当院のマウスピース型矯正治療をまとめた歯科医向けの専門書「アライナー矯正治療戦略」が出版しました。

アライナー治療戦略

 歯科矯正治療の世界では、透明なマウスピース型装置「アライナー」の台頭により大きな変革が起きています。このアライナー矯正は、目立たない審美性の高さから患者さんの関心を集める一方で、適切な知識と技術なしには理想的な治療結果が得られない難しさも併せ持っています。そのような中、院長牧野と吉野智一先生による渾身の一冊は、この分野において画期的な指南書となることと考えられます。

 本書は単なる症例集ではありません。「メカニクスから考える治療を成功に導く戦略体系」というサブタイトルが示す通り、アライナーによる歯の移動の力学的原理から解き明かし、その理解に基づいた確実な治療計画の立案方法を提示しています。 従来の矯正治療とアライナー矯正の両方に精通した著者の先生方が、科学的根拠に基づいた治療戦略を224ページのボリュームに凝縮した労作です。

 特筆すべきは、著者らの臨床哲学す。「イメージとメカニクスがわかれば、治療はぐっとスムーズに、治療結果はぐっと理想的になります」というフレーズには、長年の臨床経験から導き出された確信が感じられます。本書では「なぜ歯が動くのか」という基礎的な問いから、「採得資料やソフトウェアによる治療予測のどこを見て判断すべきか」という高度な臨床判断まで、段階的に解説されています。

 初学者にとっても理解しやすいように配慮されていることも、本書の魅力の一つです。アライナー矯正の基本原理から始まり、実際の臨床での応用まで幅広くカバーされており、経験の浅い歯科医師でも着実にスキルを積み上げていける構成となっています。また、豊富なカラー写真や図解により、治療のポイントが視覚的に理解しやすくなっていることも特徴です。

 近年、アライナーを用いた不適切な矯正治療に関する問題が顕在化する中、本書の登場は時宜を得たものと言えます。特にII級不正咬合(上顎前突)など具体的な症例に対する戦略が詳述されており、実践的な指針として臨床現場で即座に活用できる内容となっています。また、日々の臨床における注意点やトラブルシューティングについても詳しく解説されています。アライナー治療は長期に渡るため、途中で予期せぬ問題が生じることも少なくありません。そのような状況で、どのように治療計画を修正し、最終的な目標達成に向けて進んでいくか、著者の経験に基づいた知恵が詰まっています。本書には患者さんとのコミュニケーションの観点も織り込まれており、治療の科学的側面と臨床的コミュニケーションの両方を理解することは、現代の歯科医療において不可欠です。

 本書が提唱する「予測実現性の高い治療計画」という概念は、デジタルシミュレーションと実際の治療結果のギャップという現代のアライナー矯正における最大の課題に対する解答となっています。3Dスキャンやシミュレーションソフトウェアの進化は、より精密な治療計画を可能にしつつあります。本書ではそうした最新技術の活用法や、今後の展望についても触れらています。

 「アライナー矯正治療を本当に始めるなら、まずはこの一冊」という惹句は決して誇張ではありません。 アライナー矯正治療に携わる歯科医師、あるいはこれから取り組もうとする臨床家にとって、本書は単なる参考書を超えた必携の指南書となるでしょう。時間と力のコントロールを通じて、患者さんにより良い治療結果をもたらすための知恵が詰まった一冊です。また、日本のアライナー矯正治療の水準向上にも貢献する書籍として、歯科医療界全体に影響を与えることでしょう。専門的な治療技術が適切に普及することで、より多くの患者さんが質の高い矯正治療を受けられるようになります。その意味で、本書の出版は単なる専門書の発行以上の社会的意義を持つとも言えます。世界的にも注目されているアライナー矯正治療において、日本の歯科医療の質の高さを世界に示す証しになることも期待しています。