
マウスピース型矯正装置治療解説
マウスピース型矯正装置【インビザライン・薬機法対象外】の症例です。治療計画から治療経過まで詳しくみることができます。こちらは、院長牧野が執筆した「アライナー矯正治療戦略」のケース別戦略の項目順に解説した治療例になります。したがって歯科医療者向けの専門的内容になります。
※マウスピース型矯正治療を希望の方は必ずお読み下さい。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)は医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けいていない未承認医薬品です。マウスピース型矯正装置(インビザライン)はアライン・テクノロジー社の製品であり、インビザライン・ジャパン社を介して入手しています。
国内にもマウスピース型矯正装置として医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けいているものは複数存在します。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)は1998年にFDA(米国食品医薬品局)により医療機器として認証を受けています。
マウスピース型(インビザライン)は完成物薬機法対象外の矯正歯科装置であり、ごく希ですが、副作用が起きてしまった場合などは承認薬品を対象とする医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。
非抜歯矯正治療
【治療シミュレーション①】
- 上顎は側方歯にIPRを入れながら順次遠心移動
- 固定源のII級ゴムは12時間使用
- 下顎前歯はIPRをいれて唇側移動量減らす
【治療シミュレーション②】
- 下顎前歯をルートトルクを入れて圧下させる
- 左側のII級ゴムを使用して正中線を一致させる
- 21⏌にアタッチメント設置して近遠心歯軸を調整
【治療ポイント】
失敗が少なくオーソドックスなのは軽度II級叢生症例です。
以下のポイントを事前に確認しておくことが重要です。
●叢生量が軽度で著しい捻転歯がないか
●V字歯列のようにアーチフォームの改善で排列が可能か
●歯列拡大に耐えられる歯周組織をもっているか
本症例のようなタイプであれば、非抜歯でも前歯を後方牽引することができます。
【症例概要】
主訴:上顎前突・叢生
年齢・性別:30代男性
症状:II級傾向・下顎後退・下顎叢生
治療方針:上顎臼歯遠心移動・IPR
治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)
治療期間:1年10か月
アライナー枚数:50+34ステージ
リテーナー:上フィックスタイプ+上下クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
バーティカルコントロール
【治療シミュレーション①】
- 上顎臼歯を遠心から順次圧下
- 臼歯関係の左右差は、右上にIPRを加え調整
- 下顎は移動量は最小限にしてII級ゴムの固定源に集中させる
【治療シミュレーション②】
- 再度上顎歯列を遠心移動
- 2⏊2を挺出させるためにアタッチメント設置
- 下顎前歯にIPRを加え舌側へ相対的挺出
【治療シミュレーション③】
- ショートのII級ゴムに変更し再々度の上顎遠心移動
- 1⏌に挺出用アタッチメントを設置
【治療ポイント】
アライナーの特性は臼歯を移動させとブラケット矯正治療と異なり臼歯が圧下します。
これを開咬改善に活かすことができます。
臼歯にクリアランスを作ることで下顎を前方回転できます(オートローテション)。
以下のメカニクスを理解して開咬を改善させます。
●前歯の相対的挺出と圧下を利用する
●遠心移動をさせると臼歯は圧下しオーバーバイトは深くなる
●保定中の後戻りの原因になる前歯の挺出移動は最後に行う
【症例概要】
主訴:上顎前突・開咬
年齢・性別:40代女性
症状:II級・下顎後退・開咬
治療方針:上顎遠心移動+圧下
治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)
治療期間:1年11か月
アライナー枚数:59+29+23ステージ
リテーナー:上下クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
上下小臼歯4本抜歯
4⏊4・4⏉4抜歯
【治療シミュレーション①】
- オーバージェットがあるためII級ゴムをアンカレッジにする
- 7番は遠心傾斜しているため、速度を落として近心傾斜移動させる
- 前歯を早期接触させないようオーバージェットは残す
【治療シミュレーション②】
- 下顎前歯を唇側傾斜させてオーバーバイト改善
- 正中線を合わせるため左側は2箇所にII級ゴムを使用
【治療シミュレーション③】
- 5⏊5をV字ゴムで挺出させ咬合を緊密化
- 下顎にIPRを付与しオーバージェットを付与
【治療ポイント】
上下顎7番が遠心傾斜は、前歯の後方移動時に臼歯が近心傾斜する反作用を上手く利用することで、比較的容易に改善することができます。よって、臼歯が離開するような大きなリカバリーはなく治療が完了しました。やや深い前歯のオーバーバイトはII級ゴムの反作用を利用した下顎前歯の前方移動時の相対的圧下にてコントロールしています。抜歯症例は大臼歯を固定源として利用できるかが成功の鍵になり、初診時の歯軸の向きは重要になります。
【症例概要】
主訴:上顎前突・叢生
年齢・性別:20代女性
症状:下顎後退・下顎叢生
治療方針:抜歯空隙閉鎖
治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)
治療期間:2年6か月
アライナー枚数:60+39+17ステージ
リテーナー:上フィックスタイプ+上下クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
リカバリー治療
4⏊4・4⏉4抜歯
【治療シミュレーション】
- オーバージェットが少なく下顎の後方移動量が多い
- 上顎臼歯が近心傾斜しているため、III級ゴムの使用しない
- 3⏋は歯根が近心にあるため遠心傾斜は許容する
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
【治療ポイント】
初回のアライナー使用後に、右上臼歯が近心傾斜し臼歯離開が発生します。よって、追加アライナーではV字ゴムやN字ゴムを多用してリカバリーを行ないました。上顎前歯より下顎前歯の後方移動量が多い症例では、前歯の早期接触もあり治療途中に臼歯が離開するリスクが高いため難しいと言えます。アライナー矯正ではオーバージェットを多めに設定しなくてはならないため、交叉咬合やIII級症例では、どうしても上顎臼歯の近心移動が必要になります。
【症例概要】
主訴:前歯のがたつき・下唇の前突
年齢・性別:20代女性
症状:上顎叢生・2⏌クロスバイト・5⏌湾曲根
治療方針:抜歯空隙閉鎖
治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)
治療期間:2年5か月
アライナー枚数:59+22+22ステージ
リテーナー:上フィックスタイプ+上下クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
難症例
4⏊5・4⏉4抜歯
【治療シミュレーション】
- 上顎歯列正中線の右方移動させるため⎿5を抜歯
- III級症例であるため左上臼歯を近心傾斜させないように注意
- 60ステージ以内で収まるよう順次的に抜歯空隙閉鎖
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
【治療ポイント】
非対称症例は左右の臼歯は異なる動きを行わなくてはなりません。よって、このような下顎偏位症例は、個々の歯軸を設定できるアライナー矯正治療の適応症になります。途中、舌側転位している⎿2が唇側移動ととに相対的圧下してしまったため、前歯の顎間ゴムで挺出させ前歯の被蓋関係を確立しました。下顎前突の骨格のため、3⏉3の歯軸は遠心傾斜移動になってしまいます。
【症例概要】
主訴:前歯のクロスバイト
年齢・性別:10代女性
症状:臼歯関係III級・上顎叢生・⎿2クロスバイト・下顎右偏
治療方針:抜歯空隙閉鎖
治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)
治療期間:2年3か月
アライナー枚数:60+48ステージ
リテーナー:上下クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
叢生・3本抜歯
4⏊4・⎾4抜歯

【治療シミュレーション】
- 左はII級関係が強いため下顎は非抜歯にしてII級仕上げ
- 前歯の後方移動量は少ないため最適アタッチメント使用
- 8番までアライナーでとりこみ固定源に設定する
※マウスピース型矯正歯科装置(インビザライン)は、完成物薬機法対象外の矯正装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
【治療ポイント】
ハーフクラスIIを超えるII級は、上下小臼歯抜歯でI級に持っていくことは至難です。8番も萌出していることからII級仕上げを選択しました。このような完全に2番が舌側に入ってしまっているケースはワイヤー矯正治療では、ブラケット装置を接着させるのに苦戦しますが、マウスピース矯正装置の適応症と言えます。
【症例概要】
主訴:前歯のクロスバイト
年齢・性別:40代男性
症状:右臼歯関係II級・上顎叢生・⎿2クロスバイト・下顎左偏
治療方針:抜歯空隙閉鎖
治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン・薬機法対象外)
治療期間:2年6か月
アライナー枚数:60+41+28ステージ
リテーナー:上下クリアタイプ
治療費用:990,000(税込)
代表的副作用:痛み・治療後の後戻り・歯根吸収・歯髄壊死・歯肉退縮
矯正歯科治療に伴うリスクや副作用について
① 治療開始直後は矯正装置による不快感、痛み等があります。1、2 週間以内で慣れることが多いです。
② 歯の動き方には個人差があります。予想された治療期間が延長する可能性があります。
③ 矯正装置の使用、管理、定期的な通院など、矯正治療には患者さんの協力が治療結果や治療期間に影響します。
④ 治療中は、むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が発見されることもあります。
⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきが下がることがあります。
⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
⑧ 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
⑨ 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
⑩ 治療中に状況が変わり、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
⑪ 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
⑫ 矯正装置を誤飲する可能性があります。
⑬ 矯正装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
⑭ 治療終了後、リテーナーを指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
⑮ 治療終了後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
⑯ 10代のあごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
⑰ 治療後に親知らずの影響で歯並びが変化することがあります。。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
⑱ 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。
※その他の副作用とリスクについて▶︎