは、中学生などの成長期の方が確かに早く、その後、年齢と共に遅くなっていきます。そして、20代を超えた後からは緩やかに遅くなります。ですが治療期間が2倍になったりする事はありません。当院としては治療期間が最長でも2年半以内に収まるように、治療方針を調整する事で、平均2年程度で完成させます。

40代以上の矯正相談数
40代以上の矯正相談数 2021年
●40歳以上の方 2021年月別初診相談人数表

意外と抜歯は必要ない事も多い

矯正治療・抜歯
●抜歯をしない方針の方が40-50代の矯正には向いている

 大人になると歯を失いたくないという願望は強くなってきます。矯正治療というと、子供の時期から始めた方が抜歯する率が低いという事を聞くことがあると思います。ですが実は、40-50代の方の方が抜歯をしない矯正治療で対応できる可能性が高まります。その理由は大きく2つあります。

前歯を後ろに引っ込めなくて良い事が多い

 理想的な口元のバランスは年齢によって異なるという事です。10代の方はどちらかというと前歯が少し後ろに引っ込んでいるような、横顔のE-lineが理想的な歯並びを好みますので、小臼歯を減らす抜歯矯正治療方針を選択する傾向が高いと言えます。抜歯を併用する事で、歯並びが小さくなり少し小顔にもなります。

 一方、40〜50代の方は、ある程度、口元に張りを作った方が良いため前歯は少し出ているくらいがちょうど良かったりします。ですから、デコボコが強かったり、かなり出っ歯な歯並びでない限り、できるだけ歯を抜かない治療方針を選択します。これは前歯を後に引っ張る抜歯矯正後に、前歯が引っ込みすぎて、ほうれい線が目立つようになり老けて見える事を心配されている患者さんはとても多いからです。

 また、エイジングとともに歯列は縮小していきます。抜歯方針は歯並びの前後だけでなく横幅も狭くなり、舌の置き場所が狭くなってしまうという点も考えなくてはなりません。

ほうれい線・矯正治療
●前歯を後方移動させると、ほうれい線が目立つようになる事がある

ブラックトライアングルの発生

 40〜50代の方は、10代に比べると歯茎のラインが下がっている事が多く、普通に歯を並べるとブラックトライアングルと呼ばれる歯茎と歯の間に隙間が目立つようになる事がとても多いです。特に小臼歯抜歯矯正を行うと前歯の傾きが内側に向くため、この空隙が目立ちやすくなります。

40代・50代矯正・ブラックトライアングル
●歯と歯茎の三角形の隙間

 ブラックトライアングルの対処法は歯にヤスリをかけ形態修正を行い、逆三角形型の歯の形をホームベース型に、歯と歯の接触面積を広くする必要があります。この作業をIPR(ストリッピング)と呼び、同時に歯並びの排列スペースも獲得する事ができます。10代の方と比較して40代以上の方の方が、歯の神経も活発ではなく治療歯も多いため、多くIPRを行う事ができます。さらに天然歯のIPRは、0.5mm以内の研磨ですが、金属の修復歯歯の場合は大きく削ることが可能です。

IPRでブラックトライアングル軽減
●IPRでブラックトライアングル軽減

もし抜歯するとしても寿命の短い歯から

40代矯正・抜歯の選択
   ●抜歯の選択基準が異なる

 できるだけ抜歯をしない矯正治療を目指しますが、既に治療済みの銀歯などで、歯の根っこに膿を持っているような歯の場合は、あえて抜歯矯正治療にする事もあります。これは、残しておいても寿命が短い歯は、再治療にならないように優先的に抜歯対象にする形です。

 また、親知らずに関しては、10代と異なり歯並びを崩す要因ではないため、奥歯の歯並びを動かすためのスペースが足りない場合のみ抜歯します。特に歯並びに影響がなく、横に向いて歯茎の奥深くにある場合はそのままにしておく事が多いです。

矯正治療が難しい方もいます

40代・50代矯正治療できない

 ただ、全ての40〜50代の方が矯正治療を受ける事ができるわけではありません。以下のようなケースは治療のゴール地点を妥協したり、矯正治療の対象外になるため、積極的に治療を勧めないことがあります。

 このような内容は、かかりつけの歯科医院でも相談できます。ミドルエイジの方で矯正治療を受けるためには、日頃から一般歯科医院で定期健診を受けいている事が望ましいと言えます。

40代・50代・矯正治療のメリット・デメリットのバランス
●メリット・デメリットのバランス

 矯正治療はメリットばかりではなく、デメリットや副作用もあります。私たちは、初診相談で良くヒアリングを行い、このバランスをみて治療を勧めるか判断をいたします。

 また、患者さんがあまりに美容分野の領域の治療を希望される場合も、矯正治療のは対象外になります。「スマイル時の歯の見え方」「あごの形・えらが張っている」「顔の非対称」「歯の形」などの改善希望の場合は、審美歯科や美容外科の受診を勧めることがあります。

マウスピース型矯正装置も対応

40代・50代インビザライン

 矯正装置は、適応症であればマウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外※】も使用する事が可能です。それは40〜50代の方がマウスピース型矯正装置のメリットを享受しやすいからです。

 ただし、全ての方に使用できるわけではありません。歯根を大きく動かさなくてはならないような難しい症状には、ワイヤー型の矯正治療を推奨することもあります。

※完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります(詳しくは)。

目立ちづらい

 「家族にはバレたくない」という理由でマウスピース型矯正装置を選択する方も、当院に今までいました。子とにかく、「今更あのワイヤー型装置をつけるのは恥ずかしい」という意見はかなりあります。

口内炎が少ない

 もちろん従来型ワイヤー型装置で矯正治療をする40-50代の方はいらっしゃいます。結局、マウスピース型矯正装置を選択される方は、見た目の問題よりも、口の中に針金の装置が入る事によりできる口内炎や食事の取りづらさを気にすることが多いです。人は年々唾液の量が減ってきますので、食事の際に粘膜の痛みを感じやすくなります。マウスピースは粘膜の接触痛は少なく、取り外し可能なので食事が楽と言えます。

治療歯やブリッジを外さなくて良い

 ワイヤー矯正治療で問題となることは、矯正装置の接着の問題で、被せ物やブリッジ(補綴歯)などを一度仮歯におきかえてから治療を開始しなくてはならないことです。治療歯はやりかえの際は、多少なりとも歯を削り直しが必要になるため歯にダメージが加わります。また、自由診療の補綴歯を入れたばかりの場合は、無駄になってしまいます。歯の状況にもよりますが、マウスピース型装置は、補綴歯を撤去せずに治療することができます。

自己管理ができる。

 10代の方はここが難しいところです。マウスピース型装置は装着時間も交換も自己管理になります。学生の場合、久しぶりの診察で聞いたら、「全然矯正装置を使ってなかった」、なんていう患者さんもたまにいます。それに比べると40〜50代で矯正治療を始められる方は、しっかりされている方がとても多く良好な治療結果が生まれます。治療後の後戻り予防のリテーナーもしっかりと使用してくれます。

前歯のかみ合わせを治すのが得意

 エイジングとともに前歯のかみ合わせは、悪くなってくることがあります。特に日本人はハイアングルといっても面長のお顔立ちが多いため、上下の前歯が噛めなくなる「開咬」という症状になりやすいです。開咬はアンテリアガイアンスといって、前歯によるあごの誘導がなくなるため、奥歯に負担がかかりやすいため治療が望ましい歯並びです。マウスピース型矯正装置はその特性から開咬の治療を得意としています。

再矯正治療に向いている

 昔に矯正治療をした事があって、年月と共に元に戻ってきてしまったという方は増加しております。一度矯正治療を受けた事がある場合、歯根といって歯の骨に埋まっている部分の位置には問題が少ない事が多いため、全く最初から治療を始める方より、比較的短期間で終了できる事があります。

50代の矯正治療症例

 50代の方で矯正治療を検討する理由としては、「できるだけ歯を長持ちさせたい」という希望が多いです。歯並びは年齢とともにに変化していきます。

50代治療例1 女性

 開咬といって奥歯しか噛んでいないケースです。徐々に負担がかかる歯が痛んできはじめており、下の奥歯の補綴物(かぶせもの)に破損がみられます。

 初診相談を受けて、矯正治療を始めるまで半年近く考えられてから、意を決して治療を始めました。10年以上前に入れた自由診療の補綴物をやりかえなくても治療が可能なマウスピース型矯正装置を選択して、ゆっくりと治療は行いました。

50代女性インビザライン矯正治療例
50代女性インビザライン矯正治療例
50代女性インビザライン矯正治療例
50代女性インビザライン矯正治療例
50代女性インビザライン矯正治療例
●治療後2年経過時

<症例概要>
主訴:噛めない
年齢・性別:50代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:開咬・叢生
治療装置マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
治療期間:2年7か月
アライナー枚数:55+13ステージ (10日交換)
リテーナー:上下顎クリアタイプ+下顎フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
その他の副作用とリスクについて▶︎

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

 実は治療開始時期は、一時的にもっと噛めなくなり、食事が辛い事もあったそうです。それでも、若い方と同じ治療ができる喜びがあったので、モチベーションを維持する事ができたそうです。治療後も、そのまま当院に3か月に1回はメンテナンスに通っていただき、噛み合わせのチェックとクリーニングを定期的に行なっております。2年以上経って60代に入っても、一度治した歯並びは大きくは変わらず予後は良好であり、治療を行なった意味は十分ありました。

50代治療例2 男性

 近くの開業医からご紹介いただきました患者さんです。「最近肉が噛めなくてなってきた」という主訴です。こういった中年で急に起こる開咬は、さまざまな原因が絡み合って発生します。治療方針は奥歯の強い当たりをとっていく治療になります。少し治療期間はかかりましたが、元の噛み合わせの状態い近いところまで回復しました。

50代男性インビザライン矯正治療例
50代男性インビザライン矯正治療例
50代男性インビザライン矯正治療例
50代男性インビザライン矯正治療例

<症例概要>
主訴:噛めない
年齢・性別:50代男性
住まい:千葉県八千代市
症状:開咬
治療装置マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
治療期間:2年6か月
アライナー枚数:43+33+31+34ステージ (7日交換)
リテーナー:上下顎クリアタイプ+下顎フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
その他の副作用とリスクについて▶︎

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

50代治療例3 女性

 ご家族の方が矯正治療で歯並びが治ったのをみて、ご自身も同じように矯正治療を希望されました。歯並びの不揃いの量が多いのですが、口元のバランスをみて抜歯は併用せずにIPR(ストリッピング)にて歯を小さくしてスペースを確保しました。

<症例概要>
主訴ガタガタ
年齢・性別:50代女性
住まい:千葉県八千代市
症状:叢生
治療装置マウスピース型矯正装置(アライナー装置)
治療期間:2年2か月
アライナー枚数:60+36+14ステージ (7日交換)
リテーナー:上下顎クリアタイプ+下顎フィックスタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
その他の副作用とリスクについて▶︎

※マウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置は完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。

平日昼間がご相談しやすいです

 40〜50代の方は当院では平日のお昼前後でお越しいただく方が多いです。学生や社会人の方でこの時間に通院される方は少ないので、比較的空いています。ゆっくりと初診カウンセリングのお時間を取る事ができます。「私もまだ、矯正治療ができるのか?」気になる方は、ぜひご相談下さい。